子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ミケランジェロ・プロジェクト」:”Holy shit!”

2015年11月08日 12時00分56秒 | 映画(新作レヴュー)
本作の終盤,ナチスが連合国軍側から強奪した美術品を焼却する場面が出てくる。戦争とは,主人公のスタウト(ジョージ・クルーニー)が語るように「人類の歴史」そのものと言える貴重な美術品に対する敬意が失われる,許しがたい事態であるというメッセージを伝える重要な場面なのだが,画面からはどうにも激しい怒りが伝わってこない。
同様に,8人の美術関係者で構成された美術品奪還チームのメンバーが,ひとり,またひとりと失われていく場面にも,黒澤明の「七人の侍」における同様のシークエンスに漂っていた喪失感のようなものは,微塵も感じられない。言ってみれば,それぞれが死ぬべき場面で淡々と銃弾を受けて粛々と退場していく,という感じなのだ。

ジョージ・クルーニーの監督作「ミケランジェロ・プロジェクト」は,ナチスが奪い取った美術品を,敗色濃厚な戦局を読んだナチス自らの手によって消失・散逸する前に奪い返すべく立ち上がった,戦争素人軍団の奮闘を描くという,筋だけ聞けばクルーニーの代表作「オーシャンズ11」シリーズを想起させるような躍動的な戦争アクション,になるものと誰もが期待したであろう作品だった。
軍団のメンバーもオーシャンズ・シリーズからの盟友マット・デイモンを筆頭に,ビル・マーレーにジャン・デュジャルダンと,個性も国籍も豊かな俳優が集結し,観客は勿論のこと,業界内のクルーニーに対するリスペクトも伝わってくるような構えだった。

しかし,出来上がった作品は残念ながら「グッドナイト&グッドラック」で見せたような鋭い切れ味は影を潜め,漂白された歴史の教科書を読まされているような何とも淡泊な味わいの冒険譚となってしまった。
その一番の原因は,冒頭のクレジットでも明かされるとおり,「事実に基づく物語」であるという制約から抜け出せなかった窮屈な脚本にある。
結果がどれ程ドラマティックなものであったにせよ,事実を物語としてスクリーンに再現するにあたっては,観客を惹きつけるキャラクターや予想を裏切る展開,顔を合わせずとも相手の手の内を読むことによって自ずと高まっていくサスペンス,などの要素が不可欠なのだが,本作にはどこを見渡してもそういったものが見つけられない。男たちが命を賭けて右往左往しながらも結局,デイモンとのラブ・アフェアも未遂に終わるクレール(ケイト・ブランシェット)というナチスの事務方を務めていたレジスタンス・シンパの女性の情報ひとつで,すべてが決まってしまうと云う展開には,どう反応して良いやら戸惑うばかりだった。

せめて,私のご贔屓ジョン・グッドマンに「アルゴ」レヴェルの役割が与えられていれば,と残念に思うが,次は監督に専念してベタな老年ラブコメなんぞで笑わせてくれないものかと,クルーニー監督への期待は継続。
★★
(★★★★★が最高)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。