珠玉の音楽に囲まれて

オーディオのこと、音楽のこと、思いついたまま記していきます。
by 横浜のVienna Acousticsファン

フーガと神秘

2021-04-25 20:26:22 | ボサノバ/ラテン
今回はアストル・ピアソラの「フーガと神秘」という曲を取り上げます。ピアソラと言えば「リベルタンゴ」や「Oblivion(忘却)」をクラシック演奏で聴く程度でしたが、この曲が加わりました。きっかけになったのはYou Tubeでした。You Tubeにもいい音の動画はありますし、アルバム丸ごと入っていることも珍しくありません。次々と関連の動画が提示されるので、音源の開拓にも向いています。拙宅のセカンドシステムは、Amazon Music HDとYou Tubeによる予行演習の場になりつつあります。

原曲はピアソラの『PULSACION』という1970年のアルバムに入っています。曲は大きく、前半のフーガと後半のバラードに分かれます。フーガの名の通り、最初に提示された旋律を、演奏者が変わりながら追いかけていきます。ピアソラ自身によるバンドネオンから始まり、ギター→フルート→ピアノの順となっています。メインの旋律を弾き終えた演奏者は、今度は伴奏側に回ります。特定の楽器に着目して聴くのも面白いです。スリリングな前半としっとりとしたバラードの対比も楽しめます。



2月に紹介したフォーレの「パヴァーヌ」の様々なバージョンを、YouTubeで探しているうちに、ベルリンフィルの12名のチェリストによるライブ動画に辿り着きました。チェロのみとは思えない豊かな表現に惹き寄せられました。冒頭ではステージに3名のチェリストしかいないのですが、徐々に演奏者が集まって厚みを増すという演出も凝っていました。「フーガと神秘」は南米をテーマにした『SOUTH AMERICAN GATEWAY』というCDに入っています。なお12人のチェリストによる演奏は、60年代の来日公演がきっかけになったようです。


こちらもYouTubeサーフィンで見つけた演奏です。詳しくないのですが、レヴィオロンデュロイは、フランスの、15名程度の室内オーケストラです。YouTubeの演奏が良さげだったので検索したところ、その名も『PIAZZOLLA』というアルバムを出しているではありませんか。しかもSACDです。冒頭はヴァイオリンで始まり、フーガの進行と共にチェロやコントラバスが加わります。MFPC導入後のメイシステムで聴くと、さらに左右が広がり、低域の下支えもしっかりします。目論見が当たった一枚でした。


クレーメルがピアソラへのオマージュを捧げていたことを、今回を機に知りました。You Tubeでもライブにおける(おそらく)アンコール演奏を見ることができます。フーガにおいてクレーメルは3番目に登場しますが、2番目に登場するアンドレイ・プシュカレフによるヴィブラフォンとのやりとりが実に楽しいです。最後の方ではメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲のメロディーが入るなど、何かジャズのセッションでも聴いているような演奏でした。グラモフォンの『The many musics of gidon kremer』にライブ演奏が収められています。


こちらも、やはりクレーメルが演奏した『ブエノスアイレスのマリア』というタンゴオペリータです。元はピアソラが68年に上演したようですが、こちらは97年に収録されました。「フーガと神秘」の演奏形態は原曲に近く、ギターの部分がクレーメルのヴァイオリンに置き換わっています。この曲だけ取り出して聴くのは、不十分な気もします。ブエノスアイレス出身のフリア・ゼンコが歌う、哀愁漂うコーラスにも惹かれます。上演の空気感と共に通しで楽しみたい作品です。


最後はジャズです。ドミニカ出身のジャズピアニスト、ミシェル・カミロとスペインのフラメンコ・ギタリスト、トマティートの『Spain Again』です。「フーガと神秘」の出だしはギターのソロです。以後、ピアノと交互に主役を変えながらフーガが進行します。両者の切れのある演奏が楽曲ににマッチしています。二つの楽器のみですが飽きさせません。同じアルバムには、ピアソラの代表曲「リベルタンゴ」もあり、こちらも良く聴いています。タイトルにAgainとあるように、前作にはグラミー賞を取った『Spain』があります。


ピアソラと言えば、約2年前のAionさん訪問が思い出されます。ドロドロしたピアソラの濃い世界をアナログで聴かせていただきました。随分と昔の事のように感じられます。それくらい沢山のことが起きましたし、変わりました。私の中では、2019年以前がどんどん遠ざかるような感覚があります。
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The Shadow of Your Smile

