子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「(500)日のサマー」:劇中のイケア・デートを真似た,ニトリ・デートが流行ったり…はしないか

2010年01月16日 23時41分28秒 | 映画(新作レヴュー)
主人公の二人が初めて言葉を交わす場面でザ・スミスが使われている予告編を観た瞬間に,これはただものではないぞと思ったのだが,本編はその予想をも遙かに上回る素晴らしい作品だった。ジョセフ・ゴードン=レヴィットとズーイー・デシャネルという二人の主人公は,1年半弱という時間をランダムに飛び回る荒行に柔軟に対応して,揺れ動く心情をヴィヴィッドにスクリーンに刻みつけて鮮やかだ。

500日に亘って繰り広げられる若い男女の関係を,瑞々しいタッチで描いたコメディ。と書いてしまうと如何にも「恋愛映画」の体裁を想像するが,サマー(デシャネル)が「恋はしない」という宣言を,トム(レヴィット)に対して貫き通してしまうため,「二人の想いが高まってやがて…」という展開にはならない。
だが観終わって残るのは,映画の冒頭で,作品のモデルと思しき女性に対して投げかけられる「bitch!」という罵り言葉に含まれる,怒りと悔しさ以外の様々な感情だ。

「運命」と信じた出会いを,相手がそうとは思わない。それこそが正に彼にとっての「運命」だった,という皮肉を,時間をランダムにジャンプすることによってクールに描いてみせたのは,これが監督デビュー作となるマーク・ウェブ。
トムが有頂天になって街に飛び出していくミュージカル仕立てのシークエンス(その一部とメイキングショットがHPで観られる)や,LAの古い建築物が見渡せるベンチに座って,トムがサマーの腕にスケッチをする場面の瑞々しさは,特筆に値するものだ。

主にミュージック・ヴィデオで技を磨いたという監督の手腕は,音楽のセンスにも存分に表れている。その最たる例は,冒頭に記した出会いの場面でかかる,死をも厭わない恋人たちを描いたザ・スミスの「There Is A Light That Never Goes Out」。トムに対して「運命」を感じていないにも拘わらず,平気で「この曲,好きよ」と言うサマーの屈折した「bitch!」振りを,選曲一発で見事に表現している。
その他,昨年デビューして話題を蒔いたテンパー・トラップから,思わずみんなで踊ってしまうホール&オーツを経て,エンドクレジットで流れるマムラまで,四半世紀に跨って選ばれた曲は,どれも地味だが完璧に画面を引き立てている。

恋愛は成就しないのに,これ以上はないというハッピー・エンドになだれ込む最後のシーンは,作中で引用される「卒業」のラスト・シーンに漂う閉塞感の裏返しのように見えた。草食系男子こそ必見。
★★★★☆
(★★★★★が最高)


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