旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

まつもと漫ろ歩記「山賊焼き」

2020-12-17 | 旅行記

 8時ちょうどに新宿を発ったあずさ5号を見送る。ここは松本、信州路。
今回は美味い "山賊焼き" を食べようとここまでやってきた。っでまつもと漫ろ歩き。

夏から秋にかけてアルピニストで賑わう岳都の玄関口も、この季節は落ち着いている。
まずは駅前通りを真東に歩きだす。この大通りが行きつく先は旧制松本高校の跡地、
あがたの森公園の先に見える山塊は、美ヶ原の王ヶ鼻(2,008m)だと思う。

 駅前通りがあがたの森通りと名前を変えると、奇想天外なオブジェが見えてくる。
子どもに付き合って遊んだ super mario bros の食人チューリップが生えているのだ。
松本市美術館は当地出身のアーティスト草間彌生氏の作品をメインに収蔵展示している。

 駅前通りの300mほど北を並行する中町通りは、なまこ壁の蔵が並ぶモノトーンの世界。
スイーツの店やカフェが多いレトロな町並み、女子旅やカップルならここを目指したい。
男ひとりの吞み人は雰囲気だけ焼き付けたら、早々に町並みを抜けて女鳥羽川を渡る。

 女鳥羽川の北側、四柱神社から始まる縄手通りにも昔ながらの店が立ち並んでいる。
この辺りには美味いそば処が多い。がっ寄りたかった「弁天本店」には当面休業の札、
残念。流行り病のせいか?確か老夫婦が営んでおられたから、ちょっと心配。

 太鼓門を鉤状に潜って二の丸御殿跡、内濠をまわり込むと五重六階の天守が現れる。
北アルプスの峰々が白く輝くこの頃、城内の松には冬の風物詩「雪吊り」がかかる。

三方に朱色の勾欄を巡らせた月見櫓が美しい。戦時の要塞としての無骨な大天守・乾小天守と、
泰平の世に造られた優雅な辰巳櫓・月見櫓の取り合わせもこの城郭の魅力だと思う。

 濠端から北へ500mほど歩くと、擬洋風建築の旧開智学校が見えてくる。
正面の車寄せの上には青竜、そして雲が沸き立ち、八角の太鼓楼が聳えている。
「開智学校」の旗を掲げているのは二人の天使たち。二つ目の国宝も市民の誇りだろう。

 正午になると「しづか」に暖簾がかかる。民芸調の店の前には道祖神まである。
創業昭和20年、"おでん" と "やきとり" の老舗居酒屋に "山賊焼き" を求めてやってきた。

山賊焼きは、鶏もも肉をニンニクとタマネギをたっぷり効かせた醤油だれに漬け込み、
片栗粉をまぶして揚げる中信地方(主に松本・塩尻)の郷土料理なのだ。
ちなみに吞み人が育った北信地方(長野など)では食べない。食べた覚えはない。
サクサクでジューシーな食感、ニンニクの香り、これビールに合わない訳ないでしょう。
冷やし過ぎってくらいキンキンの中ジョッキーを2杯、至福のまつもと漫ろ歩きなのでした。

恋のハッピー・デート / 石野真子 1980