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僕の読書ノート「ポジティブ心理学の挑戦 ”幸福”から”持続的幸福”へ(マーティン・セリグマン)」

2020-07-25 21:57:41 | 書評(脳科学・心理学)

ポジティブ・シンキングと混同しやすいが、ポジティブ心理学は全くちがう概念である。そして、おもに医師が担っている精神疾患の治療を目的とした精神医学とも違っていて、おもに心理学者が担っている病者以外の人の心をより良くすることを目的としたプラクティスの一つがポジティブ心理学である。しかし、うつ病やPTSDなどの患者が対象範囲に含まれる場合もある。著者のマーティン・セリグマンはポジティブ心理学の創始者であり、アメリカ心理学会会長も歴任している。本書は、米国で2011年、日本で2014年に出版された、この分野では最新、最良のテキストだと思われる。しかし、内容は教科書的ではなく、著者たちによるこの新しい心理学分野の普及に向けた挑戦のエピソードを織り交ぜながら書かれているので、読みやすくできている。

現在、医学分野での精神療法・心理療法としては認知行動療法が主流となり、その派生であるマインドフルネスが医療だけでなく広く産業界も含めて活用されていて、私も生活の一部に取り入れている。しかし、そこから少し離れて、脳の中でポジティブな記憶とネガティブな記憶が互いに拮抗しているという生物学的な発見や、過敏性への対処のためにポジティブ心理学の有効性が示唆されていること(「過敏で傷つきやすい人たち」岡田尊司著)などから、前から気になっていて読んだのが本書である。

 

各章ごとに要点をまとめてみた。

第1章・ウェルビーイングとは何か?

・幸せの1つの要素「エンゲージメント」=「フロー」状態を得るために重要なのは、自分の最高の強みを見つけて、それらの強みを頻繁に活用することを学ぶことである。強みを見つけるための「VIA・強みテスト」は「ポジティブ心理学 ペンシルベニア大学公式サイト」(日本語版あり)で無料受検できるし、本書の巻末に簡略版の「強みテスト」が付録として付いている。

・かつてのポジティブ心理学のテーマは、「幸せ」であり、「幸せ」の判断基準は「人生の満足度」であった。しかし現在は、ポジティブ心理学のテーマは「ウェルビーイング」であり、「ウェルビーイング」の判断基準は「持続的幸福度(flourishing)」と考えられている。

・ウェルビーイング理論は、5つの要素「ポジティブ感情」、「エンゲージメント」、「意味・意義」、ポジティブな「関係性」、「達成」からなる。これら5つの要素の頭文字を取って「PERMA」と表される。「ポジティブ感情(P: Positive emotion)」の中の単なる一要素が、主観的尺度である幸福感と人生の満足度という位置づけになっている。「エンゲージメント(E: Engagement)」は、主観によってのみ測定される「自分にとって時は止まっていたか?」「自分は仕事に完全に没頭していたか?」「自分は没我状態にあったか?」などが含まれる。「意味・意義(M: Meaning)」は、自分よりも大きいと信じる存在に属して仕えることであり、主観的な判断だけではなく、公正かつ客観的な判断も含まれる。「達成(A: Achievement)」は、そのもののよさのために追及されるものだ。「関係性(R: Relationships)」は、他者との関わり、他人に親切にすることである。

・幸福理論を人生の指針とすると、自分の老いた両親を放置してしまったり、夫婦は子どもを持たないという選択をするかもしれない。一方、ウェルビーイングが意味と関係性を含むものとして視野を広げると、なぜ夫婦が子どもを持つことを選ぶのか、なぜ自分の老いた両親を世話することを選ぶのか、理由が明らかになる。

 

第2章・幸せを創造するーポジティブ心理学エクササイズ

・「うまくいったことエクササイズ」毎晩寝る前の10分間で、今日うまくいったことを3つ書き出して、それらがどうしてうまくいったのかを書く。日記でもパソコンでもなんでもいいが、書いたものの物理的な記録を残しておくことが大事である。3つの出来事は重大なことでもそうでなくてもよい。これを続けると、6ヵ月後には、落ち込むことが少なくなり、幸せになるという。

