太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

ウェンディ

2012-11-10 11:36:24 | 人生で出会った人々
ウェンディは隣家に住んでいる。

夫の両親と夫が、この家に越してきた26年前、時期を前後してウェンディも家族とともにやってきた。

隣家といっても、ウェンディの家の庭と我が家が接しているから、庭ごしに話はできるけれど、

訪問するには少し歩かなければならない。

2年前に母親が他界し、つい先日、父親も他界した(参照記事「ハイジのおじいさん」

ウェンディは島の反対側に住んでいたのだが、住む人のいなくなったこの家に戻ってきて、一人で暮らしている。






ウェンディは、島の反対側の職場に行くために、毎朝6時に家を出て、戻るのは8時をまわる。

あの広い家の中で、たった一人で、食事をしたりしているんだろうかと思うと、せつないような気持ちになり、

夫の提案で、或る時、我が家の夕食に誘った。


裾の長いムームードレスを着たウェンディは、彼女の特徴である、ゆっくりとした語り口で、

何時間も話した。

1度結婚したことがあること、ボーイフレンドがいたけれど別れてしまったこと、家の中を整理してガレージセールで売りたいこと、

ウェンディのことが、だんだんわかってくる。

驚く時には目を見張り、笑う時には顔全体が柔らかく溶ける。

名前はわからないけど、誰か女優に似てる。

知的で、スリムで、穏やかな。



私が描いた絵の中から好きなものを選んでもらい、それをフレームに入れ、

みんなで書いたカードを渡した。

ウェンディは、何度も繰り返しカードを読みながら、

「まるで誕生日が先に来たみたい。来週、45歳になるの」

と言って、目を潤ませた。



ウェンディの誕生日に、私が仕事の帰りに日本式のバースディケーキ(いちごのショートケーキ)を買い、

それを持って彼女の家に行った。

花火のようにスパークするキャンドルを何本も立てて火をつけると、

時間をかけて願い事をしてから、一息に吹き消した。

私たちが来なかったら、一人で誕生日を過ごしたんだろう。



私は一人で誕生日を過ごしたことはないけれど、一人で大晦日から新年を迎えたことがある。

離婚したあと、つきあっていた相手と喧嘩をし、私はアパートで一人で紅白歌合戦を見た。

そのとき、私がそれまで孤独だと思っていたことは、全然孤独なんかじゃなかったとわかった。

車を走らせれば、実家に戻ることもできたけど、家族の中にいると余計に寂しくなりそうで怖かった。

新年が明けて、港に停泊している船が次々鳴らす霧笛を聞きながら、

「一人じゃないけど一人なんだ」ということが、あれほど心細く身に沁みたことはなかった。



あれから、ウェンディと垣根ごしに話をしたり、

行き来をするようになった。

ランプシェードを探していると言ったら、ガレージセールで売るつもりだったものを私にくれた。

「あなたからはお金をもらうつもりはないわよ、おねがい」

私がランプシェードを頭にかぶり、お礼を言うと、ウェンディは弾けたように笑い、

「私には笑いが必要だわ、あなたってほんと、笑いの天才ね」


ウェンディを笑わすために、夫が買ったたくさんの「ヅラ」をかぶって遊びに行こう。






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