ゴールデン・リタイアーズ

S20年生、後期高齢ゾーン、人生最終コーナー「遊行期」の
徒然残日写真録

121024 高倉健、大滝秀治の「あなたへ」観る、秀作、静かな深い感動!

2012年10月24日 | アフターセブンティ

 5月にみた中島みゆきの劇場版以来の映画。狂気の役者と評される大滝秀治さんがなくなり送る会での劇作家倉本聡さんの送る言葉に感銘。孤高の俳優、高倉健からも弔電、「あなたへ」の演技に深く感銘したと・・・。朝9時20分からの開演で1日1回だけの上映、ワーナーマイカル筑紫野にでかけた。わずか3名の観客。35分ごろから映画がはじまったがそれでも7名。富山刑務所の場面からスタート。高倉健がスクリーンに現れるだけで存在感がある。80を過ぎたらしいが5年ぶりの映画、降旗監督とは20作目らしい。なくなった妻(田中裕子)が遺言で平戸の海に散骨してほしい、平戸の郵便局留めにしている手紙をみてほしい(期限10日)と遺言NPOの担当から知らされ、自作のキャンピングカーで富山から飛騨高山、大阪、兵庫、下関、門司そして平戸までの1200キロの妻の遺志さがしの旅に出る。その間いろんな人と出会い、夫婦の愛、生きる意味など模索してゆく。いったいなくなった妻は何を言いたかったのか・・

111分の映画にひきこまれたのは淡々と進むストーリー、非常に美しい映像。立山連峰を背景にした祭り風景、ビートたけし演ずる偽国語教師が種田山頭火を語る背景の海の夕景、兵庫の天空の丘と称される場所での雲海とその中で演じられる和太鼓の勇壮感、散骨する平戸沖のだるま夕陽に映える小漁船のシルエット、写真をやっている眼からみるとまことに垂涎の風景が展開される。撮影技術と場所セッティングのスタッフ、監督の執念だろう。

それにしても冒頭、刑務所に慰問にきて啄木の歌を歌う田中裕子の歌声はこころにしみる。こんなに歌がうまいとは高倉健も感心したらしいがすばらしい。「おしん」で視聴率62%をだした女優、50をすぎてもなおその才は輝いている。「旅と放浪はどこが違うか、旅には目的がある」と夕日をバックに真面目に語っていたビートたけしがなんと車上荒らしであとのシーンで警察にひっぱられるなんて面白い脚本演出ではある。途中、草薙剛や佐藤浩一演ずる弁当の催事販売の男たちとの出会い、これが最後のシーンとからまってくるのはよくある脚本だが見ているときはいちいちこんなあらさがしをする暇もなくストーリーが展開される。

 究極、男と女は縁あって結ばれはするがお互い相手のことを完全に知ってるわけでもなし、すべてを相手に語っているわけでもない。田中裕子が高倉健に「あなたはいつもありがとうと言ったあと必ずでも・・・というのね」と。今時、こんな夫婦はいないかもね、ドメスティックバイオレンスやら離婚やらとしっちゃかめっちゃかの世の中。

 映画はラストに近づき、台風前夜で海が荒れている平戸に到着、散骨のため船を出してくれる人をさがすがこの天候では誰もうんと言わない。港の食堂でやり手の漁師の息子(三浦貴大)と昔、嵐の海で父親(実は陸にだまってあがってしまった佐藤浩一)を失ったいいなずけの娘(綾瀬はるか)と出会う。弁当販売の男(佐藤浩一)がもし船探しに困ったらこの男を尋ねればよいと教えてくれた漁師が実はこの息子の親であった。最初は大滝秀治演ずる老漁師は断ったが嵐がさったあと散骨のために船を出すことを了承する。散骨に出る前夜、食堂の女将(余喜美子)が海にでたら娘と婚約者の写真を流してほしいと頼む。どこかでなくなった夫(佐藤浩一)が見てくれるかもしれないと・・・。久方ぶりのなぎの美しい海に散骨の儀式は無事終わる。場面は門司港にうつり海を見ながら高倉健と佐藤浩一が話している。あずかった写真を海に流さず佐藤にわたす。母娘の顔つきと佐藤が似ていると思い持ってきたと。佐藤は自分の過去を話す。

郵便局留めの手紙にはありがとうの一文字しか書いていなかった。生き残った者がそれぞれの生きる場所、帰る場所を見つけて自分の時間を刻んでほしいという意図だったのか。この世の中、いろんな出会いがあり、夫婦があり、家族がある。がそれぞれの思いがどれほど伝えきっているか定かではない。がとにかく一緒に歩んできたことに感謝すればそれでよいのではないか。・・・ということをこの映画は伝えたかったのか、考えてもらいたかったのか。

役者一筋に厳しい映画界の荒波を生きぬいた狂気の俳優、幸せな男、大滝秀治さんのご冥福をお祈りします

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