wakabyの物見遊山

身近な観光、読書、進化学と硬軟とりまぜたブログ

入院していました

2023-08-26 07:27:17 | お知らせ・出来事

夏休みを取って、入院・手術をしてきました(2023年8月10~16日)。3年前に初期(ステージ0)の直腸がんを切除してもらったのですが、手術した跡からポリープが何度も再発してくるので、根っこから再度切除することになったのです(ステージ0-1相当)。いちおう手術は問題なく済みましたが、組織の病理検査の結果、実際のステージがいくつだったかのをこれから聞きに行かなければなりません。また、今回の手術で再発が起きなくなるかどうかも、今後、様子を見ていく必要があります。そんなわけで、まだまだ油断はできません。

病室では、外を眺めるか、本を読むか、時々PCやテレビを見るか、寝るかして、毎日を過ごしていました。仕事はいっさいシャットアウトしました。4人部屋のなかで自分のベッドは窓際だったので、眺めはよくて、よく街や雲などの風景を見て、スマホでパチパチ撮っていました。そんな写真を並べながら時系列で振り返ってみます。

 

1日目(8月10日)、入院しました。ベッド横の窓からは国道1号線と鶴見川がよく見えます。眺めがいい場所になって、ラッキー。

 

2日目(8月11日)5:00。9:00から手術です。風景を見たり、音楽を聴いたりして、気持ちを整えます。何を聴けば勇気づけてくれるのかと悩みながら、ブラー、ポリス、10CCなんかを聴いていました。

 

手術は10:00で終わりました。難しい手術ではありませんでしたが、予定の11:00より早く終わりました。今18:00、麻酔は切れていますが、痛みはありません。水を飲んだり、歩く練習を始めます。

 

3日目(8月12日)5:00。朝早いと、少しめずらしい形の雲が見られます。これは、病室ではなくて、談話コーナーから見た風景です。家族が見舞に来てくれる日。

富士山と、手前の大山も見えます。早朝だけしか見えない風景です。

 

これは同じ日の5:30、病室から。この日の昼から食事が始まります。2日間の絶食からやっと解放されます。

 

4日目(8月13日)5:00。低く暗い雲が垂れこめています。昨日の夜から下血が続きます。食事を摂るようになった影響でしょうか。

 

9:30。高架の上には横須賀線や湘南新宿ラインが、高架の下には貨物線や相鉄JR直通線が走っています。

 

9:50。これは踊り子かな。遠くには工場の煙突から煙が出ていて、さながら働く街のようです。

 

今日(日曜日)はカヌーをよく見ます。近くにカヌーのレンタル・センターがあるので、休日に利用する人が結構いるようです。これは9人乗りですが、1人乗りもよく見ました。

 

鎮痛剤は安全で効果の弱いアセトアミノフェン。痛みはないのでこれで十分です。しかし、下血が止まりません。

 

15:00。雲行きがあやしくなってきました。

 

16:40。低層の雲のすきまから遠くの積乱雲が見える夏らしい空。

 

5日目(8月14日)5:45。まだ下血が止まりません。この日が退院という話もあったのですが、もうすこし様子を見ることになりました。

 

6日目(8月15日)17:30。台風7号が近畿・東海に上陸した日です。その影響で、このあたりも突然雨が降ったり止んだりの天気でした。やっと下血が止まりました。この調子なら明日退院できるということになりました。今日は天気が良くないので、今日退院じゃなくてよかった。

 

7日目(8月16日)6:00。11:00に退院しました。これから生きていくための身体の修理・調整の期間でした。こういうことはこれからも時々あるのでしょう。そして、1週間の休暇を取った感じもあります。しかし、体重も体力もだいぶ落ちてしまったので、これから取り戻していかなければなりません。


僕の読書ノート「がん-4000年の歴史ー上(シッダールタ・ムカジー)」

2023-08-19 07:54:26 | 書評(生物医学、サイエンス)

 

私はこれを、直腸がん手術後の病室で書いている。自分の問題はなるべく客観視していこうという考えでもって、直腸がん手術入院中に読む本として本書を選んだのである。人類のがん医療4000年の進歩の歴史について書かれた本書を読んだ感想を一言でいうと、今の時代にがん医療を受けられてよかったなという一言につきる。つまり、過去に営まれてきたがん治療はそうとうに無知と恐怖にまみれていたということである。麻酔も消毒もない時代から、大胆ながん切除手術が行われていたのである。そのまま手術台の上で亡くなることは普通にあったのだ。だから、今の時代にがん医療を受けられることは、完璧ではないにしても、幸運なことなのだと本書を読んでよくわかった。

著者のシッダールタ・ムカジーは、現役のがん研究者・医師であるが、まるで小説家か歴史家のように、がん医療の歴史を細密、かついきいきと描いている。長い物語として一気に読めてしまうのだが、私的にマークしておきたい箇所をピックアップした。

・がんと進化の関係は?「抗がん剤や免疫システムががんを攻撃すると、その攻撃に耐えられる変異クローンだけが増殖し、その結果、環境にもっとも適応したがん細胞だけが生き残る。変異から淘汰、そして異常増殖という、この冷酷で気の滅入るようなサイクルが、より生存能力の高い、より増殖能力の高い細胞を細胞を生み出していくのだ。・・・がんは、ほかのどんな病気とも異なる性質、つまり、進化の根本原理を利用するという性質を持つ。われわれという種が、ダーウィンの進化論における自然選択の究極の産物だとしたら、われわれの内部にひそむこの驚くべき病もまた、その究極の産物なのだ。」