2017-02-19 12:45:08 | ボサノバ/ラテン
横浜方面は17日、20度近くまで気温が上がり、上着が不要なくらいでした。雨戸を開ける際や夕方の明るさ、梅の花の勢いの翳りに、春の接近を感じます。庭木への寒肥も例年通り終えました。義理?チョコも美味しくいただきました。薄手のコートもそろそろ出番となります。定番の行事を経て、2月も残り1週間。早いものですね。久々に音楽の話題で、「The Shadow of Your Smile」を取り上げます。1965年の映画「いそしぎ」の主題歌です。映画よりも曲の方が有名で、ジャンルを超えて広くカヴァーもされています。私の中ではボサノバ/ラテンのイメージが強い1曲です。

ボサノバの刷り込みの理由は勿論、Astrud Gilbertoです。決して歌が上手いとは言えないAstrud Gilbertoですが、「イパネマの娘」でブレイク、ボサノバの女王となってしまいました。以降、Verveからアルバムリリースを続ける中で、ブラジル以外の曲も取り上げました。けだるい彼女の声を通すと、原曲が何であれボサノバ風になるのが不思議です。私もまんまと刷り込まれた次第です。セカンドアルバムがまさしく『The Shadow of Your Smile』ですが、私の手元にあるのはデビュー40周年記念ベストです。Astrud の特別のファンでなければ、これ1枚で十分だと思います。


最近、オフ会でもかけることの多いBarden Powellです。71年の『孤独』に「The Shadow of Your Smile」が入っています。ダイナミックオーディオのSさんのフロアでSPの試聴をした際に、このアルバムの存在を知りました。聴いたのはアナログ盤で、訴求力のある音が印象に残りすぐにCDを買いました。アルバムの半数以上がソロ演奏で「The Shadow of Your Smile」もその一つです。ゆったりとしたテンポながら、彫りの深いギターに表題の孤独さが表現されています。Barden Powellは昨秋買ったアナログ盤『Samba Triste』もお気に入りで、70年代の作品を中心にアナログ盤を探すつもりです。


Helen Meririllの67年のアルバム『BOSSA NOVA IN TOKYO』です。半数程度がボサノバで、東京で録音されました。アレンジには前田憲男、渡辺貞夫とありますから、これは日、米、ブラジルの共作です。アラフォーの頃で、円熟のヴォーカルとハスキーなMerrill節はボサノバにマッチしていると思います。ただ、日本語で歌った「夢は夜ひらく」「信じていたい」は、ちと、やり過ぎではなかろうかと。


ここからラテン色が薄れるのはご容赦ください(笑)。過去に取り上げたEarl Klughのバラード集です。選曲は自身の過去のアルバムからです。「The Shadow of Your Smile」はピアノを加えたカルテットによるジャズアレンジです。やはり以前に紹介したアルバム『Trio Vol.1』に通ずる、夜、ホテルのラウンジバーで聴きたくなる仕上がりです。


ミネルヴァさんの日記で紹介さたジャズ喫茶Murraに行ったのが丁度2年ほど前になります。そこで流れていたのがScott Hamilton(別作品)でした。『TENORSHOES』は80年の作品で、軽快な「The Shadow of Your Smile」に自然と体が動いてしまいます。いわゆる歌心ですね。バック演奏も、アルバムの選曲もよしです。Scott Hamilton自身、まだ現役です。生演奏を聴いてみたいジャズ演奏者の一人です。


最後は竹内まりやの2003年の『Longtime Favorites』です。竹内まりやが影響受けた音楽は何といってもビートルズだそうですが、当時、同じように日常で流れていた洋楽を集めた作品です。ライナーにはAstrud Gilbertoで「The Shadow of Your Smile」を好きになったとあります。映画「いそしぎ」は私が生まれた頃の映画ですから、このアルバムに収められた曲々への思い入れは、実はあまり強くありません。知っていた曲は1/3程度だったでしょうか。それでも通して聴くと、その後の楽曲に通ずる原点を感じさせるアルバムです。山下達郎、大瀧詠一とのデュエットも聴きどころの一つでしょうね。


多分他にも探せば、カヴァー作品が家にあると思いますが、とりあえず区切ります。
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Cafe Brasil

2014-07-12 16:20:42 | ボサノバ/ラテン
熱かったW杯も残り2試合を残すのみとなり、少しの寂しさもありますが、決勝戦には双方の持ち味がぶつかる好勝負を期待しています。組織のドイツ、個人のアルゼンチンと捉えられがちですが、ドイツ選手の個性にも魅力ありますし、オランダ戦のアルゼンチンの組織的守備力には脱帽しました。結局、両方揃っているのが頂上レベルということなんでしょう。一方、3位決定戦は緩い試合になりがち。メダルのかかる五輪との違いですね。それでも最後のW杯になるであろう選手への労い、これから数大会を背負う若手への期待が交錯して、これはこれで楽しめます。惨劇からの第一歩を踏み出すブラジルにも注目です。