・「特徴的強みエクササイズ」自分の特徴的強みを新しい方法で、かつ頻繁に活用することで、その強みを自分のものにするように働きかけることが目的だ。特徴的強みの活用で得られるものは、当事者意識と本来感(本当の自分らしさ)、高揚感・喜び・活力・恍惚感、学習曲線の急上昇、新しい方法を見つけたいという渇望感、活用することへの必然性の感覚などがある。やり方としては、上記の「VIA・強みテスト」を受けて、自分の強みの上位5位を見つける。テストの後、今週決まった時間を設け、職場か、自宅か、余暇で、一つかそれ以上の自分の特徴的強みを新しい方法で活用する。その時、強みを使う機会を決めておく。例えば、自分の強みが「創造性」の場合、脚本の執筆を始めるために、ある晩に2時間取ってみる。また、自分の強みが「審美眼」の場合、通勤に20分余分にかかるとしても、職場との行き帰りに遠回りの、美しい道を選んでみる、などだ。そのエクササイズの前、最中、後でどう感じたか、自分の経験を書いてみる。

 

第3章・薬とセラピーの”ばつの悪い秘密”

・「積極的-建設的反応のエクササイズ」自分が大切に思う人たちは、彼らの勝利や成功や好ましい出来事についてよく話してくれるものだ。それに対して、こちらがどのように反応するかで、相手との関係性を築くか壊すかが決まる。反応する方法は、積極的か受動的か、また建設的か破壊的かによって、4つの組み合わせがある。そのうち、積極的×建設的な反応だけが相手との関係性を築く方向に作用する。エクササイズとして、1週間、自分が大切に思う相手の身に起きたよい出来事について、相手が自分に話してくれるたびに、注意深く耳を傾け、積極的に、かつ建設的に反応する努力をしてみる。そして、「相手の出来事」「自分の反応」「自分に対する相手の反応」を毎晩記録する。これが得意でない場合は、最近見聞きしたポジティブな出来事を書きとめ、自分がどのように反応すべきであったかを書き出してみる。あるいは、朝目覚めたとき、5分間、今日出会う人たちがどんなよいことを話してくれるか思い浮かべ、積極的×建設的な反応をする準備をしてみる。こうしたことは自然に習得されるものではないので、勤勉に努力しながら習慣化されるまで訓練を重ねていく。

・大部分のパーソナリティ特性は強力な生物学的基盤があるものだ。人は悲しみや不安、宗教性などの強い傾向を遺伝的に受け継いでいる可能性がある。だから、現実的なアプローチは、悲しみや、不安や、怒りの只中にあっても、うまく機能することを学ぶこと、つまり、ネガティブ感情とつき合うことである。リンカーンもチャーチルも重度のうつ病患者であったが、彼らは憂うつ症や自殺願望と付き合いながら大変よく機能した人間である。こうした人たちの課題は、このような感情と闘いながらも堂々と生きることである。

・セリグマンにとって大きな転機は、1970年から71年まで、アーロン・ベック(認知療法の創始者)の下で精神医学の研修を受けたときである。ベックのアドバイスによって、動物実験を行う実験心理学者から、現実の人間に向き合う応用心理学者に転身したのである。

 

第4章・ペンシルベニア大学MAPPプログラム

・セリグマンは、ポジティブ心理学を習得するためのコースをいくつか作ってきた。その一つが、ペンシルベニア大学MAPPプログラム(応用ポジティブ心理学修士課程)である。その教授陣の一人で、ポジティブ感情研究の第一人者であるバーバラ・フレドリクソンは、ロサダ比を提唱している。ロサダ比とは、ポジティブな発言対ネガティブな発言の比率のことである。例えば、会社の経営は、2.9:1の比率を上回ると良好で、下回ると悪化している。結婚生活は、2.9:1では離婚を招く、愛情に溢れた結婚生活には5:1が必要だという。

