ASDの人たちは社会的コミュニケーション能力が低いのにもかかわらず、人類の進化の中で淘汰されずに一定の比率で生き残ってきた理由を、様々な根拠から解説しているペニー・スピキンズらによる総説論文「人間の向社会性に代わる適応戦略はあるのか?人格の多様性と自閉症的特性の出現における共同的道徳性の役割」の和訳を紹介しています。
今回は3回目で、二番目の章「もう一つの向社会的適応戦略としての知的障害のない自閉症」を紹介します。
*1回目:ASD(自閉スペクトラム症)が存在する理由・論文紹介1
「タイトル、要旨、序文」
*2回目:ASD(自閉スペクトラム症)が存在する理由・論文紹介2
「共同的道徳性の出現と新しい適応戦略の可能性」
*4回目:ASD(自閉スペクトラム症)が存在する理由・論文紹介4
「知的障害のない自閉症は、価値のある技術的および社会的スキルを有している」
*5回目:ASD(自閉スペクトラム症)が存在する理由・論文紹介5
「ASを進化の文脈に含めるための進化学的基盤 」「結論」
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もう一つの向社会的適応戦略としての知的障害のない自閉症
知的障害のない自閉症は必ずしも不利ではない
自閉症スペクトラム状態は、しばしば集中的な社会的支援を必要とする障害と考えられており、したがって繁殖において不利です。 しかし、知的障害を伴う自閉症(それは通常、組織的な社会的支援が必要であり、外傷性脳損傷、結節性硬化症、脆弱X症候群、または新規の遺伝子変異に由来します)は、今日の診断された自閉症の症例の約30%にすぎません(Iossifovら 2014)。自閉症の最初に特定された症例はこのタイプでした。ただし、後に特定された知的障害のない自閉症(ASおよび高機能自閉症)は、遺伝的原因が異なり(Ronemusら 2014)、広い面における神経障害のレベルがはるかに低いため、明確に区別されます。
知的障害のない自閉症であるASは、現代社会に広く存在しています。人口全体の多様性における自閉症指数に関する研究(原則に基づく分析的思考の程度と、自閉症およびアスペルガー症候群の診断基準への一致を測定する:Baron-Cohenら 2001)は、人口の約2%が ASと診断されることを示唆しました。しかし、顕著な認知の違いにもかかわらず、ほとんどは診断されないままです。「翻訳で失われる:自閉症と物質文化」プロジェクトの一環としてヨーク大学での557人の学生の研究では、2%の人がASを示唆する自閉症指数の範囲にスコアリングされ、Baron-Cohenら(2001)は、840人のケンブリッジ大学の学生の同様の研究において、同じ割合を見出しました。これは、一般(つまり非学生)集団の対照サンプルでの分布とも一致します(Baron-Cohenら 2001)。Baron-Cohenは次のようにコメントしています:
人類学的な観点は、ASを持つ個人を社会の外部にあると見なすよりむしろ、異なる社会性を有していると認識する必要があると主張しています(Grinker 2010; Ochs and Solomon 2010)。ASを持つ個人は確かに、ルールと論理の使用に基づいているという点で異なる「心の理論」を発達させますが、それでもうまくいっています。「心の理論」は子供時代の後半で発達し、制限されています(ASを持つ個人は二次的なレベルの「心の理論」、つまり「Xがこれを信じているとYが信じること」というところで失敗する可能性が高い。:Baron-Cohen 1989)。しかし、非社会的というよりむしろ、ルールに基づいた「心の理論」は、長期的な共同計画を促進することを含めて、社会的に「仲良くする」(Baron-Cohen 2009)のに十分です(W. Yoshidaら 2010)。誰かが自閉症を抱えており、ASを持つ個人が、社会、特に工学、数学、物理学、情報技術、法律などの分野でしばしば高いレベルの役割と機能を持っていること(Rodman 2003; Fitzgerald 2004)、そしてパートナーと子供がいることを、普段の知り合いからは気がつかないがよくあります(Baron-Cohenら 1998; Lau and Peterson 2011)。
論理に基づいた社会的理解は、感情的および社会的に複雑な状況の理解においては不利をもたらす可能性がありますが、肯定的な社会的評判に寄与する可能性のある技術的および社会的な他の領域の能力を高める認知の可能性を開きます。