「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2005・08・02

2005-08-02 05:50:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「私は国鉄の分割民営化は画期的な大成功だとみている。議論の余地はない。私はこれに『賞』を贈りたい。いま賞と呼ばれるほどの賞は五百もあるというのに、なぜこれに贈るという発想が生じないのかけげんである。
 分割民営化は個人の手がらではないから贈らないなどは気がきかなさすぎる。だから賞はダブって誰も知らない賞ばかりになるのである。団体に送る賞はいくらでもある。民営化に貢献した全員に贈るか、それからさきは賞が自分で考えてくれ。ただし『官』が与えるのは感心しない。『民』が贈ってこそセンセーションがおこる。
 なぜ私が贈りたがるかというと、これがはげみになるからである。げんに郵政はよくなっている。手紙は今日出せば明日着く。速達にするに及ばなくなった。小包は黒字になった。局の窓口嬢は挨拶するようになった。銀行よりよくなった。実に隔世の感がある。国鉄に賞をやれば次は郵便の番である。さすればNTTだって前非を悔いて続くだろう。
 最も続かないのは日本航空でありNHKであり農協である。NHKのごときはいまの職員の三分の一で運営できる。値下げできる。農協も同じ、おお大事なことを忘れていた。悪名高いかの税務署だって追従してよくなるかもしれないのである。」

   (山本夏彦著「世間知らずの高枕」新潮文庫 所収)

 このコラムが書かれたころから、十年も経とうとしているというのに、NHKといい、農協といい、形ばかりの改革で、本当の意味での構造改革は進んでいません。
 今夏、官製談合の一郭にメスが入り、道路公団の事実上のトップである現役高官に縄付きが出ました。画期的なことで、大新聞は特々大の活字で一面トップで報じ、号外を配ってもいいところですが、いつもなら大はしゃぎでキャンペーンをはる各紙とも紋切型で、醒めた論調なのはどうした訳でしょうか。 戦後60年、国(建設省・農水省など公共工事発注者)、道路公団などの特殊法人、全国津々浦々の地方公共団体にいたるまで、国中を覆いつくしてきた談合体質を糾弾できるのは、今をおいてありませんのに。永年「談合は必要悪」と公然と開き直ってきた政財官各界人士の脇の下を冷たい汗がつたっているに違いありません。足元に火が点いた道路族議員も当分は、亀のように、手足・首をすくめている他ないのです。
 郵政についても、ここまできて小泉氏の郵政民営化法案が葬られるようなことがあれば、構造改革は頓挫し、悔いを千載に残すことになるでしょう。既得権益を守ることに汲々としている人々や、郵政族のみならず、あとに控える建設、農水など族議員達の高笑いが聞えてきそうです。
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