・労働(ジョブ)、仕事(キャリア)、天職(コーリング)という区別がある。人はお金のために労働をする。お金がストップすれば働くことをやめる。昇進のために仕事を続ける。昇進がストップするか頭打ちになれば、仕事をやめるか日和見主義の抜け殻となる。それとは対照的に、天職は、それ自体の目的のために完遂される。給料や昇進なしでも従事するものだ。天職とは、選んで行動するのではなく、選ばれて・向うから呼ばれて(コーリング)行動することである。

 

第5章・ポジティブ教育ー学校でウェルビーイングを教える

・ウェルビーイングを学校で教えることで、抑うつ患者の急増に対する特効薬となり、人生の満足度を向上させ、よりよい学習や創造的な思考を促す助けになる。学校向けのプログラム「ペン(ペンシルベニア大学)・レジリエンシー・プログラム」(PRP)において、効果を実証してきた。

 

第6章・知性に関する新理論ー根気、徳性、達成

・人間は過去(環境、遺伝)に突き動かされる存在なのか、未来(自由意志)に引き寄せられる存在なのかという2つの考え方がある。従来の心理学は前者であったが、ポジティブ心理学は後者の立場に立つ。多くの場合、人は自らの行動に責任がある。そして、人の不運な選択は自らの徳性に起因している。責任と自由意志は、ポジティブ心理学においては必要なプロセスである。ポジティブ心理学では、劣悪な環境を解消していくだけでなく、自らの悪い徳性もよい徳性もともに特定した上で方向づけていくことで、世界をよりよい場所へと作り変えていくことが可能となると考える。

・「達成=スキルX努力」の基本方程式が成り立つ。この中のスキルとは認知的情報処理過程であり、その要素には、スピード、スローネス、学習率(知性の加速度)がある。一方、努力は非認知的要素であり、徳性、自制心(自己鍛錬)、自己コントロール(自己制御)、根気(GRIT)といった言葉でも表わされる。本書には「根気テスト」(GRIT尺度)が付いているので、自分で根気のレベルが測定できる。

 

第7章・アーミー・ストロングー総合的兵士健康度プログラム

・50年間、人間は基本的に利己的な存在であると考えるのが進化論における流行であった。リチャード・ドーキンスによる「利己的な遺伝子」によれば、血縁による利他的行動は説明ができるが、無関係の人への利他心は説明がつかない。セリグマンは、ダーウィンの群選択という考え方で説明ができるとして、こう述べている。「彼は、一つの集団(遺伝的に無関係な個人からなる)が競争集団よりも長く生存するか、または多く生殖する場合、勝ち組の遺伝子プール全体が増えると仮定した。協力行動、そしてそれを支える愛情、感謝、賞賛、ゆるしといった群居感情が、その集団の生き残りに有利に働いたことを想像してみるとよい」

・セリグマンは、陸軍の総合的兵士健康度プログラム(CSF)に協力してきた。軍隊において精神的な健康の鍵となるのは、レジリエンス(精神的回復力)である。社会的レジリエンスとは、ポジティブな社会的関係を促進させ、そこに全面的に関わり、維持させる力、ストレスや社会的孤立感に耐え抜き、立ち直る力である。社会面のレジリエンスとして、「共感」に重きが置かれている。他人が感じている感情を特定できる能力だ。

 

第8章・トラウマを成長に変える

・心的外傷後ストレス障害(PTSD)はよく知られているが、極端な逆境を経験した後で、激しい抑うつや不安、PTSDを示した後、人が成長し、以前より高いレベルで心理的に機能するようになる「心的外傷後成長」(PTG)が存在する。心理テストを行ったところ、人生でひどい出来事を経験した人は経験したことがない人に比べて強靭な強さ(ウェルビーイング度の高さ)を備えていた。さらに、ひどい出来事の数が多い人ほどそれは強かった。

