旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

桜花爛漫の石川門と鴨治部煮と菊姫と 北陸本線を往く! 

2022-04-09 | 呑み鉄放浪記

 早朝の金沢城公園、石川門も百間堀も満開のソメイヨシノに埋もれてしまったかの様だ。
4月の週末、出張から解き放たれて、桜花爛漫の北陸本線を鈍行列車に揺られて呑み潰そう。

姫路から長駆200km、新快速3232Mはここ米原で後8両を切り取られて、たった4両で北陸本線を往く。

長浜で観桜と竹生島クルーズに向かう乗客を降ろすと、やっと転換クロスシートに席を確保する。
すかさず開ける “萩の露” は高島市の福井弥平商店が山田錦・吟吹雪を醸したやわらかな辛口の酒。
余呉湖を眺めながら、ちびりちびりと呑み始めよう。

     

肴は米原で仕込んだ駅弁「湖北のおはなし」を。粒こしょうでローストした鴨、鍬焼風のかしわ、
甘辛く炊き込んだこんにゃく、葱とお揚げのぬた、どれも申し分のないアテ、辛口の酒がすすむ。

 近江塩津からは2番手の3438M、同じく姫路発ではあるけれどこちらは湖西線を駆けてきた。
辿り着いた敦賀駅は北陸新幹線工事の槌音が響く、駅舎は2015年、ひと足先に瀟洒に生まれ変わった。

敦賀のメインストリートには、なぜか「宇宙戦艦ヤマト」と「銀河鉄道999」のブロンズ像に溢れていて、
五代進や星野鉄郎、メーテルに出会える。どストライクな時代に育った呑み人としてはちょっと嬉しい。
気比神社の門前にはアナライザーが戯けている。んっと佐渡酒造先生と愛猫のミーくんは見つけられなかった。

越前國一之宮「氣比神宮」の大鳥居の両脇にも満開のサクラ、朱色と桜色のコラボレーションが美しい。
「月清し遊行のもてる砂の上」敦賀の港に宿をとった芭蕉は、月の美しい夜、氣比神宮を参拝している。

赤れんが倉庫、欧亜国際連絡列車が発着した旧敦賀港駅舎を巡って海に出る。
海沿いのボードウォークから敦賀港を一望、北前船の帆を模ったモニュメントが青い海を背景に鈍く光る。

 駅に戻るとすでに3番手の1243M福井行きが待っている。短い2両編成がローカルな旅を演出するね。

長い長い北陸トンネルを潜って福井平野へ抜ける。桜が咲き乱れる足羽川を渡ると、列車は福井駅に到着する。
数多くの恐竜の化石が発掘された福井県、西口駅前広場で威嚇しあうフクイサウルスとフクイラプトル、
全長10m、首長竜のフクイティタンが咆哮を上げる。実物大モニュメントを見るだけで途中下車の甲斐はある。

 折り返して1347M金沢行きになる4番手ランナーが停車すると、乗降客でホームが溢れるばかりになる。
少なくとも県庁所在地を発着する列車に2両編成はキツイんじゃないかな。せっかくの転換クロスシートだけど
立ち客になった呑み人、仕込んでおいたご当地ビールはブリーフケースの中で出番を無くしてしまった。

芦原、加賀、粟津と加賀温泉郷をつなぐ車窓いっぱいに、霊峰白山が存在感を大きくしてきた。
たっぷりと雪を抱いた信仰の山は、午後の陽を浴びて神々しく輝いている。

途中の小松で列車を飛び降りる。実は是非見ておきたいものがあった。
東口駅前に広がる「こまつの杜」に、超大型ダンプトラック930Eと超大型油圧ショベルPC4000を見上げる。
オーストラリアや南米の鉱山で唸りをあげる姿を想像して、本邦のモノづくりを誇らしく思ったりする。

1日目の5区を任された653Mは金沢〜小松間をシャトルしているらしい、さすがに4両を連ねていた。
小松から40分、雅やかなチャイムが流れて電車は金沢駅の3番ホームに滑り込んで、今日の旅を終える。

若い青春18きっぱーは遠くへ遠くへと乗り継ぐのだろうけど、呑み人は陽が傾き始めたら街へ降り立つ。
ガラスのドームに覆われた駅で満開のサクラに迎えられ、今宵この街の酒場で金沢を味わう。

君と出逢った香林坊交差点から鞍月用水のせせらぎを遡ると、酒場(酒と人情料理いたる)に白い灯がともる。♪
つきだしの “バイ貝の煮付け” をアテに生ビールを呷りながら、地酒純米酒の品書きを眺める。

お造りの小桶には、がんどぶり、かじき鮪、桜鯛あぶり、生だこ、甘海老が踊って美しい。
北陸の鮮魚はどれも美味、とくに脂がのった “がんどぶり” は甘くて美味しいなぁ。出だしから絶好調だ。

加賀の酒はご存知 “加賀鳶” の山廃純米、絶妙の酸味と深みのあるコクの超辛口が美味い。
アテは “サバの糠漬け(へしこ)” にレモンを搾って、これ好きなんだよね、これだけで二、三合はいけそう。
さらに “大人のポテトサラダ” はカリカリに揚げたポテトを散らして、これまた申し分ない酒のつまみだ。

次なる純米酒はこれまた山廃仕込の “菊姫” を択ぶ。ハレの日の郷土料理 “鴨治部煮” を味わいながら、
濃醇で飲み応えがある硬派な酒を愉しむ。いやはや金沢の旨い酒肴を堪能した柿木畠(かきのきばたけ)の宵だ。

北陸本線 米原〜金沢 176.6km 完乗

My Song For You / 尾崎亜美 1982