wakabyの物見遊山

身近な観光、読書、進化学と硬軟とりまぜたブログ

僕の読書ノート「在野研究ビギナーズ(荒木優太)」

2020-11-28 08:37:06 | 書評(その他)

 

研究者にもいろいろいる。家で趣味のような研究をしている自称研究者から、アカデミズムの頂点に君臨する東大教授まで。以前、東大の物理学科教授の本「研究者としてうまくやっていくには(長谷川修司)」を読んだことがある。自信にみなぎった筆致で書かれていて、こういうレベルの研究者は研究力だけでなくコミュニケーション力とプレゼンテーション力に長けていて、大学でも企業でも行政でもどこに行っても成功できるような人材なのだろうと思った。それに比べると、「在野研究ビギナーズ」に出てくる在野研究者たちは、自らの生き方に悩みながらも、研究をやりたいという強い欲求を実現するために精一杯苦労して生きている人たちで、一言で研究者と言ってもずいぶんと違う印象がある。

世界の中で見ると、日本の科学研究の競争力はそうとう低下してきているとよく言われる。それは海外と比べて、国から大学に支給される研究費が減り続けているからだという。さらに、多くの大学は学生の教育機関になってしまっていて、研究ができていない。研究しかできない「研究バカ」を雇う覚悟もなければ、資金もない。そんな時代になると、在野研究の価値も高まってくるのではないだろうか。本書を読んで見えてきた研究者の定義とは、研究をやって、論文あるいは著書を出す人、つまり研究成果を世の中にアウトプットしている人たちである。残念ながら「在野研究ビギナーズ」に出てくる18名の研究者のうち、理系の研究者は1名のみであった。また、大学でも在野でもない、企業の研究者については触れられていなかった。文系の研究法は基本的に文献調査なので、比較的、在野でも研究をやりやすいということもあるのかもしれない。在野研究者の先駆者として出てくるのは、イバン・イリイチや山本哲士だ。

本書に出てくる唯一の理系研究者は、昆虫のハエ類(双翅目)の分類を研究している熊澤辰徳氏である。熊澤氏は、ウェブサイト「知られざる双翅目のために」やプロ・アマ問わず投稿ができるウェブ雑誌「ニッチェ・ライフ」を運営している。どちらも覗いてみたが、「ニッチェ・ライフ」のほうは生物に関する研究や様々な文章が掲載されていて内容も読みやすそうである。その中の熊澤氏によるコラム「自宅に研究室を持つ――DIY Biology の現在とこれから」には、専門的な実験装置をいかに安価にそろえるかという海外での試みが紹介されていて興味深かった。こうした在野研究がもっと盛り上がれば面白いのにと思った。

人文学を研究する石井雅巳氏による文章では、図書館の利用や大学院生との共同研究なども可能な島根県立大学の市民研究員制度が紹介されていた。こうした制度は他の公的研究機関でも実施しているところがあるようなので、在野研究者が研究機関の資産を活用したり人的なつながりを持つのに役に立つ可能性がある。

本書に出てくる研究者たちはそれぞれ、推薦本を紹介している。その中で、山本貴光氏+吉川浩満氏が紹介している「アイデア大全ー創造力とブレイクスルーを生み出す42のツール(読書猿)」は勉強になりそうだ。


からだ慣らしの山歩きー念仏山

2020-11-21 10:02:02 | 東丹沢

2月の大野山登り以来の家族山歩きとして、東丹沢の念仏山に行ってきました(2020年11月14日)。ここは大山から伸びる尾根の1つです。8年くらい前に、念仏山~高取山~蓑毛越というコースを歩いたことがあります、今回は家族での山行だし、私としても久しぶりの山歩きでからだがなまっているので、無理はせず手前のほうにある念仏山のあたりまで登って戻ってきました。

小田急線秦野駅からバスに乗り、曽根弘法バス停で下車して歩きます。

これから登っていく山並みが見えてきます。ところで、手前の民家の庭に何かいます。

キジです。飼われているのでしょうか、野生でしょうか。

近づいたら逃げていきました。

 