・イラクとアフガニスタンでの戦争は、「携帯電話を持ち、戦闘の最前線からでも自分の奥さんに電話をかけられる初めての戦争」となった。イラク戦争の退役軍人の一人は「簡易爆発物を警戒するのは結構厄介ですが、食器洗いの分担や、子供の学校での成績のことでつまらないケンカをするのはもっと厄介ですよ。我々兵士の抑うつや不安の多くは、家で起きていることに原因があるのですよ」と述べている。家族内の人間関係はそうとうストレスの原因になるということである。

・苦境に立ったときに、リアルタイムで「破滅的な思い込み」に立ち向かうためのストラテジーは3つある。反証を集めること、楽観を使うこと、バランスと取れた見方をすることだ。例えば、妻とメールで連絡が取れなくなったとき、3段階モデルのバランスの取れた見方をしてみる。最悪のケース「家内が浮気している」、最高のケース「彼女は忍耐力もあって強い人だ。1秒たりとも心が揺らいだりすることはないさ」、最もあり得そうなケース「彼女は友人と出かけているんだな。今夜か明日にでも私にメールしてくれるだろう」を考えることで、破滅的な考え方「彼女は私のもとを去ったんだ」に対して反論する。

・セリグマンは陸軍に協力してきたことの心情を明かしている。「私はアメリカ合衆国を、ヨーロッパで死に至らしめる迫害を受けた自分の祖父母に、自分の子どもや孫たちが繁栄を築けるような安全な避難所を与えた国だと考えている。アメリカ陸軍のことは、私とナチスのガス室の間に立って闘ってくれた軍隊であると考えている」

 

第9章・ポジティブヘルスー楽観性の生物学

・セリグマンらは、1960年代半ばに「学習性無力感」を発見したことでも有名である。学習性無力感とは、最初に自らの力ではどうすることもできない不快な出来事を経験するやいなや受動的になり、困難に直面すると諦めてしまうことである。これは、動物実験によって発見された。そして、学習性無力感に陥ると、移植した腫瘍による死亡率が高まることを、1982年にサイエンス誌で発表したが、これが、彼が関与した最後の動物実験となった。その理由は、自分自身が動物好きであるため動物を苦しめることに大変な抵抗を感じていたこと、動物よりも人間を対象とするほうが興味を持つ問いに対して直接的なアプローチができること、動物実験を人間に当てはめようとすることには限界があるという外的妥当性の問題があるからであった。

・「学習性無力感」にはだれでもなるわけではない。およそ3分の1の人と動物は決して無力にならなかった。また、およそ10分の1の人と動物は最初から無力であった。ここで決して無力にならなかったのは、人生の妨げとなる出来事の原因が、一時的で、変わりやすく、局所的なものであると考える人たちであることがわかった。こうした人たちを楽観主義者と呼ぶ。反対に、いつも悲観的に考えてしまう人たちを悲観主義者と呼ぶ。

・ウェルビーイングの身体的健康に対する影響は調査結果から次のように考えられる。「楽観性は心血管の健康に、悲観性は心血管の危険性に強く関係している」「ポジティブな気分は風邪やインフルエンザの予防に、またネガティブな気分は風邪やインフルエンザに対するより大きな危険性に関係している」「非常に楽観的な人はガンになる危険性が低い可能性がある」「健康な人で、良好な心理的ウェルビーイングにある人は、全死因死亡に対する危険性が少ない」

・楽観性と同じように、運動も機能的な健康資産となる。軍医総監の2008年度の報告書では、成人が1日につき1万歩歩くのに相当する運動をする必要性が明記されている。歩く以外に、水泳、ランニング、ダンス、重量挙げ、ヨガなど、どんな方法でもよい。セリグマンは自ら、万歩計をつけた歩行者による同好会を立ち上げ、毎日ウォーキングを継続しているという。


