萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

secret talk46 独占act.5 ―dead of night

2017-12-12 13:33:08 | dead of night 陽はまた昇る
隣に声を、
英二side story追伸@第5話 道刻


secret talk46 独占act.5 ―dead of night

月、雲隠れに露われる。

「月、出てきたな、」

笑いかけた隣、うつむいた黒髪に月が照る。
ゆるやかなクセっ毛を艶が波うつ、あわい水滴の光こぼれる。

「湯原、まだ髪が濡れてる、」

ベランダの風は涼しい、風邪ひかせたくないな?
そんな想いに光る黒髪きれいで、滴る光きらめいて惹く。

「ん…」

うなずいた首すじ一滴、光きらめく。
惹きこまれそうで、その肩かかるタオルに手を差しだした。

「ちゃんと拭いてないんだろ?タオル貸せよ、」

髪をぬぐう、その口実に触れてみたい。
願い笑いかけたベランダ、月光の横顔はタオル被った。

「…、」

タオルの端ぎゅっと君は掴む、その手すこし小さい。
横顔も見せないまま深い声つぶやいた。

「…ききたいことある」

コットンの青い翳ふかく、ちいさな声。
その声だけ聴きたくて英二はそっと言った。

「湯原なら俺、なんでも話すよ、」

なんでも話す、

そんなこと誰かに言うなんて、去年の自分なら考えられない。
それくらい遠い温もりのかけらが小さく言った。

「帰りは宮田ほとんど黙ってた…つまらなくなったのか?」

もしかして、気にしてくれている?

―湯原が、俺のこと?

寡黙で静かで、その穏やかさが好きだ。
けれど気にしてくれているのか不安になる、そんな君がなんて訊いた?

「つまらないって、どうして?」

訊き返しながら肌ふかく瞬く、鼓動ゆるく息吹きだす。
だって訊いてくれた、気にしてくれる、もう湧きだす期待に君が言った。

「俺といてつまらないなら、もう無理して誘わないでいい、」

声が冴える、月みたいだ。

そんなふう想えるのは言葉と、君の表情。
横顔はタオルの翳に見えない、それでも解るようで呼吸ひとつ笑った。

「それって湯原、つまらなくないなら誘っていいってこと?」

こんなのまるで、君が誘ってるみたいだ?
本当にそうならいい、願いにタオルの声が言った。

「…いいなら…ね…」

かすれそうな小さな声、でも聴こえた。
このために君は隣に来てくれた、そんなベランダに月が燈る。

―誘ってくれって言ってる?湯原、

月明りタオルが白い、その青い翳かくれる貌が見たい。
今どんな眼で隣にいるのだろう、君?


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