秦野国際乗馬クラブでトイレをお借りしました。競走馬だった馬たちが引退後に、趣味の乗馬用やセラピー馬としてここで暮らしているのです。定年後の生き方ですね...他人ごとでなくなってきました。

 

弘法山と念仏山への道が交差する善波峠には古い石仏が置かれています。

 

このあたりの山道は広葉樹林で囲まれているので、明るくて木漏れ日ウォーキングが気持ちいいのです。

 

念仏山(357m)頂上に着きました。

今日はかすんでいますが、念仏山頂からは箱根の山並みが望めます。

少し奥のほうに行くと、富士山も見えます。ここに来るまでに、ワシかタカが飛んでいるのを2回ほど見ました。おそらく、この大山山麓に生息しているのでしょう。このあたりの自然の懐の深さを感じます。

ここからさらに高取山のほうに上っていくことにしました。標識が示す大山・蓑毛方面です。

 

木の根で階段状になったところを下りたり上ったりします。

 

標高400mくらいまで来たでしょうか。娘はまだまだ登る気満々ですが、妻が断念したのでここで山を下ることにしました。

 

下りの途中、めずらしく針葉樹林帯もあって、下のほうはうっそうと暗くなっています。

 

大きな鉄塔の下を通っていきます。

 

ススキの季節ですが、

まだあまり紅葉は見られません。

善波峠のところまで戻ってきました。ここは両側が切り通しになっていて、地層が出ています。詳しくないのでよくわかりませんが、わりともろい岩石でした。調べてみると、このあたりの地層は、丹沢層群煤ヶ谷亜層群といって、新生代新第三紀中新世中期(1300万~850万年前)のころに太平洋の海底でできて、プレートに乗ってここまで運ばれてきたもののようです。まだ、ヒトとゴリラの共通の先祖が生きていた時代です。

 

人工物も多いですが、こういう里山の風景はホッとしますよ。


哺乳類進化研究アップデート No.1ー自殺の由来

2020-11-14 20:53:41 | 哺乳類進化研究アップデート

今回から新たなシリーズを始めたいと思います。題して「哺乳類進化研究アップデート」です。私の専門や興味を活かし、本業の仕事とは別のところで、他の人があまりやっていないことで、なにをみなさんに提供できるかと考えてたどりついたテーマです。進化学と一言で言ってもとても広い科学の分野なので、私たちヒトも含めた哺乳類にしぼり、まだ本にも載っていないような最新の研究成果を世界のトップジャーナルから集めてきて紹介しようという考えです。ネイチャー、サイエンス、セルという世界の3大トップジャーナルとそれらの姉妹紙を中心に、最近2、3年で報告されたオープン・アクセス(フリーで公開されている)の論文、総説、記事について、私なりにかみ砕いて説明できたらと思っています。

一回目は、自殺について進化学的に考察している研究者についての記事を取り上げてみます(「進化の謎を探る。驚くべき進化学の仮説は、人間が自分自身を傷つける理由と何千年もの間自分自身を安全に保ってきた方法を考察している」Probing an evolutionary riddle. A startling evolutionary hypothesis considers why humans harm themselves—and how they've kept themselves safe for millennia. Elizabeth Culotta. Science, 2019: Vol. 365, Issue 6455, pp. 748-749)。日本人はもともと自殺率が高く、とくにこのコロナ禍で芸能人の自殺が多いのが気になります。自殺はよくないことで自分だけでなく家族や周りも不幸にしてしまうと言われているのはもっともですが、仏教において、頂いた自らの命を絶つということをすると死んでからも本来行くべきところに行けないかもしれないとまで言われると、そこまで言われなければいけないのだろうかと疑問に思ってしまいます。そうした道徳的、宗教的なところから離れて、自殺というものを進化学的に解釈しようと試みている研究を取り上げたのがこの記事です。

