萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

secret talk9 愛逢月act.6―dead of night

2012-10-05 03:07:50 | dead of night 陽はまた昇る
※R18(露骨な表現は有りません)


波潮、さらわれて約束を



secret talk9 愛逢月act.6―dead of night

体が、波に攫われる。

抱きしめてくれる熱の肌は、波のよう。
この身を覆ってすべり、満潮に近よせ引潮に攫いこむ。
波うつ熱は体内に穿ち責めあげ、あまやかに芯に凝らせ、操らす手綱に苛み離さない。

「…っは…ぁ…っ、しゅぅ、た…」

吐息、名前よんで見上げる肩、あわく光る汗の向こうは薄闇の天井。
呼んだ名前に黒髪ゆらいで肩ふれる、やわらかな熱が胸元をなぞり、一点が吸われだす。
すわれるキスの甘さが肌にじんでいく、その狭間に歯の感触がふれた。

「…っあ、…っ、周太…ぅ、」

肌食いこむ熱に声こぼれだす、こんなことされたこと無いのに?
こんなふうに肌へ歯をたてるなんて許さなかった、けれどこの少年には許してしまいたい。
この願いのまま肌に熱きざまれる、熱い鼓動が素肌ふれる胸に伝わって、胸は噛まれる熱から放された。

「えいじ…ここ、あかくなっちゃった…、っ、」

可愛いトーンに言われながら、体内すりあげる熱は波おしよせる。
されるがまま犯される体に震えが浪うち、唇から声はあふれた。

「っ、…ぁぁっ、も、いきそ…っ、しゅ、うた…っ」

呼びかけた名前に、そっと肌を掌が撫でる。
そのまま芯に触れてくれる、その指がそっと根元を締め上げ捉えた。

「…っ、」

声にならない喘ぎこぼれて、芯に集まる熱が逃げ場を失う。
いま自分を締めるのは、この少年の指なのだろうか?そんな信じられない想いに黒目がちの瞳が微笑んだ。

「…まだだめ…えいじ、だめ、…もっとされていて?」

切ない眼差しが見つめてくれる、けれど締める指は離れない。
解放できない熱が体を廻らされ、逃げ場のない快楽が全身を浸しだした。

「…ぁ、し、ゅう…っぁ、ぁぁっ……ぅぁ、あ、」
「えいじ、すごくきれいな貌してる…だいすきえいじ…」

穏やかに声は告げて、深くへ楔が穿たれる。
その灼熱に喉逸らされて、背中を感覚が奔りだす。

「ぁ…っ、しゅ、うた…っぁ、」
「えいじ、…っ、」

愛しい声が重ねられて、芯を締める指ほどかれる。
腰に腕まわされる、挿しこみ退いていく律動が速められる、離れて合さる隠された肌は熱い。
幾度も幾度も楔は挿しこまれ続ける、退いては寄せる感覚が心に波の姿を映し出す。
朝に昼に黄昏に見つめた潮騒と波、それから愛しい指が拾いあげた薄紅いろ。
あの貝殻にこめた祈りが今、この瞬間にも見つめて繋がれた熱が愛しく切ない。

―…見て?ふたつ離れてないよ、この桜貝…こういうの、なかなか拾えないんだ
  周太、こんなふうに俺たち、ずっと一緒に離れないでいよう?何があっても、ずっとだ

海辺で交わした約束が今、体内に廻る熱の律動に結ばれる。
離れてまた合わされる肌の熱、繋がれたままの体に潮騒の約束が今、交わされていく。
その熱が昇らされて瞳の底に届いてしまうまま、眦から熱はこぼれおちた。

「…っ、」

ほら、泣いてしまった。

もう泣かないと決めていた、それなのに涙はこぼれだす。
この涙は快楽?それとも愛惜?それすらも解からなくなる感覚が大波に襲う。

「あぁっ」
「っ、えいじ…っ、」

上げた声に名前の声は重ねられ、灼かれる熱が迸った。

「…っ、ぅ、っ…ぁ、は…はぁ、っ…」

肩に吐息が波打ち、力が脱け出していく。
これで今夜は3度めの交情、ゆるめられた体は操られ余韻が甘く熱い。
この身の奥に愛しいひとを含んだまま、その熱がひどく幸せで微笑んだ英二を、黒目がちの瞳が見つめた。

