「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

我々は自分で見て、考えて、言う存在ではない 2005・08・29

2005-08-29 06:15:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「自分で見て自分で考えて自分で言えと、この何十年学校は教えている。それは人間には出来ない芸当である。我々は自分で見て、考えて、言う存在ではない他人の意見を強いられて、強いられたとはつゆ知らず嬉々として同じ言葉を口走り、口走らないものをとがめる存在である何千年来そうだったし、何千年たってもそうである。」

  (山本夏彦著「オーイどこ行くの」-夏彦の写真コラム-新潮文庫 所収)


 「オリジナルなものは難解であるだからそれに迫る字句は容易な上に容易でなければならないその容易な字句で難解なものを包囲して孤立させるから、彷彿としてその難解が正体をあらわすのである世にはにせものの難解と本ものの難解があって、にせものと本ものがまじると、本ものは見えなくなるこの意味でわが国の哲学書は、一、二を除いてたいてい落第である哲学が読者を失ったのはにせの難解のせいである新聞は真の難解と無縁のようだが、それでも文芸欄にはサルトルの追悼文なんぞが出て、かいもく見当がつかないことがある。唐突だが大新聞は私を雇ってはどうか。私をデスクにすえたら、私は毎日分らないを連発するから、すこしは分りやすくなるだろう。」

  (山本夏彦著「恋に似たもの」文春文庫 所収)
コメント
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