タイトルが弦楽器だが、ゆきたんくは音楽嫌いであった。
ところで退屈というのは人が活動しようとする意欲喚起をするものだと思った。
その退屈さを産んだものは何か・・・
何度も書いているが、ゆきたんくは全寮制の高等学校に在籍していた。
部活をするわけでもなく、同好会に所属している訳でもない。
一般的な高等学校ならば帰宅部というやつだ。
この頃、朝食のパンは菓子パンに近いものが出てきた。当然好き嫌いがあるので残すやつがいる。それを必ずもらっていたのがゆきたんくだ。
授業が終わると、寮に一番乗りくらいの速さで帰っていく。
そして、朝食時に集めたパンやチーズをおかずに漫画を読むのだ。
至福のひと時であった。
しかし、そんな単純なことでは次第に飽きてくるものだ。
そんなゆきたんくの時間帯をブレイクする音色が聞こえたのはそれからしばらくしてからだ。ソプラノリコーダーの澄んだ音色が耳に入ってきたのだ。
音色を辿っていくと、音楽大学を目指している奴だった。木でできたリコーダーを自由に操りながら曲を奏でているのだ。
ゆきんたくはすぐに弟子入りした。
アンサンブルを演奏するようになったころには、アラ不思議、楽譜が初見で読めるようになっていた。そしてあれほど嫌いだった音楽に対する抵抗はなくなっていたのだ。
ゆきたんくの初めての弦楽器ラウンド型マンドリン
(ナガノスズキ)
そんな時、他の部屋の友達を訪問していたら、聞き覚えのある曲が聴こえてきた。
ゆきたんくのフィバリット・ミュージシャンであるマイク・オールドフィールドのデビューアルバムのチューブラーベルズだ。映画エクソシストのテーマというと分る方もいらっしゃると思う。でも40代より上の方々だな。ヨーロッパ方面では大スターなのでマイクの出身地のイギリス在住の日本人に聞くと、「日本で言うと北島三郎かな」という存在なのだそうだ。
そのチューブラーベルズのB面(当時はレコード)にマンドリンを使ったとても綺麗な旋律があった。その音の正体がマンドリンと知った時、無性にその楽器を弾きたくなったのだ。その旋律を弾きたいがためだけにである。わがままもいいところだ。
そしてその二ヵ月後、高校で文化祭が開かれた。マンドリンで弾ける手持ち曲4曲という中で文化祭に参加したゆきたんくの姿が最初の白黒写真である。