ブラジルつながりで今回は『Cafe Brasil』を紹介します。ブラジルのポピュラー音楽の一つ、ショーロのオムニバスアルバムです。ブラジル音楽と言えばサンバ、ボサノバが挙げられますが、少なくともボサノバよりずっと長い歴史があります。哀愁のあるメロディにファドとの関連を想います。ブラジルには陽気で明るいイメージがありますが、その音楽にはサウダージ(郷愁、切なさ、寂しさを表現するポルトガル語)が顔を覗かせる瞬間があります。この『Cafe Brasil』もそんなサウダージが詰まっています。

ショーロの華はなんと言ってもギターです。通常のギターの他に、マンドリンやウクレレの音色に似た小型のギターが加わるため、ファドほど沈んだ雰囲気になりません。ギターの音色だけでなく管楽器や打楽器の絡み、渋くて貫禄のあるヴォーカル等、オーディオ的にも満足できました。個人的にはマイナー調の曲が好みですが、各所に配された明るい曲がいいアクセントになっています。重鎮Sivucaの滑らかなアコーディオンはクセになります。100年ほど前にサッカーの試合で、ブラジルがウルグアイに1:0で勝った際に作られた軽快な曲「1:0」もあります。まあ、現在なら「1:7」で作曲どころではないでしょうが。


カフェブラジルはコンピレーションアルバムながら、かなり売れたようです。2匹目のドジョウを狙ったのかどうかわかりませんが、『Cafe Brasil 2』も出ています。と言っても、こちらはコンピレーションではなく、『Cafe Brasil』に参加していたエポカ・ヂ・オウロというショーロのバンドの作品です。まず『Cafe Brasil』を聴いて興味が湧いたらこちらもどうぞ。


サウダージつながりでもう1枚。こちらは、FM放送J-WAVEの番組「Saude Saudage」の関連CDで、90年代の前半に購入しました。番組がスタートした88年は、私がボサノバに興味を持ち始めた時期でもあります、ラテン音楽を主体とした番組は貴重な情報源でした。この番組は現在でも続いていて、ジャンルのマイナーさからすれば、立派な長寿番組と言えます。ちなみに初期のナビゲーターは宮崎ますみさん(旧名)、現在は、「おもてなし」の滝川クリステルさんです。日曜の夕方の時間帯は、休日が終わる寂しさともマッチしていて、案外、支持層はサラリーマンじゃないかと推測しています。


台風が去った12日の横浜方面もかなり暑くなりました。W杯の進行中にも着実に季節は進んだようです。写真は近所のふるさと村の様子です。梅雨の晴れ間の表情に、夏本番が近いことを実感します。
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Mas que nada

2013-07-14 08:51:21 | ボサノバ/ラテン
昨日、AIT LABOの代表さんを訪問し、DACのクロック供給方法の改良をお願いしました。詳細や音については聴き込んでから報告します。さて、いよいよ本格的な夏となりましたね。先週は名古屋方面に出る機会がありましたが、横浜と同じく大変な暑さでした。先の台湾は日差しこそ強かったですが、蒸すような不快感はありませんでした。都会特有の暑さなのかもと思いました。暑さには熱い曲で対抗・・・というわけではありませんが、今回はラテンの名曲、「Mas que nada」を取り上げてみます。この曲自体は様々なアーティストが取り上げています。テイストの違いが結構出るので、聴き比べるのも楽しいです。

私が最初にこの曲を聴いたのはSergio Mendes&Brasil '66が最初でした。もう21年以上も前のことですが、やはり7月の暑さの頃だった事は覚えています。前年に初めてのステレオコンポーネントを揃えていたので、CD購入意欲は高かった時期です。すっかり嵌っていたボサノバ路線のアルバムを探す中で、洗練されたSergio Mendesのサウンドに出会ってすっかり気に入ったというわけです。女性ヴォーカル二人の声質がフワッとしていて、Sergio Mendesのピアノの旋律の上を泳いでるような印象です。私の中では「Mas que nada」の原型は都会的で洒落ていて、聴くなら冷房の効いた部屋で飲み物と一緒に、です。


「Mas que nada」のオリジナルは、Jorge Benです。この事を知ったのはブラジル系のコンピレーションアルバムを通じてJorge Benの存在を知って以降のことです。本家の「Mas que nada」は骨太で押しの強さが魅力になっています。モノラル音源なので余計にそのような印象を受けます。Jorge BenやElis Reginaはブラジルでも絶大な支持を受けたアーティストですが、日本で有名なSergio MendesやAstrud Gilbertoが本国では案外だと書物で知りました。デビューアルバム『Novo』はほぼオリジナルで固められていて、作曲者Jorge Benの魅力も楽しめます。5曲目「Chove chuva」も後にSergio Mendesがカヴァーしています。