「…えいじ、いっぱいかんじた?」
「…っ、ぁ…ん…もう無理ってくらい、きもちよかった…」

答えて見つめる先、幸せそうに笑ってくれる。
こんな貌を見せてくれるなら良かった、そう微笑んだ英二に、すこし我儘なトーンでねだってくれた。

「ね、えいじ?…このまま眠ってもいい?英二の中に入っていたい
「うん…いいよ、」

頷いて微笑んで、長い腕に体被さる肢体を抱き寄せる。
体内を微熱に挿しこまれたまま吐息こぼれだす、こんな今は夢だろうか?
そんな途惑いが気怠い体の浮遊感に尚更こみあげてしまう。

―俺が、誰かを体に受け入れたまま眠るなんて…他なら許せないだろうな

この自分が、体の支配を他に委ねることを許すなんて?
この自我は絶対にそんなことを許せない、けれど今、この時間は充足に微笑んでいる。
この体を覆う少年の肌は甘い熱に充ち、それが体内も充たしてくれる幸福は酷く甘くて、うれしい。

「…英二、今、つながれてるね」

そっと愛しい声がつぶやいて、胸元から顔をあげてくれる。
潤んだ黒目がちの瞳は微熱のまま見つめて、透けるような笑顔で囁いた。

「あったかい…つながれてるね、英二のなかに俺が入れてもらって…離れていても、こうして繋がれてるね…」

―離れる。

告げられる言葉の現実が、心引っ叩く。
もう2週間すこしで訪れる現実、その跫が鼓動のよう聴こえだす。
この告げられる別離の言葉に息が止められる。

「周太…」

ただ愛しい、その名前を呼んで抱き寄せる。
別離の言葉を今、このときは聴きたくない、今は現実から離れて夢、夢なら夢で構わない。
この夢のまま繋がれる楔の熱うかされて、無垢な少年の肌に抱かれて覚めない夢を見ていたい。

―だから今は、現実を言わないでよ?

今は言わないで、解かっているからもう言わないで?
この今の幸福な夢も現実、この現実に地続きなのは「別離」そして「死線」そう解っている。
解かっているからこそ自分は、この体を君に与えて自信を贈りたかった、その自信を抱いて生き貫き帰ってほしいから。
もう解っている、だから今は言葉を封じてしまいたい。その願いに抱きあげて唇ふれかけて、体内の熱が抜け落ちた。

「…っ、あっ」

抱きあげ近寄せる唇、けれど穿たれた楔は抜かれていく。
この唇をキスで繋ぎたい、その願いを叶えるなら交合の楔は外れてしまう。
この唇から現実の言葉を奪いたい、その見返りは繋がれた体を離されることだと言うの?

「周太、」

名前を呼んで抱きしめ、唇ふれ重ね合す。
そのまま反転して腕を伸ばし、小さなプラスチックのパッケージを指に掴む。
キス繋いだままプラスチックを掌に開け、自分の中心へと薄く纏わせ液に濡らす。
体ずらして伸ばした長い指、ふれる窄まりなぞり押入れ、ゆっくり撫でながら深めだす。

「…っぁ、え、いじ」

交わす唇のはざま愛しい声こぼれて、キスを深くする。
重ねた唇に熱を交わす、オレンジの香あまやかに舌からまり恋慕が心を裂いていく。
この香もキスも遠くなる?その予兆の跫が哀しくて、解かっているけれど耳を塞ぎたくて、キスのまま抱きしめた。

「周太、…っ、」

名前を呼んで、唇キスに塞いで、指を抜き取り腰を重ねる。
ゆっくり挿し入れる尖端から熱は絡みだす、抱きよせた腰にふるえ奔って少年の背が仰け反らす。
愛しいまま腰も背も抱きしめ、唇も繋ぎとめたまま体深く結んで、言葉ごと今この瞬間の夢へと攫いこんだ。

―俺が抱くなら出来るんだ、キスとファックを同時に…でも周太には出来ない

さっきは出来なかった、唇と体を同じ瞬間に繋ぐこと。
自分の方が大きい体、その体格差から恋人には出来ないことがある。
この可能と不可能も現実、この現実のまま自分は愛しいひとを包んで、護りたい。

