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「十月晦になり落ち着かぬ宮は今夜と思えどいけず()」
「中納言思いのほかに不実だと思いなされて気の毒になる()」
「月かわり持ち直すと聞き五、六日つかいもあげずいたが気になる()」
「いろいろと用事の多い時期なれどそれらうちすておたずねになる()」
「修法は全快するまでするようにいえど無視して阿闍梨を帰す()」
「老女きて病状いえどこれといい悪くはないが食が細いと()」
「これほどに悪くなるまえ知らさぬはあんまりですと恨みごという()」
「御修法や読経始め明くる日は館の中もにぎやかになる()」
「日が暮れて『あちら』で湯漬けとすすめれどせめておそばで看病すると()」
「はじめから不断に法華経読ませたり十二人にて美声で読める()」
「御几帳を引き上げ中に入りたれば付き添う老女二、三人あり()」
「中の姫ふいと隠れて残されし病人寂しく横になりたり()」
「手を取りてお声きかせて言ったならそうはしたいがえらく苦しい()」
「どのような罪の報いを受けたのか人の怨みを負って病に()」
「中姫に長い看病いたわりて今宵だけでも寝んでくれと()」
「強情な思いやりなき女とておもわれるのはいやと辛抱()」
「男君指図をされて薬湯など差し上げたれどお飲みにならず()」
「不断経読める法師の声響き寝ていた阿闍梨目をさましたり()」
「故宮のことを語りて夢のこといまだに俗の姿でいると()」
「夢の宮気がかりありて願うとこいけないでいる往生させてと()」
「ご病人亡き父宮の成仏を妨げているいけないことと()」
「常不軽の行に行きたる僧たちは宇治から京を歩き帰れる()」
「霜冴ゆる汀の千鳥うちわびて啼く音かなしきあさぼらけかな(#175)」
「暁の霜打ちはらひ啼くちどりものおもふ人の心をや知る(#176)」
「中の姫容体案じ奥にある几帳のうしろ寄ってきたりし()」
「大姫は中姫に言う『もうだめ』と戒を受ければ命ながらう()」