続いて「Mas que nada」を取り上げてるアーティストの作品から。以前に「Antonio's Song」でとり上げたAnna Caramの1996年のアルバム『Sunflower Time』に納められています。チェスキー時代のアコースティックな印象が強く、エレクトロ色には戸惑いも憶えましたが、颯爽とした「Mas que nada」を楽しめます。

今はラテン/ボサノバの曲はジャズにおいてもスタンダードの一角を占めるようになりました。ちょっとしたスパイスとして効きますね。だからアルバムでもライブでも好みのラテン系の曲が始まると嬉しくなります。Emilie-Claire Barlowはしばらく日本に来ていませんが、本国カナダでは活動しているようです。


最後はピンクマルティーニ&由紀さおりの『1969』です。これが話題なったのは2年前ですから、時が経つのはあっという間ですね。勿論、番外編ではなく、ちゃんと聴ける「Mas que nada」として紹介します。年齢を重ねた分、声に重みが出て、Jorge Benの原曲に相通ずる部分を感じます。


ところで「Mas que nada」の意味ですが、諸説あるようですが、ポルトガル語でいう「いいかげんにしてくれよ」「やなこったい」が曲には合致するようです。今は、この暑さ「Mas que nada!」といった感じでしょうか?今日もとても暑い日になりそうです。
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Triste

2012-08-12 10:31:10 | ボサノバ/ラテン
ロンドン五輪もあっという間に終わりですね。期待された選手がほぼ期待に応えた、そんなオリンピックでした。寝不足の2週間でもありましたが・・・。特に男女のサッカーの快進撃、水泳陣のチームワーク、久しぶりのメダルの女子バレー、が印象に残りました。オリンピックはモントリオール以降、リアルタイムで見ています。時代と重ねてシーンが頭に残っていますが、この点は音楽とも共通します。ロンドンの記憶もまた、思い出されることでしょう。

真空管使いとしては、この時期、オーディオは控えめですが、聴くとなれば涼しげなボサノバは外せません。Antonio Carlos Jobim作の「Triste」を紹介します。

ボサノバを始めとするブラジル音楽がオーディオのローテーションに入って四半世紀になります。このJobimの名盤『Wave』を買ったのも学生終盤で、私の所有しているCDの中では古参の部類になります。Jobimの曲は様々なアーティストが取り上げていますから、Jazzにおけるスタンダードのようなものです。最近は女性Jazzシンガーもアルバムの中でボサノバをスパイスとして入れていますね。「Triste」自体は地味な曲ですが、結構カバーされています。


まずはJorge Benと共に敬愛しているElis Reginaの作品から。Tristeは訳すると哀しみ。詞は片思いの男性の心情を歌ったもので、ブラジル独特のサウダージを感じさせる曲です。写真の『Elis&Tom』は、全般に演奏・録音の良いアルバムで、「Triste」でもアコースティックギターにエレキギターを交えたボサノバ+αのアレンジを楽しめます。このアルバムはどの曲もいいですが、冒頭「3月の雨」(向こうでは秋です)は、ちょっと疲れた時に聴いてみて下さい。


Elis Reginaは、別のアルバムでも「Triste」を取り上げています。これは輸入盤(ブラジル盤?)でジャケットも通常とは異なるもののようです。ジャケットにタイトルが明記されておらずコンピものかと思っていましたが、内容的には死後に発売された『Luz Das Estrelas』と同じです。こちらの「Triste」は、さらにシンプルな構成です。ストリングスが効いていてゆったり感があります。余談ですが、このアルバムには「Para Lennon E McCartney 」という、興味深い曲も入っています。


以前紹介したSergio Mendesや、Sophie Milmanにも「Triste」があります。曲自体はとてもシンプルなので、それぞれのカラーが出ますね。Sergio Mendesだとバックのコーラスが爽やか過ぎて、あまり哀しみといった雰囲気になりません。Sophie Milmanは間奏のフルートとハモるところが、聴きどころでしょうか。彼女はこれまで「おいしい水」「No more blues」をアルバムに取り上げていて、Jobimファンとしても嬉しい女性Jazzシンガーです。



ロンドンの開会式では音楽にもスポットライトが当たりました。ロックからサンバ・ボサノバへ・・・音楽とスポーツには国境が無いこと、そして時代を超えるインパクトがあること、を再認識しました。さあ、2年後のW杯と4年後のオリンピックはブラジルです。まさにViva! Brasilです。
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