子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

TVドラマ「サンクチュアリ -聖域-」:極悪主人公版リアル「巨人の星」

2023年07月02日 17時57分40秒 | TVドラマ(新作レヴュー)
20年くらい前,仕事でドイツに出張した時にホテルでテレビのザッピングをしていたら,いきなり「バカノサト」というアナウンサーの言葉と共に相撲取りの映像が映った。ドイツ人の発音で「バカノサト」と呼ばれた力士は,関脇に上がったばかりの「若の里」だった。まさかヨーロッパで,日本でもスポーツとしてはメジャーと言えるかどうか微妙な立ち位置と言わざるを得ない大相撲が,有線チャンネルとは言え,本場所の取組が延々と放送されている状況は俄に信じがたかった。けれど力士が土俵際で必死に堪えている姿が,ミュンヘンのホテルのテレビに映っていたことは紛れもない現実だった。ひょっとするとこの日本にも海外から送られてくるカバディやポロの試合の映像を,JリーグやB1の試合よりも楽しみにしている人だっているのかもしれないのだ。だからという訳ではないが,ネットフリックス作品「サンクチュアリ -聖域-」の視聴数が日本以外でも伸びているという情報に触れても,それほどの驚きは感じなかった。むしろ土俵上の作法や控え室の空気感,取組の決め方など,大相撲に関して知らなかったことだらけの私の方が,

素質を見込まれ、福岡でスカウトされた清は猿桜という四股名を与えられ勝ち星を重ねていくが、その素行の悪さにより協会から引退勧告を受ける羽目に陥る。部屋のおかみさんの奔走により辛うじて相撲を続けられるようになった猿桜だったが、暗い過去を持つ異貌の力士静内との対戦で身体と心の両方に大きな傷を受ける。そんな猿桜の元を、彼を金づるとする母親が訪れ、父親の入院費を稼ぐよう迫る。果たして猿桜は再起できるのか。
と簡単に粗筋を括れるように,ものすごくシンプルなスポ根ドラマだ。不良があるきっかけからスポーツに目覚め、彼の才能を認めるメンターの下で厳しい鍛錬に耐え、最強の敵に立ち向かっていく。やがてそんな彼の姿に引っ張られるように、それまで微睡んでいた部屋仲間も覚醒する。少しは捻りがないんかい?と突っ込みたくなるベタな展開に加え,冒頭では批判的に見ていた新聞記者国嶋(忽那汐里)があっさりと猿桜の相撲に籠絡されてしまう安易なプロットや,脇役に関する伏線回収がまったくない事も含めて,8つのエピソードが終わった瞬間には「これで終わり?」という不満が湧き上がってきた。
そう。「ベタ」の続きが観たくなってしまっていたのだ。

そう思わせたひとつには,シンプルな筋立ての中にもれなく「親子の葛藤」が盛り込まれていることが挙げられる。毒親の斜め上を行く母親役の余貴美子の見事な崩れっぷりと父親きたろうとの関係を筆頭に,親方と猿桜・引退する猿谷の疑似親子関係,ライバルたちの複雑な家庭環境,そして新聞キャップと国嶋の関係。いずれもが切っても切れない縁の中でもがき,時には絆に背中を押されていく幾つもの物語が,相撲における土俵の存在のようにドラマを支えている。星飛雄馬と一徹親子の変奏曲と呼びたいくらいの「昭和スポ根」が,驚くほど新鮮に迫ってくるのだ。
そして何よりもドラマにパワーを与えているのが役者たちの肉体と,そのぶつかり合いをハイスピードで捉えた映像の力だろう。主役の一ノ瀬ワタル(どう見ても高校卒業直後の若者には見えないけれど)がラスト2話で見せた劇的な肉体改造自体が,これから綱取りに向けて歩んでいく長い道程のオープニングに相応しい最初のクライマックスになっている。ヒール役の力士たちの不敵な面構えも含めて,「メディア王」に対抗できる最高のクズ野郎ドラマと言える上々の第1シーズンだ。
★★★★
(★★★★★が最高)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。