山里ひぐらしの小径

木曽路の入り口、岐阜県中津川市から
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伊豆山の土石流の現場を等高線地図で見てみた リニアの残土の行方は

2021-07-07 | なんとなく報告

小説「細雪」の中では「山津波」という言葉で土砂災害が描かれている。山津波とはどのようなものだろうとずっと思っていたのだが、今回の伊豆山の土石流を映像で見て、まさにこういうものなのかと思った。

細雪での災害は昭和13年7月3日から5日に起きた阪神大水害を指しているとのこと(Wikipediaによる)。まさに、今回の伊豆山の災害と同じ日である。六甲山の方から勢いよく水や土砂が下の街に流れ込んだもので、盛り土が崩れたわけではなさそうではある。

今回は、土砂災害で多くの方が被災され、また亡くなったということがまず大変に悲しむべきことなのだが、それに加えて、山奥に大量の土を捨てて放置しているという、おそらく全国各地でそこそこ行われていそうな事案が大問題となって発覚したものであり、日本に激震が走っている感じが私にはしている。

昨日時点のテレビ局発信のニュースで、かなりいろいろなことが分かってきた。

まず、現時点(昨日7月6日19時)で避難している人が562名もいる(熱海市ホームページによる)。

問題の土石流基点に投棄された土は、現場の近く(例えば隣の別荘地とか)を切土して出たものではなく、どこか外の地域から運び込まれたもの。土の中にはかなりの産業廃棄物(タイヤや木の根やさまざまなもの)が混じっていた。運び込まれた時期は2007年からである。(TBSによる)

土を持ってきた業者は、2007年に(おそらく市に)「開発」の届出をしている(ANN)。

おそらく2007年から1、2年でここの土が投棄されたのだと思う。ニュースでは盛り土と言っているが、私の感覚では、盛り土というのは住宅を建てたりするために地面に土を盛って整地するというイメージである。このように目的もなく単に土を置いているのは、確かに表面が平らに整地されてはいるが、残土捨て場と言った方がいいのではないだろうか。そこを別荘地にする予定だったという情報もあるがガセネタかもしれない。

2007年からの投棄土に産廃が混じっていたので、市と県が注意したそうだが、禁止したり罰を与えたりしたわけではなく、そのまま放置された(TBS)。なお、現熱海市長は2006年に市長に就任、現在に至る(熱海市ホームページによる)。

2011年にこの土地は別の人に売られた(現在の土地所有者)。それ以降投棄されていない(ANN)。

ちなみに売られたのはこの辺り40万坪で、約1.32平方km、132㏊(132町歩)という広大な面積である。

 

ニュースの現場のインタビューにはなぜか熱海市長ではなく川勝知事ばかり出てくる。熱海市長の記者会見の様子はちらりと見た。川勝知事は、盛土が流出したため土石流が起こったと(憤懣やるかたない感じで)述べておられるが、県の見解としては「現段階では盛り土に不適正な点はなく、危険な状態だったという認識はない」とのことである(ANN)。

まあ、危険という認識はなかったとしても、安全という認識もなかったんだろう。

問題の投棄した業者の会社は今はなく、別の会社を作って同じような業務(?)をしているらしい。土地所有の問題にしても、いろいろあやしさが漂う。

土地を1000㎡以上など大規模に開発する場合は県への申請や届出(どっちだったかうろ覚え)が必要になると思うが、土砂を投棄することについては県・市町村の条例に基づくもので一定の基準がないらしい。今回、「開発の届出」はされているけど、土砂投棄は野放しだった可能性を感じる。市が注意したのは産廃の不法投棄であることは分かるが、土砂自体を不法投棄として扱って注意したかどうかは今は分からない。

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2021年7月8日追記

盛り土は「林地開発計画なんとか」というもので届出されていたが、届出よりもはるかに多い量が盛られていたとのこと(TV局のニュースで難波副知事が話していた)。

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下の図は、国土地理院の地図に、ニュース報道の地図や空撮を参考に線を入れたもの。(一番上の図と同じものを再掲)

地理院地図に加筆

濃いピンクで囲んだのが土を捨てていた場所。水色が土石流が流れたところ。黄緑色は、山の尾根の木を切って「はげ山」状態にしてソーラーパネルを設置しているところ。

 

Googleマップ

 

現地の隣に本宮社といういい感じのお宮さんがある。Googleマップでこれにリンクしてストリートビューを見ると、このお宮の向こうに谷があるのが分かる。以下の2枚のお宮の写真、Googleマップからリンク&転載(クリックできます)。

本宮社 · 〒413-0002 静岡県熱海市

★★★★☆ · 神社

本宮社 · 〒413-0002 静岡県熱海市

お宮の敷地から見た風景。この向こう側の右手の方におそらく残土が投棄されている。ここから土が流れ下ったもよう。

それから、土捨て場の上にある別荘地(神社マークのあるところ)は、別の川の最上流にあって、そこの谷間を切り盛りして造成しているのがちょっと気になる。

 

本題はここからなのだが、リニア建設にあたり大量の残土が出る。リニアの路線の大部分がトンネルだからだ。その残土をどこに投棄するのかという問題がある。南アルプスの最奥の大井川源流部でも残土処理をしなければならず、自然保護の観点でいろいろ難題があるだろうし、それらを含め今静岡県も検討しているわけだ。では、それ以外の地域ではどうかというと、意外にもこの残土がひっぱりだこだったりして、その土で造成地をつくって何かしたいために、「おらが地域に残土を」と誘致したいという声をしばしば聞くのである。

けれど今回このようなことがあると、残土をそう簡単には盛れないということに当然なる。国交大臣も「全国の盛り土の点検をしたい」と記者に述べており、今までみたいな地方行政任せではなく国で規制を強めるだろうし、そうでなければならないと思う。

そもそも、土を捨てるにあたって、山の上に盛り上げて捨てようなどという発想はあるわけなくて、やはり凹んだところに捨てたくなるのが人情だろう。けれど今回のようなことが起こることが分かったので、山の谷間には捨てられなくなり、じゃあ平野部の平らなところに盛ればということになるが、平野部には家が建っている。どこに盛ったとしても盛れば崩れるので、そこを崩れないように排水して工事するのが日本の土木技術なんだろうけど、完璧なんかなさそうだしお金もかかるだろう。でもそこをやるのが日本?

大量のリニア残土は一体どこにどのように片づけられるのだろうか。