「周太、愛してる…離れないで、…っ、離さない…」

想いを告げてキスをする、その唇をやさしい温もりは受けとめてくれる。
深く挿しこむ自分の体を熱はやわらかく甘く受けとめ、包んでくれる。
ほら、こんなふうに自分はいつも受けとめられ、赦されてきた。

―いつも俺の方なんだ、本当は…受けとめられて、ゆるされて…愛されて、

交わす想いに本音が泣きだす。
もう泣かないと決めた、けれど眦から涙ひとすじ零れて頬つたっていく。
尽きない涙は唯ひとすじだけ、伝い落ちて止まることなく零れだす。

「周太、…っ、しゅうた、お願いだ…そばにいて、はなれないで…っぅ、ぁ…」

吐息のはざま名前呼んで、我儘を告げてしまう。
こんな願いは不可能だと解っている、けれど想いを吐きだしたい。

もう今夜の瞬間は訪れない、時間は二度と戻らない。
それでもこの先に同じよう、幸福な熱に溺れて愛しむ瞬間はある?
もう今夜は3度この体を委ねて犯された、その幸福な贖罪の罰は何度も与えられる?

―それとも、抱かれることを知った体が、離されることが罰なのか?

気付かされる現実が心を引っ叩く。
この傷みの現実が自分への罰?そう込みあげる哀切と自責に唯ひとすじの涙は止まらない。
止まらない涙に体、突き動かされるまま熱昂ぶって、脊髄ふるわせ芯は灼かれた。

「…ぁぁっ…あ、」
「…っ、」

ふたつの喘ぎが重ねられて、肌のはざまに鼓動が生まれる。
愛しい体内に脈打つ自分の鼓動、愛しい肌と重ねた肌のはざまを濡らす鼓動と体液。
体液の熱は肌に絡まり、繋ぎあわすよう熱に濡らして二つの肌を密に重ねさせていく。

「ほら…周太、こんなに繋がってる、だから…はなれるなんて、できな…」

言いかけた言葉が、消える。
この言葉の先にある現実は、そんなことを赦してくれない。そう解るから、言えない。

「…っ、あ…」

嗚咽が、熱の塊が喉を突きあげ息が止まる。
苦しくて、縋るよう少年の体を抱いて、優しい肩に顔を埋めて堪える。
その頭をやわらかな掌が抱いて、愛しい吐息が静かに言葉を囁いてくれた。

「そうだね、英二…はなれるなんて出来ない、だから…離れても、今みたいに繋がれていて?」

穏やかな声の言葉に、黒目がちの瞳を見つめる。
見つめた瞳はひとすじの涙を見、微笑んで涙にキスふれてくれる。
優しいキスに涙すわれて、見つめ合う瞳は微笑んで、約束をねだってくれた。

「忘れないで?…ずっと繋がれていて?心だけは離れないで、ずっと一緒にいたい…約束して、英二?」

どうかお願い、約束をして?

そう見つめてくれる瞳は優しくて、明るんだ勇気が綺麗に笑ってくれる。
この笑顔と瞳に心ほどかれていく、この凛とした瞳なら信じられると温かな信頼が灯りだす。
この今を見つめている瞬間に微笑んで、英二は約束を結んだ。

「うん、ずっと一緒にいる…いつも傍にいる、約束するよ?来年も、その先も」

その先もずっと、君と約束を。
その永遠への願いに思い出す、ナイフリッジの懐に抱いた純白の花。
遥か遠い過去から抱き続ける可憐な花、花の姿は優しい、けれど氷河の時代も生き抜いた。

「周太?来年は北岳草を見に行こうな、約束だよ、一緒に山に登ろう…俺と一緒に空の点を見てよ?来年もその先も、」

どうか、約束を永遠に。

この願いを叶えてほしい、君だけに。
この願いの為に自分は今夜、この体も与えて君に自信を贈った。
この体も心も全て君にあげる、この約束も、この願いも、すべては君のもの。

だからお願い、約束を俺に与えて?

