萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

secret talk84 安穏act.21 ―dead of night

2018-05-18 10:23:07 | dead of night 陽はまた昇る
君の場所で、
英二23歳side story追伸@第6話 木洩日


secret talk84 安穏act.21 ―dead of night

緑きらめく遅い午後、木洩陽ただ慕わしい。
そんな想い座りこんだ樹影の庭、穏やかな声が呼んだ。

「宮田…なにしてる?」

なにしてる、って、何しているのだろう?
自分でも解らない感情に英二は笑った。

「湯原には俺、何してるように見える?」

君に自分はどう映る?
知りたくて訊いた先、藍色のエプロンなびいた。

「…、」

唇かすかに動いて、けれど声が届かない。
何を言ってくれたのだろう?ただ見あげる夏の庭、シャツ小柄な半袖ひるがえった。

「夕飯もうじきだから、」

そっけない口調ひるがえす木洩陽、半袖あざやかに光る。
シャツきらめく水色に素肌はためいて、ただ手を伸ばした。

「すこし座れよ湯原、」

笑って、けれど攫んだ素肌に掌が熱い。

―湯原の体温だ、

掌ふれる熱に肌とける。
もっと触れたくて引き寄せた。

「み、やたっ?」

攫みこんだ熱ひきこんで水色ひるがえる。
シャツゆれる木洩陽きらめいて青色ゆれて、藍色のエプロン腕ふれた。

とさり、

音かすかに熱の重たみ肌ふれる。
水色なめらかに腕もたれてコットン掠れて、黒髪くせっけ頬ふれた。

「ぁ、」

オレンジ香る、頬ふれる黒髪から匂い波うつ。
おだやかで爽やかな甘み鼓動しめつける、痛んで、その痛み頬ひっぱたいた。

「いてっ、」

ぱちんっ、自分の頬はじけて熱にじむ。
熱じわり痛覚ほどけて、黒目がちの瞳に自分が映った。

「っな、にすんだばかみやたっ!」

呼んでくれる君の声、怒鳴っているけれど。
けれどオレンジの香やわらかで、いつもの空気に笑った。

「ごめん湯原、でも見あげてみろよ?」

笑って見あげて隣、睨む瞳も見あげてくれる。
見あげる睫こぼれる翳が長くて、黒目がちの瞳ふわり木洩陽ともった。

「…、」

すこし厚い唇かすかに呟く、でも聞こえない。
何を言ったのだろう、知ること出来たらいいのに?

―訊いても教えてくれるかな、怒ってるわけじゃなさそうだけど?

ならんで見あげる樹影、視界の端に惹きこまれる。
夕なずむ光やわらかな輪郭あわい、黒髪くせっけ緑きらめいて波うつ。
また見つめてしまう想ってしまう、まだ知らない感情に染められて、ほら?

―きれいだ湯原、

ほら、まただ。
また想ってしまう「きれいだ」そう見つめている。
見つめてオレンジが香る、ほろ甘い苦い爽やかな穏やかな、君がいる香。

「…こういうの好きなのか、宮田?」

問いかけてくれる君の声、穏やかで静かで好きだ。
ほら「好きだ」と想ってしまっている、こんな本音ごと笑いかけた。

「こういうのって湯原、どれのこと?」

今、自分が思っている「こういうの」はたぶん違うだろうな?
当たり前の予想たたずんだ樹下、黒目がちの瞳が見あげた。

「木を見ることだけど…」

他に何がある?