横浜散歩 その6-鶴見川河口干潟

2020-07-23 11:53:34 | 横浜

先日は、鶴見川を国道1号線新鶴見橋から下流に向かって歩き、横浜サイエンスフロンティア高等学校・附属中学校の手前あたりで帰りました。今回は、同じ経路をウォーキングして、ちょっと先の鶴見川河口干潟まで来ました(2020年7月14日)。鶴見川の河口近くは工場地帯のため、川岸が全てコンクリートで護岸されています。そのため、自然な形に近い河口部の川岸が見れるのは、ここ鶴見川河口干潟が唯一かもしれません。

 

サイエンス校の前まで来ました。

 

そのちょっと先に、このような緑地帯が作られていて、

 

ここの場所と、ここが鶴見川河口干潟であることが案内版で示されています。

 

緑地帯に入っていくと、川岸が見えてきました。

 

ネットに出ていた説明では次のように書かれていました。

「鶴見川河口の右岸は、いつしか干潟が形成されここにカニや稚魚などの多くの生きものが生息し、現在では貴重な河川環境となっている。平成19年に築堤工事が完了し、人々が鶴見川にふれあえるよう、この貴重な河口干潟を残し親水広場が整備された。平成23年度の「横浜市・人・まち・デザイン賞」まちなみ景観部門に選定された。」

波で堆積物が流されないように護岸工事がされています。

 

岸辺が白く見えるのは貝殻が敷き詰められているからです。砂だと波に侵食されやすいので、貝殻を敷き詰めたのかもしれません。

 

水質はわりと透明度があります。ボラのような魚が泳いでいました。逃げられてしまって撮影はできませんでしたが、稚魚の集団も見られました。カニなどの無脊椎動物は見つかりませんでした。

 

このように護岸されているのです。

 

また、国道駅からJR鶴見線で帰ります。

昔、車を持っていたころは、この国道15号線をよく通ったものです。


病は気から

2020-07-12 10:49:56 | 脳科学・心理学

じつは私、2つの手術を受けることになっています。その内容は、ここでは書きませんが、自分の免疫力がけっして高くはないんだと実感しています。もともと、低体温で風邪をひきやすく、胃腸も弱い体質です。そして、小さい頃からずっとネガティブ思考だったと思います。ここ数年、坐禅やマインドフルネス瞑想法をやってきたことで、ネガティブ・バイアスのかかった思考が多少は改善して風邪にもかかりにくくなったと思っていましたが、やはりかかるときはかかります。心理的なネガティブさが免疫の不調を誘導して病気になりやすくなること、つまり昔からよく言われている「病は気から」については、そのメカニズムについての研究が進んでいますので、そのあたりの報告を3つ紹介したいと思います。

 

1.よくストレスが慢性的に強くかかると交感神経が優位になって、病気になりやすいと言われています。そうしたストレスを低減するのにマインドフルネスが有効だということも知られています。しかし、リラックスしすぎて副交感神経が優位になると低体温になり、疲れやすい、体が痛い、うつ病などといった状態になりやすいとも言われています(「免疫力を高める生き方・食べ方・暮らし方」安保徹)。要はバランスが大切だということになります。今日紹介する「病は気から」の1つめの研究は、交感神経の作用を高めると、炎症性疾患の症状が軽くなるというものです。大阪大学の鈴木一博准教授らの研究グループによる報告です(2014年11月25日、The Journal of Experimental Medicine)。交感神経から分泌される神経伝達物質ノルアドレナリンが、リンパ球にあるアドレナリン受容体を刺激することで、リンパ球の移動を制御するケモカインレセプターの働きを高め、リンパ球はリンパ節の中に留まり、炎症が起きている組織にあまり行かなくなること、それによって炎症の症状が軽減することを示しました。アドレナリンと同じ働きをする薬剤、クレンブテロールをマウスに注射すると、多発性硬化症やアレルギー性皮膚炎の症状が緩和されることが下の図で示されています。

このように交感神経が活性化すると慢性の炎症性疾患の症状は軽くなるのですが、リンパ球が全身組織へ移動することが抑えられるので、感染が起きて病原体から身体を守るときには不利になるだろうとも考察されています。やはり、バランスが大切です。