そんな願いと見つめた恋人は、薄紅に頬を染めていく。
幸せそうに微笑んで、けれど気恥ずかしくて堪らないトーンで応えてくれた。

「…ん、約束…そのためにおれもえいじにしたんだから…やくそくのためっていったでしょ?」

ほら、約束をくれるね?
うれしくて英二は恋する婚約者にキスをした。

「約束のために周太、俺に3回もセックスしてくれたんだ?だけど最初から3度も抱くなんて、そんなに気持ち良かった?」

今夜は3度もしたよね?
うれしくなって笑いかけた先、愛しい貌は真赤になって羞んだ。

「…そんなにかいすういわないではずかしいから…でも、そう…ね、えいじは?」

恥ずかしいトーンが困ったよう訊いてくれる。
こんな初々しい所が自分は大好き、嬉しくてキスをすると英二は笑いかけた。

「すごく気持ち良かった、こんなに疲れるまで感じたセックスなんて、俺、初めてだよ?」
「…そんないいかたはずかしいけど、…でもよかった」

気恥ずかしげに言って、黒目がちの瞳が微笑んだ。

「英二に、きもちよくなってほしかったんだ…いつも俺にしてくれるから、英二にもしてあげたかったの」

ほら、君はいつもそう。

いつも考えてくれる、俺のこと。
だから今も泣かないで傍にいてくれる、君の涙が俺を哀しませるって思ってるから。
でも本当は泣いてほしい、もっと頼って甘えて、ワガママ言って振り回してほしいのに?

「ありがとう、周太。お返しに俺にも、いっぱいさせてよ。周太の気持ちいい顔、好きなだけ見させて?」

もっと振り回してほしい、だから言ってしまう、こんなこと。
何て応えてくれるかな?ワガママ言って困らせてくれるかな、ツンデレも良いな?
そんな願いと幸せを見つめた先、薔薇色になった貌は困ったよう、けれど幸せに微笑んだ。

「ん…絶対の約束するんでしょ?だから…して?おねがい、英二…からだごとやくそく、して?」

こんなお願い、うれしすぎる。

うれしくて鼻血噴くかも?そんな心配に鼻から口許をふれた掌には、血痕は無かった。
安心して笑いかけた向こう側、恥ずかしそうに見つめてくれる瞳は穏かな自信が温かい。
この瞳の信頼と想いにずっと、永遠に応えていたい。その願いだけ見つめて英二は綺麗に笑った。

「うん、約束する。心と約束は何があっても離れない、ずっと繋がれてる、永遠に一緒だよ?」

ずっと繋がれてる、君とは。

この体をめぐる血潮は、君と同じ所縁に辿れる。
この体を作る遺伝子、この心に繋がる縁、その全てが君と繋がっている。
この所縁に過去から繋がれて、唯ひとりの人間から君と分かれて今、こうして結ばれている。

「周太、キスするよ?…君を、抱かせて?」

そっと始まりを告げて、恋交わす時間へのキスをする。
ふれるオレンジの香に夏蜜柑の馥郁かさなる、あの美しい庭の風が映りだす。
そして今日の黄昏に見た、薄紅いろ透ける貝殻の繋がれた姿へと、今、繋げる体に想い重なっていく。

「…ぁっ、英二…、っ、あ…」
「かわいい周太…俺を感じて?…」

百年前、唯ひとりの人間だった。
そこから分かれて一世紀が流れて、それでも今こうして体ごと想い繋がれる。
だから信じられる、この身が遠く離れてしまっても、きっと再び寄添い繋がれることが出来る。
百年の血潮の所縁に、柑橘の香の記憶に、薄紅の貝殻に祈りを見つめて、君を想い続けて心は繋がれていく。

「あいしてる、周太…ずっと愛してる、ずっと」

過去も、今も、未来も。永遠に繋がれて、ずっと君の傍にいたい。



交わす想いの涯、微睡む夢は黄金に輝く潮騒の音。

足元へ寄せる波は白く金色に引いていく、その音が山風にも似て懐かしい。
潮の洗う軌跡は滑らかに黄昏を映す、その光に薄紅が黄金ふくんで指に拾われる。
拾いあげられる薄紅の貝殻は2つ繋がれたまま、優しい掌に載せられた。

黄昏ふる潮騒の記憶、その幸せが贈る夢に愛しい声は微笑んだ。


―…忘れないで?ずっと繋がれていて?心だけは離れないで、ずっと一緒にいたい





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