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映画「キングスマン」:007への対抗心が生んだシャープなアクション

2015年10月04日 13時01分41秒 | 映画(新作レヴュー)
コリン・ファースがクールな面持ちを保ったまま,マーシャル・アーツの達人さながらの動きで次から次へと人を殴り殺しまくる。「世界最強のスパイ映画」という惹句に惹かれて観に行ったマシュー・ヴォーンの新作「キングスマン」は,そんな触れ込みを遥かに超えた拡がりを持つアクション映画の傑作だった。「007よりスゴい」(SUN誌)というチラシに書かれた評価は伊達ではなかった。

ヒーローは大英帝国の伝統を受け継ぐスタイリッシュな伊達男,黒幕の片腕はとびきりの腕利き,主人公のすべての活劇が終わった後に待っているのは美女との秘め事。至る所に埋め込まれた「VS.007」を感じさせる対抗心満々の仕掛けが,本作を凡百のアクション映画と決定的に異なるフレイヴァーを生み出した原動力として機能していると言っても良いだろう。
その証拠に本作のヒーローは,「エグゼクティブ・ディシジョン」の冒頭であっさり死んでしまったスティーヴン・セガール以来の驚きと言っても良い,突然の退場で観客を置き去りにしてしまうし,ラストの美女とのお楽しみも20世紀のアクション映画では考えられなかった下ネタでまとめてしまうのだ。単純なリスペクトでも,上から目線のパロディでも勿論ない,観客に本家を補色として意識させながら,様式美に留まらない新しいアクション映画を創造するのだ,という高い意識が本作のクオリティを格段に高めている。

サミュエル・L・ジャクソン扮する黒幕がIT革命の寵児スティーヴ・ジョブスを想起させることによって,「腐っても大英帝国」的なスノッブのプライドをスパイスにして物語の緊密度を最後まで保たせたシナリオも,世評は高いけれども私にはアクションのアイデアありきの継ぎ接ぎ紙芝居にしか見えなかった「M:I/ローグ・ネイション」よりも,遥かに優れている。
イギリス諜報組織のリーダーとしての品格と懐の深さを持ちつつ,ヒーローを支える執事という,新生「バットマン」シリーズの役どころも意識させるマイケル・ケインの起用や,クライマックスのアクション場面で,自作の「キック・アス」の発展ヴァージョンを挟み込むという小技のほか,秘密基地の過剰な規模や凄惨でありながらもクスリと笑わせる殺戮場面の工夫と余裕が,後を引く。

あとは,これだけ作品の質・興行面共に成功した本作を,本家「007」の最大の特徴であった「シリーズ化」は絶対させない,という矜持を制作陣が保てるどうか。高く評価した私も悩むところだ。
★★★★
(★★★★★が最高)


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