そんな視線が長い睫ごし見つめてくれる。
やっぱり「たぶん違う」だったな?予想どおりの落胆と笑った。

「こういうの好きだよ、俺、」
「…ふうん、」

黒目がちの瞳かすかに頷いて、長い睫また頭上を仰ぐ。
緑ふる横顔あわい輪郭きれいで、見とれて、オレンジ甘く苦く穏やかに君がいる。

いつも寮室せまい空気やわらげてくれる、君の香。

※校正中
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皐月雑談、青葉閑話

2018-05-16 20:56:00 | 雑談
ここ10日間・公私ずーっと繁忙で・
ここんとこずーっとココも放置せざるを得ず・
ようやく明日やっとの休日、っていう今夜は休日前夜。
休日前夜ってだけでナンダカ疲れドッカ消えて・悪戯坊主とノンビリ時間に安らいで、

あー休日前夜いちばんイイ時間だよなあ、

なんて認識あらためて晩酌かたわらな今で、笑
のんびり食べて飲んで、のち・写真でも小説でもノンビリできたらいいなあ、
なんて思いながら録りためられたブルーレイ見ながら平和な夜、
こういう「無事」がドンダケありがたいもんか想ったり。

なぜか5月は自分にとっていろいろある、
大事な人にナンカ起きるのも5月が最多だし、
イイことが起きてくるのも5月にけっこうあるような。
なんて想いながらも5月やっぱり山がイイ季節でもあり、笑

低山なら青葉しげれる緑あざやかな季節だし、
もうちょい高い山なら春花きれいに咲くとき、
高山なら残雪きらめく春陽に命が息吹くとき。

ほっとする暮らし84ブログトーナメント
撮影地:三頭山@東京都檜原村

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皐月、山姫簪―石楠花

2018-05-12 23:32:02 | 写真:花木点景
山一隅、あわい薄紅たおやぐ初夏。
石楠花しゃくなげ


季節を感じるお花さん90ブログトーナメント
撮影地:三頭山@東京都檜原村2018.5

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secret talk83 安穏act.20 ―dead of night

2018-05-12 10:34:10 | dead of night 陽はまた昇る
記憶を慕って、
英二23歳side story追伸@第6話 木洩日


secret talk83 安穏act.20 ―dead of night

木洩陽きらめく夏の庭、午後の太陽ゆられて光る。
緑あわく深まる時間の風ゆれて、他人の庭に隠れこむ。
今日はじめて訪れた家、それなのに隠れたいほど安らいで、そして揺れる。

『どうして周太のはいいの?』

ほら?言葉ひとつ鼓動ゆらす。
たった今さっき言われた言葉、言われて隠れてしまった自分。
だって解らない何を答えられるのだろう?息ひとつ吐いた樹影、英二は座りこんだ。

「どうしてって…俺が訊きたいよな?」

ひとりごと唇ほろ甘い、木洩陽の風やわらかに香る。
庭木立しずかな空間おだやかな光、見あげた梢が緑あふれる。

“湯原くんのエプロン姿はいいなって想います”

そんなこと言ったのは自分、それは自分の本音。
そんな本音の真ん中にいる横顔は、この木陰にいくど座ったろう?

―湯原が育った場所、なんだよな…あの母親のもとで、

君の母親と話した、そして問われた言葉が木洩陽ゆれる。
どうして「いいな」と想ってしまうのだろう?

―俺も湯原も男なのに、どうしてだろ俺?

どうして君なのだろう、自分は?
それとも何かの勘違いだろうか?

でも今も耳が足音つかまえたがる、君の音を。

「…宮田?」

ほら呼んでくれた、鼓動が敲く。

「湯原、」

呼び返して振り向いて、エプロンの藍色に木洩陽ゆれる。

※校正中
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secret talk82 安穏act.19 ―dead of night

2018-05-07 21:37:00 | dead of night 陽はまた昇る
記憶を慕って、
英二23歳side story追伸@第6話 木洩日


secret talk82 安穏act.19 ―dead of night

刻まれた時間まどろむ。

「…いい家なんだよな、」

ひとりごと見つめる暖炉の縁、ダークブラウン艶やかな木目に静謐やわらかい。
木彫ふかい光陰が照る、カーテン波うつ天鵞絨おだやかな木洩陽は古いガラスの光。
かすかに甘い深い涼やかな香くゆる、温もり静かな穏やかな、そういう家が君の育った場所。

―似合わないよな、警察官なんて…湯原は、

想いたたずむ空間、窓ふりこむ黄昏やわらかい。
光たどるガラス惹かれてもたれる窓辺、まだ残暑まぶしい夕暮れ夏花ゆらす。
純白きらめく花びら静謐やさしい、あの花にいくど君は水を遣ってきたのだろう。
光る花のむこうベンチが見える、この窓辺に君は育って、それなのになぜ?

