「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

下男の星と主人の星 2005・08・18

2005-08-18 05:40:00 | Weblog

 今日の「 お気に入り 」は 、山本夏彦さん ( 1915 - 2002 ) のコラム集から 。

 「 私は人には『 分 』というものがあると思っている 。分際を知れ分際をと 、

  以前さる週刊誌に書いて 、日本中の読者から袋だたきになったことがある 。

  なって 私は『 分 』というものが 、現代日本のタブーであることを知った 。

  人にはそれぞれ分があると言っただけで 、あんなに怒るのだから 、それは

  やっぱりあるのだと知ったのである 。

  『 分 』がいけないなら『 星 』でもいい 。いかなる星のもとにわれ生れけむ

  というあの星である 。高山樗牛の言葉だと記憶するが 、この嘆きを嘆かな

  い男女は 、いついかなる時代にもない 。すなわち星はあるのである 。

  『 さそり座の女 』という流行歌がある 。美川憲一の持ち歌だという 。

  『 アンアン 』『 ノンノ 』以下の女性誌で 星占いをのせないものはない 。

  牡牛座 、獅子座 、山羊座 、魚座以下の運命が 、そこには毎週勢揃いして

  いる 。新聞には四緑木星の男の 、一白水星の女の 、今日の運勢が出てい

  る 。あんなに出ているのだから 、読者があるのだろう 。あれば左右され

  るものがあるのだろう 。

   言っては悪いが 、私は人には 下男の星 と 主人の星 があると思っている 。

  下男の星に生れた者は 、主人にはなれない 。主人の星にも十人の主人の星

  と 、千人の主人の星があって 、十人の主人は 十人の主人に終って 、千人の

  主人にはなれない 。

  そして勤人というものは 、多く下男である 。それでなければ 勤人に甘んじ

  ていられるわけがない 。」
 
   ( 山本夏彦著「 二流の愉しみ 」 講談社文庫 所収 )

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