進路の学習をすることは,生き方の学習をすることである。それは,どのような生き方が自分にとって大切なものであるかという,自分自身への価値観の問いかけに他ならない。非常に重要な,かつ重大な問いであると私は考えている。突き詰めていけば,その問い自体が生涯の課題になったりする人もいる。そこまで考えることはないとしても,今あるいはこれからどのように生きていくかということを,進路の学習を通して考えることは,意味のある試みであると思う。
しかしながら,進路を選択するということは「他の可能性を捨てる」ということである。あれもこれもすべてなりたいものになるというわけにはいかないのが,現実である。そうだとすれば,現実世界を生きるための原理原則を学んでいただきたいと思う。幅のある大きなスタンスで,自己を鍛えることである。それを本校在学中に,授業や書物,多くの先生方に学び,学校生活のあらゆる場で意図的に学習することが,一生の財産になると思う。
次にこころがけていただきたいことは,「情報収集」である。判断の材料は,多様なしかも価値ある情報である。いかに多くの情報に接して,それを自分のものにできるかということが,一生の分かれ目になる。ましてや,自分の進路である。生き方である。真摯に取り組むことで,有効な進路選択をしていただきたい。手段はいろいろとある。インターネットや多くの進路情報に関する書物もあるし,先輩などに聞いたりする人的なネットワークもある。この「進路のしおり」のようなすぐれた進路情報の宝庫を徹底的に活用するということも,すばらしい情報収集の手段である。まさに多様な手段・方法を活用していただきたいと思う。
三番目に申し上げたいことは,「この道しか自分を生かす道なし」という武者小路実篤の言葉である。脇目をふらないことである。あれもこれもと,総花的な知識はあるが,こころの拠り所を持たないということは寂しい。人生意気に感じて脇目をふらないこと。つまり,自分の人生選択に賭ける気概・心意気が大切のように思う。そうでないと,いつまでも進路が決められない。私の場合,教職以外自分の打ち込みたいものはなかったし,多才な人間でもないから,これと決めたこの道にくらいついたのだと思う。
「進路のしおり」を再読して,感じたことがあった。
諸先生方のお骨折りを得て,編集されているもので,過去数年にわたっての貴重な進路情報が満載されている。そして,それを活かすのは「今・この瞬間」を生きている諸君たち自身である。過去のデータをもとにして,過去をふりかえらない人間になるということである。あのときああすればよかった,こうすればよかったという後悔の思いでこれからを生きていくのはたまらないことである。大いにこの「進路のしおり」を読み,先生方と語らい,ご指導を受けていただきたい。「今・この瞬間」を生きながら,未来志向の人間になるためにも。