 

2.2つめの「病は気から」の研究は、北海道大学の村上正晃教授らの研究グループによる報告です(2017 年8月15日、eLIFE)。こちらは前の報告とは逆に、慢性的なストレスや交感神経の活性化で脳に炎症が誘導されて、胃・十二指腸潰瘍や心機能低下が起きるというものです。下図のように、マウスに慢性的なストレスを与えると交感神経が活性化し、ケモカインが産生されることで、炎症性のリンパ球が脳血管に集まり微小炎症が起きます。そうすると、新たな神経回路が活性化して、迷走神経を通して胃・十二指腸に炎症が誘導され、心臓が機能不全になるということを示しました。

したがって、この場合は、ストレスが脳と臓器に炎症を起こすというストーリーを説明する研究になります。交感神経の活性化が炎症性疾患を良くするのか悪くするのかは、様々なシチュエーションで変わってくるのかもしれません。

 

3.3つめの「病は気から」の研究は、山梨大学の中尾篤人教授らの研究グループによる報告です(2020年6月20日、Allergy)。花粉症や気管支ぜんそく、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患は、精神的なストレスにより病気が悪化することが知られています。一方、“前向きな感情”は脳内では、ドーパミン報酬系という神経ネットワークが司っています。本研究では、マウスを用いてドーパミン報酬系をいくつかの方法で活性化し、そのアレルギー反応への影響について解析しました。ドーパミン報酬系を活性化させるために、遺伝子組換技術で脳内のドーパミン報酬系を人為的に活性化させる遺伝子を組み込む方法、ドーパミンの前駆体であるL-ドーパを脳内に直接注射する方法、人工甘味料のサッカリンを投与する(砂糖はアレルギーを増悪することがよく知られているので、人工甘味料を使ったのが本実験のミソです)方法の3つを試したところ、いずれの方法でも皮膚に惹起させたじんましん反応が減少することが示されました(下図)。

こうした研究はほんの一部ですが、自律神経系や前向きな感情といった精神的な働きが、様々なルートを通じて免疫系に作用し、炎症などの病態に影響することがわかってきています。交感神経と副交感神経のバランスを整え、ポジティブな感情を持てるようにすることが、病気になりにくくするのに大切のようです。


横浜散歩 その5-鶴見川(国道1号線新鶴見橋~綱島街道大綱橋)

2020-07-04 23:17:41 | 横浜

前回、鶴見川を国道1号線新鶴見橋から下流に向かって歩きましたが、今度は同じ場所から鶴見川を上流に向かって歩いてみました(2020年6月23日)。

 

国道1号線新鶴見橋からスタート。暴れ川と言われていた鶴見川ですが、普段は穏かな川です。

 

環状2号の末吉橋は工事中です。

 

鷹野大橋。このあたりから川岸に緑地が多くなります。

 

橋のすぐ上は川の合流地点で、奥のほうから流れてきたのは矢上川。先日行った矢上川フィッシングセンターのそばを流れる川です。左側が鶴見川の本流です。

 

歩行者専用の名前のわからない橋。

 

樽綱橋。このあたりは緑地帯が広いです。時間に余裕があれば、川の様子を見に下まで降りていってみたかったのですが、1時間のウォーキングと決めているので、先に進みます。

 

東海道新幹線の鉄橋。

このあたりの河岸は、運動場として使われています。

 

綱島街道の大綱橋。ここを渡って東横線綱島駅から電車に乗って帰ります。

 

大綱橋のすぐ北側を東横線が通っています。朝、通勤中に東横線から大綱橋を見るのですが、いつも歩行者が大勢歩いています。

 

東横線綱島駅から少し離れたところに、相鉄・東横直通線の新綱島駅が作られています。この線は地下を通っているため、新横浜駅近くの環状2号で最近2度にわたって陥没が起きていました。工事は大丈夫なのでしょうか。