You which beyond that heaven which was most high 最上の楽園
secret talk26 銀嶺の春を―dead of night
ひるがえす冷気、頬なぶって切らす。
風ぶつかる、激突あおられピッケルしなる。
「…っ!」
アイゼン体重こめる、氷壁みしりブレード疼く。
軋む銀嶺うならす豪風、ザイルなびいてカラビナが鳴る。
―呼吸もできない、風が、
真空、それくらい空気が重い。
重たく激しい風の塊、その波動ひきずられた先は死。
「ぅおおおっ、」
食いしばる叫ぶ、全身はじける筋肉、唸る風に耐えて軋む。
こんなところで斃れない、斃れられない、ただ望み渾身に耐えた。
そして、風が止む。
「…よし、」
うなずいて腕のばす、最後のステップ駆けあがる。
白銀ちりばめるアイゼンの爪先、氷の煙きらめく頂に着いた。
「は…、」
息を吐く、真っ白あおられ吹きちぎる。
ゲイター口元ひきあげ唇とけて、体温の呼吸に笑った。
「ははっ…」
唇ほころぶ、息に温まる。
自分の熱だけが温かい、その冷厳に無線つないだ。
「宮田です、着きました、」
つないだ声に雑音かすめる。
無線のなかも風が吹く、ぶつかる空気に声が応えた。
「無事登頂だね、エロ別嬪パートナー?」
澄んだテノールが笑ってくれる。
そんな相手に微笑んだ。
「光一か、その呼び方なつかしいな?」
「だね、俺もヒサシブリ懐かしいよ、」
笑ってくれるトーン明るい。
その笑顔がどこにいるのか?可笑しくて笑った。
「そこに座るのも懐かしいだろ?なんで光一そこにいるんだよ、退職者がいいのか?」
もう部外者、それなのに無線に応える。
こんな自由人あいかわらずで、つい笑った先もにやり笑った。
「後藤のオジサンが呼んでくれたね、ザイルパートナーのお初だからってさ?雪山単独のゴキゲンいかがだね?」
あたりまえだろ?
そんな声が笑ってくる、その明るさに天を仰いだ。
「空が深いな、」
青はるかな深み、惹きこまれる。
ナイフリッジの風は凍てつく、頬が凍る、それでも呼吸は温かい。
登山靴の底アイゼンに氷雪きしむ、それなのに全身を熱がめぐる。
凍れる熱、その光に英二は笑った。
「それから、太陽が綺麗だ。あったかくて眩しいよ、」
笑って声にする、この言葉ほんとは今聴いてほしい。
この瞬間ほんとうは君にと願う、赦されるのなら今。
「ふうん?なんか憧れそのものってカンジだね、誰かサン想定?」
ザイルパートナーが笑う。
無線ごし図星まっすぐで、率直な声に微笑んだ。
「ああ、唯ひとりだ、」
唯ひとり、唯一つの想い。
そんな君とここは似ている、この深い青。
はるか高く登ってたどりつく、昇らす氷に雲に君を見る。
そんな君に今すぐ聴いてほしい、でも不可能で、それでも届くだろうか?
【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」】
英二の夢に↓
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英二@第85話+XX日
secret talk26 銀嶺の春を―dead of night
ひるがえす冷気、頬なぶって切らす。
風ぶつかる、激突あおられピッケルしなる。
「…っ!」
アイゼン体重こめる、氷壁みしりブレード疼く。
軋む銀嶺うならす豪風、ザイルなびいてカラビナが鳴る。
―呼吸もできない、風が、
真空、それくらい空気が重い。
重たく激しい風の塊、その波動ひきずられた先は死。
「ぅおおおっ、」
食いしばる叫ぶ、全身はじける筋肉、唸る風に耐えて軋む。
こんなところで斃れない、斃れられない、ただ望み渾身に耐えた。
そして、風が止む。
「…よし、」
うなずいて腕のばす、最後のステップ駆けあがる。
白銀ちりばめるアイゼンの爪先、氷の煙きらめく頂に着いた。
「は…、」
息を吐く、真っ白あおられ吹きちぎる。
ゲイター口元ひきあげ唇とけて、体温の呼吸に笑った。
「ははっ…」
唇ほころぶ、息に温まる。
自分の熱だけが温かい、その冷厳に無線つないだ。
「宮田です、着きました、」
つないだ声に雑音かすめる。
無線のなかも風が吹く、ぶつかる空気に声が応えた。
「無事登頂だね、エロ別嬪パートナー?」
澄んだテノールが笑ってくれる。
そんな相手に微笑んだ。
「光一か、その呼び方なつかしいな?」
「だね、俺もヒサシブリ懐かしいよ、」
笑ってくれるトーン明るい。
その笑顔がどこにいるのか?可笑しくて笑った。
「そこに座るのも懐かしいだろ?なんで光一そこにいるんだよ、退職者がいいのか?」
もう部外者、それなのに無線に応える。
こんな自由人あいかわらずで、つい笑った先もにやり笑った。
「後藤のオジサンが呼んでくれたね、ザイルパートナーのお初だからってさ?雪山単独のゴキゲンいかがだね?」
あたりまえだろ?
そんな声が笑ってくる、その明るさに天を仰いだ。
「空が深いな、」
青はるかな深み、惹きこまれる。
ナイフリッジの風は凍てつく、頬が凍る、それでも呼吸は温かい。
登山靴の底アイゼンに氷雪きしむ、それなのに全身を熱がめぐる。
凍れる熱、その光に英二は笑った。
「それから、太陽が綺麗だ。あったかくて眩しいよ、」
笑って声にする、この言葉ほんとは今聴いてほしい。
この瞬間ほんとうは君にと願う、赦されるのなら今。
「ふうん?なんか憧れそのものってカンジだね、誰かサン想定?」
ザイルパートナーが笑う。
無線ごし図星まっすぐで、率直な声に微笑んだ。
「ああ、唯ひとりだ、」
唯ひとり、唯一つの想い。
そんな君とここは似ている、この深い青。
はるか高く登ってたどりつく、昇らす氷に雲に君を見る。
そんな君に今すぐ聴いてほしい、でも不可能で、それでも届くだろうか?
【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」】
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