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風・感じるままに

身の回りの出来事と生いたちを綴っています。

生い立ちの景色⑥ 〝三つ葉〟のパン屋

2008-09-26 | 生い立ちの景色
1951年10月。5歳の秋。

おっ母が「戦争が始まった」といった。稲刈りが始まったのだ。

 これから一と月半ほどは秋の取入れで忙しい日々が続く。今日も俺が起きると、すでにおっ父と一番上のマサル兄いは田んぼに出かけていなかった。

 おっ母が炊き上がったばかりの麦入り飯を大きな杓子でかき混ぜていた。暫らくしておっ父らがひと仕事を終えて田んぼから帰ってきた。みんなは早々に朝飯を食ったら後片付けをチズコ姉ちゃんに任せて、また稲刈りに出かけていった。

 俺はまだ、田んぼに行っても足手まといになるので、もっぱら犬のシロと留守番役だ。家の軒下でシロの蚤捕りをしながら〝三つ葉〟のパン屋が来るのを待っていた。いつものように10時頃になると、背が高くメガネを掛けたおっちゃんがやって来た。運搬用自転車の荷台にパンの木箱を三段積んでいる。

 俺は、おっ母が用意しておいてくれた一升枡の小麦をおっちゃんに渡した。おっちゃんはいつものようにアンパンやクリームパン、それにバナナパンや三色パンなど、一つ、二つと数えながら取り合わせて10個を新聞紙で作った袋に入れて、「落としたらあかんで」といって渡してくれた。

 パンは田んぼに行っているみんなの昼からのおやつだが、俺はそれを待ちきれずアンパンを一つ食った。上のほうが少し焦げていて香ばしくふわふわしたパンだった。中の小豆の餡が甘くてなんともいえない旨さだった。

 シロが傍で尻尾を振りながらじっと俺を見上げている。口に入れようとしていた最後の一口を俺はシロの口に入れてやった。