―だからあのベンチも好きなんだ湯原、こういう家で育ったから、

静かな穏やかな優しい家、それが君の素顔。
それを自分はもう知っている、だから「似合わない」と想ってしまう。
それでも選んでしまった道で自分と出会って、それは君にとって何だろう?

「宮田くん、」
「はい?」

呼ばれてふりむいた先、やわらかな瞳が笑ってくれる。
黒目がち優しい眼ざしは似ていて、けれど違う声が笑いかけた。

「あのね、宮田くんは料理する男の子ってどう思う?」

やわらかなメゾソプラノが自分を見あげてくれる。
その言葉ゆるやかに甘辛く香って、英二は微笑んだ。

「さっき初めて見ましたけど、湯原くんのエプロン姿はいいなって想いますよ?」

幸せ、ってあんな姿を言うのだろうか?

―なんて想ったこと言えないよな、ちょっと?

正直な告白、もし君の母親にしたらどうなるだろう?
隠しこんだ本音の前、黒目がちの瞳ほがらかに笑った。

「そう?ね、どうして周太のはいいの?」

※校正中
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山岳点景:皐月、青岳にて

2018-05-07 14:50:00 | 写真:山岳点景
五月、春山夏山、
三頭山@奥多摩


山岳点景:皐月、青岳にて

五月連休、ひさしぶりの山は青葉時間。
あざやかな萌黄×緑に白花は青梻アオダモ、細やかな花びら涼しい白。


薄黄色あわい黄花石楠花バナシャクナゲ、と・似ているけど葉がなんだか違うんですよね、笑


春の名残る蓮華躑躅レンゲツツジ、赤紫いろ散る青葉に夏花時間。


早緑すぎて青葉しげれる、夏山におう登山道。


紅色あざやかな縁どりは更紗満天星サラサドウダン、朱夏もう近い五月の山です。


あちこち散策67ブログトーナメント
撮影地:東京都檜原村2018.5

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皐月、望郷

2018-05-06 21:52:01 | 写真:山岳点景
五月初夏、
故郷めぐる丹沢の空、雲。


いろいろのつぶやき22ブログトーナメント
撮影地:神奈川県2018.5

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第85話 春鎮 act.54 another,side story「陽はまた昇る」

2018-05-03 08:05:06 | 陽はまた昇るanother,side story
and no pace perceived; 遠く近く、
harushizume―周太24歳3月下旬


第85話 春鎮 act.54 another,side story「陽はまた昇る」

銀色の梢あわい光、この大樹に懐かしい。

「ここだ…」

つぶやいた唇そっと湿度かすめる。
ほろ甘い渋い香ひそやかな空気、きっとブナが佇んでいる。
おおらかな天蓋ここを通った幸福、その時間ふる雪そっと踏みこんだ。

「はぁっ…」

息あがる、冷厳しずかに肺を浸す。
アイゼンの底さくり雪くずれる、銀色ひたすゲイターを氷雪うずむ。
左ふみだして右へ、その体重移動かすかに軋んで周太は息吐いた。

―やっぱり痛い…右足首、

にぶい疼き絞めつける、深く唸るような痛み燻る。
まだ治りきっていない捻挫ひきずる雪、ほら?これが自分の本音だ。

―こんなになっても逢いたいんだ僕は…どうして、

どうして、どうして逢いたいのだろうあなたに?
傷を負った足、それより深い鼓動の軋みがある。
こんな痛み2年前は知らなかった、知ったのは唯ひとりあなたのせいだ。

『北岳草を見せてあげたいよ、周太?』

ほら声が響きだす、唯一つあなたの声だ。
その声たどる道ひそやかに雪と傷ふみこんで、頬そっと香ふれた。

「…あ、」

あなたの香?

