旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

エボシ岩が遠くに見える? 横須賀線を完乗!

2022-01-29 | 呑み鉄放浪記

煉瓦造りの扇ヶ谷トンネルを抜けると、長大な15両編成はS字カーブをくねりながら鎌倉へと駆け下る。
容易に敵が侵入できない、切り通しで守られた軍事的要地・鎌倉の地形を表しているのではないかと思う。

東海道線で大船を過ぎるとき、観音様が優しい微笑を湛えてこちらを見下ろしているのに気付くでしょう。
小高い丘の向こうに立っていると思いきや、実際には丘に半身が埋まっている?否、実は胸から上しかない。

東京駅の地下ホームから発着する横須賀線も、正式には大船から久里浜の23.9kmに過ぎない。
大きなカーブを描いて、大船駅の7番ホームに長大な15両編成が雪崩れ込んできた。
貨物線、東海道線、横須賀線、京浜東北線が顔をそろえて、4複線が延びてくる光景には圧倒される。

横須賀ゆきは乗換と、呼ばれておるる大船の、つぎは鎌倉鶴ヶ岡 ♪、と鉄道唱歌。
円覚寺の北鎌倉を過ぎて扇ヶ谷トンネルを潜ると列車は鎌倉駅に滑り込む。
先代駅舎を模した瀟洒な駅舎は、とんがり帽子の時計台があるレトロモダンな雰囲気なのだ。

小町通りを歩いて鶴岡八幡宮へ向かう。大河ドラマの効果か久し振りに体験するもの凄い人波だ。
石造の太鼓橋から舞殿と本宮を望むと、何度かの延期を経たであろう修学旅行の高校生が青春している。

鶴岡八幡宮は源頼義が、京都の石清水八幡宮を由比ヶ浜辺に源氏の氏神として勧請したことに始まる。
応神天皇、神功皇后、比売神の三柱を御祭神としてお祀りするこの八幡宮を、源頼朝がこの地に遷した。

ひとつ先の逗子では付属編成4両を切り離す。この先の駅のホームは11両にしか対応できないためだ。

逗子でもちょっと寄り道して「なぎさ橋珈琲」へ、逗子海岸を眺めながらちょっと遅めの朝食を楽しむ。
バブルな頃はデニーズだったと記憶している。なかなか入れなかったね、それくらいいつも混んでいた。
ビッグサイズのバンズにジューシーな粗挽きビーフ、ソースはテリヤキ系か、トマトの酸味と相まって美味しい。

テラスからの眺め、江の島を背景に彩り鮮やかなセイルが海面を滑る。本当はこの方角に富士山が見えるはず。
ところでエボシ岩は?見えないなぁ、標題に偽りありだ。
学生の頃はなけなしの金でカローラを借りて走ってきた。オリジナルの渚のカセットをダビングしてね。

付属編成の切り離しで4分の停車の後、横須賀線の旅の後半は11両編成で続く。
ふたつ先、トンネルとトンネルの間の田浦駅では前2両をあなぐらに突っ込んで、電車はわずかな乗客を降ろす。

小町通りで仕込んだ “鎌倉ハイボール” を開ける。贅沢に入った生姜のパンチが効いてキリッと美味い1本だね。
っと、さらに2本の短いトンネルを潜る。暗灰色の艦艇が屯する港が見えてきたらまもなく横須賀だ。

ブルーの地に錨とカモメのマークが誇らしい横須賀駅、かもめの水兵さんがカレーを持って立っている。
人々の生活感がある賑やかな京浜急行の駅に比べて、ここは無骨で質実剛健なネイビー達の駅といった感じだ。

駅前広場を横切るとバースには “たかなみ” と “おおなみ” の二杯の汎用護衛艦、さらにイージス護衛艦が二杯。
ムダを削ぎ落とした精悍な機能美がなんとも美しいと思うのだ。

延長2,039m、長い横須賀トンネルを潜ると衣笠駅、平作川に沿って緩い勾配を下っていくと終点久里浜駅だ。
貨物扱いの名残りだろうか、唯一本のホームの西側には10編成が留まれそうな電留線が敷いてある。
跨線橋を上っていく降車客数と釣り合わない11両編成がポツンとホームに残されて終着駅の侘しさを演出する。

さらに平作川を辿ること20分、久里浜海岸に出るとまるで手にとるように房総半島の山々が見える。
ひっきりなしに行き来する大型船、幅6.5km、浦賀水道が有数の航海の難所であることが実感できる。
ちょうど対岸の金谷港へ渡る東京湾フェリーが器用に方向転換して目の前を横切っていった。

横須賀は午前中から呑める店が並んでいる。知らなかったなぁ、暖簾を潜るのに背徳感は要らない。
「中央酒場」の長いカウンターは満席、ホールも姐さん4人で回しているから、昼から呑むご同輩は多い。
木札に書かれたアテを択ぶ。玉子まで落してくれる “まぐろなっとう”、ジューシーで厚い “横須賀メンチ”、
絶妙の出汁の “あげだしどうふ”、どれも侮れないほどレベルが高い。

“三冷”と言われるホッピーは、ホッピー、焼酎、ジョッキの3つを冷やして、氷がないぶん焼酎の量が多い。
(呑み人は氷をリクエストしたので怪訝な顔をされた。もうホッピーを注ぐ余地は無い。)
生ビールを一杯、ホッピーは “中” をお代わりしてほろ酔い気分、おあいそして見上げる空はまだ明るい。
漁師さんの文化か軍港の文化か、横須賀昼呑みの奥深さとレベルの高さを知った横須賀線の旅なのだ。

横須賀線 大船〜横須賀 23.9km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
チャコの海岸物語 / サザンオールスターズ1982