・がんについての最古の記録は?「そのパピルス写本は1930年に翻訳され、今日では、紀元前2625年前後に活躍した偉大なエジプト人医師、イムホテブの教えを集めた書として考えられている。・・・イムホテブは次のように助言している。『乳房に隆起する塊のある(症例を)診察し、その塊がすでに患者の乳房全体に広がっており・・・その症例についてこう言わねばならぬ。”これは隆起するしこりの病である・・・乳房の隆起するしこりは、しだいに広がる大きな硬い腫瘤が乳房に存在することを意味する。・・・”』」

・「1846年から1867年という短い期間に、長いあいだ手術につきまとっていた二つのジレンマを一掃する発見が相次いでもたらされ、その結果、腫瘍外科医たちはふたたび、ハンターがロンドンで完成させようとした大胆な手術に注目するようになった。」1846年、歯科医ウィリアム・モートンが用いたエーテルを麻酔として、がん手術が行われ、1867年、ジョセフ・リスターによって石炭酸を消毒薬とした腕の重症の治療が行われた。「消毒と麻酔という一対の技術革新が、手術をその窮屈な中世の繭から解き放った。」この時代(19世紀から20世紀初頭)にがん手術で業績を残した外科医に、ウィーンのテオドール・ビルロートや、ニューヨークのウィリアム・スチュアート・ハルステッドがいる。

・1900年代初頭は、ハルステッドやその弟子たちによる「ラディカリズム」という、がんだけでなくその周りの組織もできるだけ除去する攻撃的ながん手術が席巻していた。

・白血病専門医シドニー・ファーバーと企業家メアリ・ラスカーの戦略的な政治活動によって、多くの資金を呼び寄せて米国のがん医療を進展させた。ダナ・ファーバー癌研究所やラスカー賞としてその名前が残っている。ファーバー自身、大腸の摘出術を受けて人工肛門をつけていた。がんだったと思われているが、本人はそれにについて触れなかった。

・がん医療の進展には、臨床試験の質の向上のために統計学者も貢献している。ブラッドフォード・ヒルという名のイギリスの統計学者が、抗生物質ストレプトマイシンの臨床試験において、薬剤投与群と「対照」群(プラセボ投与群)とに、患者を無作為に割り付けることで、バイアスのない中立な方法で検証できる方法を考案した。この無作為化臨床試験はその後の医学研究で永久に祭られることになった。また、1928年には、二人の統計学者、イェジ・ネイマンとエゴン・ピアソンが、否定的な主張の信頼度を評価するために、検出力という統計学的概念を導入した。検出力とは、ある検定や試験の持つ、仮説を否定する能力であり、検証された標本の数(症例数)に依存すると考える。これによって、症例数を多くすることで試験の質を高めることが求められるようになった。


ソール・ライター展を見に行く

2023-08-05 08:05:51 | 美術館・展覧会

ソール・ライター展を見に、渋谷のヒカリエホールに行ってきました(2023年7月30日)。「ソール・ライターの原点 ニューヨークの色」というタイトルの写真展で、1940年代からニューヨークで活動していた写真家ソール・ライターの生誕100年記念ということです。2000年代になって急に有名になった、そのころすでに80代になっていたこの写真家は、日本で知られるようになったのもここ数年のこと。いわゆる「エモい」と言われるような写真を撮り始めた元祖のような人です。私も比較的最近知って、写真集の書評を書いています

テレビ番組「美の巨人たち」でも紹介されていて、世間でカラー写真が脚光をあびるようになったのは1960年代くらいからであったのにもかかわらず、ソール・ライターはすでに1948年くらいからカラー写真を撮るようになっていた先駆者だと言われていました。今回、展覧会では色彩の綺麗さをたんのうしました。

 

会場にある大きなポスターを撮影すると、撮影者の影が右と左に写りました。そんな仕掛けですね。

 

この展覧会では、すべて撮影が自由でしたので、たくさん撮りました。

 

50年代にニューヨークで活躍していた最先端の芸術家・音楽家たちのポートレートが撮られています。ソール・ライターも、彼らと同じような志と熱量を持っていたのでしょう。これは、ジョン・ケージ。

 

アンディ・ウォーホル。

 

アンリ・カルティ=エブレッソン。20世紀写真家の巨人。

 

セロニアス・モンク。

 

マルセル・デュシャン。

 

そして、58年から60年代には、ハーバーズ・バザー誌にファッション写真が掲載されました。

 

シュルレアリスムみたいな写真もあります。

 

ファッション写真にも、ライターらしさが出ています。

 

写真撮影と並行して、絵もたくさん描いていました。水彩画が中心で、とくに色彩の鮮やかさがとても印象的です。これは、写真での色彩感覚に通じるものがあるといわれていて、今回、彼の作品の色彩を意識して鑑賞しました。

 

絵の展示の間に、ときおり写真もはさみこまれていて、その色彩感覚の鋭さに気づかせてくれます。写真では、雨や雪、夜、暗闇といったモノトーンの背景の中に、鮮やかな色を浮かび上がらせるのがとても上手です。

 

 

ソール・ライターのカラー写真の多くは、カラースライドで撮影されていました。それを、自分の部屋の壁に投影して、ときには友人とともに、よく楽しんでいたそうです。これは、その再現ルームです。

 

カラースライド群。我々の仕事でプレゼンテーションをするときも、今はパワーポイントをプロジェクターで映しますが、20年くらい前はカラースライドを映していましたね。

 

これが、圧巻のカラースライド・プロジェクション。10画面で、それぞれカラースライドが次々と切り替わり投影されていました。この展示が、今回一番良かったかもしれません。小さな写真をちまちま見るより、大画面で圧倒されるのが、展覧会で体感できる醍醐味だと思います。

 

さて、会場を出て、ヒカリエの中を少し探索します。

 

渋谷駅周辺の風景。

渋谷スクランブルスクエア。