wakabyの物見遊山

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書評「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年(村上春樹)」

2017-12-24 20:54:21 | 書評(文学)


2013年に発表された村上春樹の長編小説である。文庫版で421ページ、1巻のみの、彼の長編小説としては比較的短いほうの部類だ。物語としての面白さに引き込まれて一気に読めた。無意識を最大限活用して物語を紡ぎ出すのが彼の小説執筆作法だから、実際に物語の中でも夢や空想と現実が相互に影響し合っているし、精神分析的な深読みもできるのかもしれない。しかし私はそういう分析的な読み方より、自分の人生と世界の仕組み=謎を少しでも解き明かそうとする主人公の心の旅=冒険を共有できることに何よりの喜びを見出している。だから、村上春樹の小説を読んで何かを学ぼうとしているのではなく、読むこと自体が快感なのである。

高校時代の仲良し5人組から大学の時に追放されたことが今でもトラウマとして残っている主人公の多崎つくるは、人にこれと示せるような特質がない、つまり色彩が希薄であると自分で思っている。36歳になったとき、はじめて本気で好きになった沙羅から強く勧められて、高校時代の友人たちから自らが拒絶された理由を聞くために旅に出る。そこで聞いたことよって他者の弱さも知り、失われていた人生の断片を取り戻そうとする。一方、沙羅は他にも付き合っている男がいることを知る。最後に彼女は自分を選んでくれるのか決断を引き出そうとするが、結末は示されずに小説は終わる。
おそらく沙羅はつくるを選ぶのだと思うが、仮に選ばなかったとしても、大学時代で止まっていた彼の人生は再び動き出したのだ。それこそが大きな収穫ではないか、と言わんとしているようだ。


この小説に何度も出てくる音楽は、リストのピアノ曲集「巡礼の年」の中の「ル・マル・デュ・ペイ」という曲、それもラザール・ベルマンというピアニストによる演奏だ。それが映像と共にユーチューブに紹介されていた。
Liszt: Le mal du pays / Lazar Berman / Haruki Murakami / Années de pèlerinage




書評「100分de名著 スタニスワフ・レム ソラリス(沼野充義)」

2017-12-17 21:34:13 | 書評(文学)


ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムの作品ソラリスは1961年に発表され、日本のSFファンによる人気投票では今でも必ず上位に入る人気作品だという。1972年にはアンドレイ・タルコフスキーによって、2002年にはスティーヴン・ソダーバーグによって映画化されている。私は両方とも映画を見ていて、かなり感動したことをよく覚えているが、原作はまだ読んでいなかった。本書では、レムによる原作とタルコフスキーによる映画の違いを述べていて、それはかなり本質的なことのようなので、やはり小説を読んでみないといけないのだろう。
各回のポイントを抽出してみた。

第1回:未知なるものとのコンタクト
近現代の文学作品で名作として名高いものには、解釈の多様性を許すという共通点があり、様々な読み方が可能である。ソラリスもそうであり、様々の批評家が様々な解釈をしてきた。(ちなみに私が映画を見て強く感じたのは、過去のことが再び現れるとしてもそれはイリュージョンのようなものであり、けっして本当の意味でのやり直しはできない。そのことの哀しみ、無常観であった)この小説の一つの大きなモチーフは、心の中のトラウマが実体化された存在、「お客さん」とか「幽体F」と呼ばれるものの出現と彼らとのかかわりである。

第2回:心の奥底にうごめくもの
人間の深層にあるトラウマや人間関係などに焦点を当てる精神分析にも似ているが、この小説は人間に回帰しない。人間の理性を越えた、ソラリスという惑星の「海」という完全に不可解なるものとのかかわりが主題だという。

第3回:人間とは何か 自己とは何か
主人公のクリスの前に、自殺をしたかつての恋人ハリーが「お客さん」として現れる。クリスは悲劇に終わった関係をもう一度やり直したいという思いにとりつかれ、切ないラヴ・ロマンスの様相を呈してくる。この恋愛小説の要素がなかったら、「ソラリス」はこれほどの世界的ベストセラーにはならなかっただろうといわれている。ソダーバーグの映画はこのラヴ・ロマンスの部分に焦点を当てていたが、レムはそれに不満だったという。

第4回:不完全な神々のたわむれ
ハリーはクリスを愛するがゆえに自殺する。しかし、クリスは地球には帰らず、ソラリスの海という絶対的他者と向き合い続けるという選択肢を選ぶ。そして海を「欠陥のある神」ととらえる。一方、タルコフスキーの映画では、クリスは地球という懐かしいものへと帰っていくという描かれ方をしている。ここにもレムは大変不満で、議論の末タルコフスキーとけんか別れしている。映画と比べて原作は結末が難解になっているのかもしれないが、やはり読んで確かめてみる必要がありそうだ。

宇宙を感じさせる音楽を作り続けてきたのはこの人をおいて他にいないだろう。SF映画の主演をいくつもやっているが、生前「ブレードランナー2049」へのキャスティングも計画されていたという。さて、この曲とPVは、暗鬱でわけの分からないところが「ソラリス」のようだ。
David Bowie - Blackstar


娘の発表会

2017-12-09 19:49:14 | お知らせ・出来事
娘の発表会が2件ありましたので、ご報告です。

11月から12月にかけて、仕事、プライベートと忙しくて、ブログをアップするひまもありませんでしたが、ようやく一段落して久しぶりにブログ更新できるようになりました。この間、娘の発表会が2件ありました。1件目は幼稚園の発表パーティー(2017年11月18日)。2件目は習っているバレエの発表会(2017年12月2日)です。


幼稚園の発表パーティーの一こま。


年長組なので、今年が最後です。


星座をテーマにみんなで相談してショーを作ったそうです。
夏ごろプラネタリウムを見たことで、星座に興味を持つようになったとか。


こちらはバレエの発表会。


発表会が終わったあとは、来てもらったジジ、ババたちと、桜木町駅前のコレットマーレの鳥料理屋「さんけい」で打ち上げ食事会。


この店からは港方面の眺めがよく、きれいな月が見えました。