萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

如月九日、辛夷―trust

2023-02-10 01:15:00 | 創作短篇:日花物語
潔白、高みに花を
2月9日誕生花コブシ辛夷


如月九日、辛夷―trust

肌冴える、雪ふくんだ朝。

「今日も寒っ、」

声こぼれて白くゆる。
息つく零下まっ白になる、さくり、一歩が雪埋む。
かかえた洗濯籠に指が痛い、かじかむ凍える、そのくせ空が心地いい。

「いい天気、」

ほら仰いだ空、花が光る。
純白きらめいて青まばゆい、凛々なぶらせ風がゆく。
冷たくて、そのくせ水の気配やわらかに頬ふれる。

「よっ、」

ぱんっ、シャツ翻して干してゆく。
冷風なびくコットン凍てついて光る、ふれる指さき凍えて痛む。
口もと冷たくて、吐息ごと白く揺らいで朝が光る。

「あ、」

朝陽むこう、雪原かなた稜線が光る。
はしる雲に霞むあわい、瞬く銀嶺に鼓動が跳ぶ。

「きれいだね、今日も…」

ほら声になる、今日、佇む背中たどる。
ほら遥かな雲はざま、白銀かすむ境界にあなたを見る。

「…朝ごはん、ちゃんと食べてる?」

話しかけて、声届くわけない。
それでも足もと埋まる零下、この雪たどれば君がいる。
きっと無事で、今。
辛夷:コブシ、花言葉「友情、友愛、信頼、自然の愛、乙女のはにかみ、愛らしさ、歓迎」


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