旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

50‰の急勾配と三木合戦と葵鶴の蔵と 粟生線を完乗!

2023-03-11 | 呑み鉄放浪記 私鉄編

 冷たい雨がそぼ降る鈴蘭台駅、4番線には粟生行きの普通電車が入ってきた。ホームの中ほどに0kmポスト。
粟生線はここ鈴蘭台で有馬線から分岐して、藍那の山並みを越えて播磨平野へ下りて行くローカル線だ。

駅舎は北区役所と商業施設が入居する駅ビル・ベルスト鈴蘭台になっていて、駅前には案外人通りがある。
13:09、出発早々いきなりの急カーブ急勾配に突っ込む。粟生線もジェットコースターのような山岳路線なのだ。

粟生線は都市型郊外路線にもかかわらず廃線の噂が絶えない。輸送人員は1992年の1,420万人をピークから半減。
三宮行きの直通バスに押されて、年間輸送人員推移のグラフもジェットコースターのような下りっぷりなのだ。

行程の半ばを過ぎると神戸のベッドタウン三木市、ニュータウンが広がる志染を過ぎると旧市街に入る。
市中心の三木駅の一つ手前、三木上の丸駅で途中下車するのは、駅南側の小高い丘、三木城跡を訪ねるためだ。

天下統一へと突き進む織田氏の毛利攻めにおいて、織田方に離反した別所長治に対して天正6年(1578年)、
羽柴軍が三木城を包囲して三木合戦が開戦する。2年にわたる籠城戦は数千人の餓死者を出して凄惨を極めた。

ところで三木市は酒米の王様と言われる「山田錦」の特A地区でもある。当然に旨酒を醸す蔵があるはずだ。
っで、湯の山街道の旧い町並みに稲見酒造を訪ねる。「↑奥の酒蔵でお酒の試飲販売を致しております。」
って青い暖簾の下には嬉しい貼り紙。上品な奥様の説明を受けながら、数種類の山田錦を楽しく試すのだ。

後日の家呑み、4本の戦利品から最初に開けたのは “葵鶴 山田錦しずく” 、華やかな果実香が広がる純米酒だ。

旅の後半を付き合ってくれるのは初老の1000系3両編成、いつの間にか雨が上がってワイパーが止まっている。

田圃と住宅が混在する長閑な郊外の風景を眺めるうちに、電車は加古川に架かる背の低いトラス橋を渡る。
電車が鳴らす鉄橋の音に一群の水鳥が飛び立った。雨上がりの空は未だどんよりと重たげなままだ。

加古川を渡って3両編成が右90°の旧カーブを切ると、車止めで行く手を塞がれた4番ホームに落ち着く。
各車両に疎に乗っていた高校生を降ろすと、電車は「新開地」へと方向幕を回している。

小さな田舎駅だけど、JR加古川線、粟生線、北条鉄道がX字に交わる要衝といえば要衝の終点粟生駅。
3線のダイヤは連絡の利便性が高く、三方向への乗り継ぎは10分以内に可能になっている。これって凄い。
最大50‰の急勾配の登り下りを繰り返し、まるでジェットコースターのような所要51分の粟生線の旅だ。

神戸電鉄 粟生線 鈴蘭台〜粟生 29.2km 完乗

Sing a Song / 松山千春 1983