ダーウィンは「種の起源」において「自然選択はそれ自体に害を及ぼすものは決して作らない」と書いています。しかし自然選択が作り出した人間はそのことを行ってきました。世界保健機関によると、自殺は暴力的な死の主な原因であり、世界中で毎年約80万人が亡くなっています。これは、すべての戦争と殺人を合わせた死亡者数を上回っています。少数の進化論的思想家たちがこのパラドックスを解決する方法を考えていました。しかし、著名な進化心理学者であるニコラス・ハンフリーは、例外なく説明ができるような説がないと感じていました。そこで彼は自分で探求を始め、「自殺は重要な適応の悲劇的な副産物である可能性が高いーそれが洗練された人間の脳である」と結論付けました。そして、クリフォード・ソーパーという心理療法士が同様の考え方を示していることに気付きました。もともとは自殺をした人たちを社会的評判から救いたいという思いから始めた調査の結果ですが、その考え方は「自殺は人間の知性の結果であり、それが私たちの心と文化を形作っている」というものです。ソーパーは彼のモデルを「痛みと脳」と呼んでいます。すべての生物は痛みを感じます。これは脅威を回避するために不可欠です。しかし、人間以外の動物には自殺をすることの証拠が見つかっていません。一方、人間はユニークな大きな頭脳を持っており、複雑な社会生活、文化、死の意識を持つことができます。そのため、苦痛に直面したとき、洗練された心は死を逃げ道と考えることができるという考え方です。つまり、人間における自殺は生物学的には自然なものだという考え方です。したがって、自殺の抑止は、社会や文化や宗教が担うことになります。そうした防御力が壊れると、後追い自殺や自殺の連鎖が起きると考えています。

埋め込み画像 クリフォード・ソーパー

こうした考え方は、自殺は主に精神病によって引き起こされるという医学的見解とは衝突するものです。さらにソーパーは、精神疾患自体が自殺に対する予防策になり得ると提案しています。たとえば、うつ病に伴う自発性の欠如が自殺行為の防止に役立つ可能性があるとしています。これについて医学的には反論もあります。

ハンフリーやソーパーの考え方は、進化学的な自殺の解釈としては興味深いものですが、まだ統一された結論とはなっていません。


僕の読書ノート「5分で論理的思考力ドリル ちょっとやさしめ(ソニー・グローバルエデュケーション)」

2020-11-07 20:51:43 | 書評(生物医学、サイエンス)

親子で算数・数学的思考力をトレーニングしたいなと思って購入した。「5分で論理的思考力ドリル」には、「ちょっとやさしめ」「(中間)」「ちょっとむずかしめ」と、3つのレベルの本があるので、まずは「ちょっとやさしめ」をやってみた。ソニーの研究所のエンジニアが考えた5つの思考回路「スキャン回路」「クリエイト回路」「リバース回路」「ノック回路」「ステップ回路」に分けて問題がまとめられているが、解いているときはそこらへんはあまり意識しない。小学校4年生までの算数の知識が必要なので、対象者は10歳から120歳までとされているが、小学校3年生で9歳のうちの娘でもけっこう解けるようだ。5分という制限時間にはこだわらずにやっているが、娘と私の正答率は同程度で70~80%くらい。私の場合、お酒を飲んでやると極端に正答率が低下する。そういうときでも解答方法はなんとなくわかるのだが、解き方がいい加減になってしまって、細部への不注意のため、不正解となってしまう。アルコールは正確な論理的思考力を損なうのだということがよく分かった。

問題が解けると気持ちがいい。こういうドリルを続けていると、脳のシナプス結合が増えてきて、頭の回転がよくなりそうである(シナプス結合や一部の神経細胞は老いてからでも増やすことができるのだ)。いちおう私は理系だけれど、学生時代、数学には苦手意識があった。時間に余裕ができたら、また数学に挑戦してみたいという気持ちもある。そんな自分にとって再チャレンジのほんのスタートという感じだ。