―森みたいな匂い、でも…すこし違う、

ほろ苦い深い、かすかに甘い香。
ほんのすこし感じるだけ、けれど雪の森だけの匂いじゃない。
なつかしくて見つめて踏みこんで、遅い午後くれゆく雪に色ゆれた。

「っ…」

深紅色ゆれる、あなたの色。

「…えいじ、」

ふかい深い赤い色、あなたの登山ジャケットの色。
あの色に連れられて自分はここに来た、その記憶へ雪ふみこんだ。

「英二っ…、」

おおきな大きな銀色の根元、深紅色が立ちつくす。
むけられているのは背中だけ、それでも唯ひとつの後ろ姿にアイゼン蹴った。

「えいじっ、」

叫んで足が埋まる、冷たい銀色うずもれる。
冷厳さらさら膝を捉えて、それでも駆けだした。

「英二!」

さく、さくさくっ、駆ける銀色を光が舞う。
近づきだす深紅にダークブラウンの髪ゆれる、唯ひとりあの髪にふれたい。

「英二、えいじっ!」

叫ぶ自分の声、雪に足音、凍える雪面くずれて踏む。
雪あわい水の匂いに香ふれる、ほろ苦い深い風。
この香もう幻じゃない、あなただ。

ほら?もう手を伸ばせば、

「英二!」

ことん、

伸ばした腕いっぱい、ひろやかな腰。
深紅色あざやかに抱きしめる、登山ウェア透けて温もりふれる。
抱きしめて頬ふれる深紅の背、おおきくて広くて、ほろ苦い深い香が鼓動を浸す。

「…、」

頬ふれる背中が息をのむ、深い香そっと濃くなる。
唯ひとり逢いたかった。

「えいじ…」

呼びかけて抱きしめて、そっと背中くずれおれる。
抱きしめた温もりごと膝おられて腰落ちて、ふれそうな瞳に微笑んだ。

「やっぱりここにいた、英二っ…、」

名前を呼んで見つめて、あなたの眼に自分が映る。
切長い瞳はきれいで、ただ瞬く濃やかな睫に笑いかけた。

「英二、」

呼びかけて白銀の森、ダークブラウンの髪あわい陽光きらめく。
ほろ苦い深い香おだやかな髪、見つめてくれる切長い瞳ふかい黒い深淵。
この眼ざしよく知っている、ただ惹きこまれる真中で深い睫そっと瞬いた。

「…周太?」

あなたが呼んだ、僕を。

※校正中

(to be continued)
【引用詩文:William Shakespeare「Shakespeare's Sonnet 104」】
第85話 春鎮act.53← →第85話 春鎮act.55
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藤が咲く

2018-05-01 23:17:05 | 創作短篇:日花物語
酔うならば、
五月花色


藤が咲く

紫そまる、春終わる。
だから時の終わりが。

「この林はダメだなあ、」

かつん、

鉈が鳴る、節くれた手に木屑はじく。
かつかつ刃ならせて皺深い手、疑問こぼれた。

「じーちゃん、なんでダメなんだ?」

どうして「ダメ」なんて言う?
わからない紫の波に銀髪ふりむいた。

「うん?なんでってなんだ?藤のことか?」
「そう、」

うなずいて落ちた視線、薄紫ひとつ燈る。
茶色ひろがる足もと一滴、あわい色に祖父が言った。

「藤はなあ、からみついた木をダメにしちまうんだな。ほれ?」

かつんっ、

鉈が響いて木が香る。
舞った木屑やわらかな光、ほろ渋い甘い香に言われた。

「な?こーんなに木がスカスカになっちまう、こんなんばかりじゃあダメだ、」

節くれた指の先、切り開かれた幹は虚しい。
それでも頭上こぼれる紫まぶしくて、甘い馥郁あふれて香る。

「だめじゃないよ?僕には…」

本音そっと唇ひらく、香ただ愛しくて。


撮影地:山藤@神奈川県2018.4

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