子供はかまってくれない

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映画「エリック・クラプトン 12小節の人生」:人生も「スローハンド」の指捌きで

2019年01月13日 17時23分56秒 | 映画(新作レヴュー)
「スローハンド」。本作の主人公エリック・クラプトンにつけられた代名詞の由来には主に「あまりにも指の動きが速過ぎて,ゆっくり動いているようにしか見えなかったから」という説と,「切れた弦の交換をしているクラプトンを,呼び戻すために聴衆が行った,ゆったりとした拍手の調子から」という説の二つがあるようだ。その真偽はともかく,それまでこれといった大ヒット曲があった訳でもなく,アイドル的な人気を誇った訳でもなかったのにも拘わらず,そんなニックネームが定着するほど,業界や音楽愛好家の間で「伝説のギタリスト」としてリスペクトされていたクラプトン。「エリック・クラプトン 12小節の人生」は,3大ギタリストの一人として長年に亘って音楽シーンに君臨した彼の半生を丁寧に辿ったドキュメンタリーだ。

これまでもミュージシャンにフォーカスしたドキュメンタリー映画が数多く作られてきたが,その多くと同様に,本作も主人公と関わりの深い,もしくはその周辺にいて当時の状況を間近で見ていた人物の証言が,作品の中核を成している。時に制作サイドの人間であったり,彼の音楽に刺激を受けたミュージシャンであったり,多くの人々がクラプトンの人となり,音楽シーンに与えた影響等について語るのだが,彼らの証言はもっぱら当時の記録映像を補強する材料として使われ,インタビュー時の映像が殆どないという作りは実に潔い。だが本作の最もユニークなところは,エピソードの一番コアな箇所を証言するのが第三者ではなく,クラプトン自身だという点だろう。親友ジョージ・ハリスンの妻を奪ったり,ドラッグに溺れたり,といった波瀾万丈を,まるで本人の傍で取材していたジャーナリストのように静かに振り返る言葉は,まるでブルーズの滋味深いリフのように心に響く。個人的にはスティーヴ・ウィンウッドとの共演シーンが白眉。

だが全体的な作りには不満が残る。彼の人生を語るに際して前述した出来事に加え,愛息の死亡事故とそこからの回復というエピソードもピックアップされているのだが,ソロ時代初期に放った「アイ・ショット・ザ・シェリフ」のヒットという,音楽的に非常に大きな功績がスルーされてしまっているのは残念だった。勃興期にあったレゲエが,欧米のロックシーンに確かな地歩を築く先駆けとなった作品を,「ドラッグによる混迷期の微かな輝き」という描写で片付けられてしまったのでは,草葉の陰でクラプトンも泣いているはず。あ,まだ生きてたんだった。
★★★
(★★★★★が最高)


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