「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

ダメの人 2005・08・28

2005-08-28 06:00:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「わが青春が暗かったのは、何も戦争のせいではない。その証拠に、いまだに暗い」

  (山本夏彦著「日常茶飯事」所収)


 「『ダメの人』というのは十七八になってから思いついた言葉であるが、早くすでに私はこの世はダメだと見ていた。

 『とかくこの世はダメとムダ』だと思っていたが、それを言うべき友もなく終日無言でむっとしていた。」

  (山本夏彦著「無想庵物語」所収)


 「世間はムダをよくないもののように言うが、そもそも私がこの世に生れたこと、私が生きていること、私が何かすること、

 またしないこと、一つとしてダメとムダでないものはない。その自覚があるものとないものがいるだけである。私の存在

 そのものがムダだというのに、どうしてそのなかの区々たるムダを争うことができよう。」

 「私は弱年のころから今にいたるまで、自信というものを持ったことがない。自信は暗愚に立脚していると思っている。

 それらしいものが生じると、私は我にもあらず常に自ら打ちくだいてきた。そしていつも薄氷をふむ気持でいる。もし

 私に何らかの取りえがあるとするならば、それはこの常に薄氷をふむつもりでいることによる。私はその気持の助長に

 つとめてきた。」

 「私はもういつ死んでもいいのである。それは覚悟なんてものではない。いっそ自然なのである。その日まで私のすること

 といえば、死ぬまでのひまつぶしである。」

 「物ごころついて以来、私のしてきたことはみな死ぬまでのひまつぶしであった。」

  (山本夏彦著「ダメの人」所収)


 「私は三男である。無口で陰鬱な少年で、昭和五年数え十六のとき自殺を試みている。東京府立五中の二年生である。

 なぜ自殺を試みたかは自分でもたしかなことは言えない。言えば我にもあらず飾るだろうから言いたくない。十八のとき

 もう一度試みてしくじった。死神にも見放されたのだろうと以後試みない。」

  (山本夏彦著「無想庵物語」所収)


 「何も私は喜んで生きているわけではない。今さら自分から死ぬわけにはいかないから、渋々この世とつきあっている。

 生きて甲斐ない世の中だ。こうしてただ死ぬのを待っていると、ころりと横になって死んだまねしてみせると、客は

 愁傷のふりをするから妙である。」

  (山本夏彦著「オーイどこ行くの」所収)
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