職場の、日本人の同僚が、昨年8月に手術のために休みをとった。
1ヶ月もすれば復帰するはずが、先週、亡くなってしまった。
亡くなったことはわかるが、実感として受け入れられるものでもなく、
その日は、気が緩むと泣けてきて、仕事にならなかった。
その夜のことだ。
サプリメントを飲もうとして、錠剤が喉に詰まった。
完全に喉をふさいでいるために、水も入らない。
咳をしようにも、咳をするための空気が入っていかない。
咳をするには、空気が必要なのだということを意識したことはなかった。
息をしようとすると、喉からは「キューッッ」という音しか出てこない。
夫が、私のみぞおちのあたりを何度もコブシで強打する。
私は空気なしの咳を何度も繰り返し、ようやく錠剤が外に飛び出た。
その間、数十秒だったと思うが、
私の一部はやけに冷静で、いろんなことを考えていた。
明日、職場のみんなは私の死を知って、さぞや驚くんだろうとか、
人生のシナリオを、私たちは前もって書いてくるとしたら、
今ここでこんなふうに死ぬというオチを、本当に私は書いたんだろうかとか、
シベリアで抑留されても生き延びた人や、戦後何十年も密林で一人で生きてきたとか、
人の生命力はすごいけれど、意外とあっけなく人は死んでしまうものなんだな、とか。
今、死ぬときじゃないなら、誰でもいいから助けてよ!!
心の中でそう叫んだとき、錠剤が飛び出した。
「あした死んでしまうとしたら」
なにかに迷った時、私はいつもそう自分に問いかけてきたけれど、
それは理屈の上だけのことで、本当に死ぬなんて露ほども思ってはいない。
死にかけてみて、初めて、私も必ず死ぬのだということを思い知った。
肉体は滅びても、私の 意識 は永遠になくなることはないと知っているけれど、
今、私が私だと思っている、この肉体でもって体験している人生が
どれほど大切なものか、こんなに切に思ったことはなかった。
なにごともなかったように、今私は生きている。
私の呼吸が、息が、私の肉体を生かしている。
心の準備もなく、1分でも息ができなかったら、体は機能を停止して
「わたし」はそこを離れなくてはならないだろう。
あのまま窒息していたら、私は何ひとつ持っていくことはできなかった、という
当たり前のことに気づくとき、恐ろしいような気持ちになる。
興味深い体験ができるが、きつくて安い仕事。
暇でやりがいはないかもしれないが、高収入の仕事。
ひらたく言えば、そんなことで揺れていた。
私の稼ぎに生活がかかっていたなら、間違いなく後者だろうが、
そういうわけでもないのに、揺れていた。
髪の毛1本、死んだ後に持ち出せないというのに、
唯一私がもってゆけるものは、どんな気持ちで何をしたかという
経験しかないというのに。
吸って、吐いて。
自分の呼吸を、意識することが増えた。
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1ヶ月もすれば復帰するはずが、先週、亡くなってしまった。
亡くなったことはわかるが、実感として受け入れられるものでもなく、
その日は、気が緩むと泣けてきて、仕事にならなかった。
その夜のことだ。
サプリメントを飲もうとして、錠剤が喉に詰まった。
完全に喉をふさいでいるために、水も入らない。
咳をしようにも、咳をするための空気が入っていかない。
咳をするには、空気が必要なのだということを意識したことはなかった。
息をしようとすると、喉からは「キューッッ」という音しか出てこない。
夫が、私のみぞおちのあたりを何度もコブシで強打する。
私は空気なしの咳を何度も繰り返し、ようやく錠剤が外に飛び出た。
その間、数十秒だったと思うが、
私の一部はやけに冷静で、いろんなことを考えていた。
明日、職場のみんなは私の死を知って、さぞや驚くんだろうとか、
人生のシナリオを、私たちは前もって書いてくるとしたら、
今ここでこんなふうに死ぬというオチを、本当に私は書いたんだろうかとか、
シベリアで抑留されても生き延びた人や、戦後何十年も密林で一人で生きてきたとか、
人の生命力はすごいけれど、意外とあっけなく人は死んでしまうものなんだな、とか。
今、死ぬときじゃないなら、誰でもいいから助けてよ!!
心の中でそう叫んだとき、錠剤が飛び出した。
「あした死んでしまうとしたら」
なにかに迷った時、私はいつもそう自分に問いかけてきたけれど、
それは理屈の上だけのことで、本当に死ぬなんて露ほども思ってはいない。
死にかけてみて、初めて、私も必ず死ぬのだということを思い知った。
肉体は滅びても、私の 意識 は永遠になくなることはないと知っているけれど、
今、私が私だと思っている、この肉体でもって体験している人生が
どれほど大切なものか、こんなに切に思ったことはなかった。
なにごともなかったように、今私は生きている。
私の呼吸が、息が、私の肉体を生かしている。
心の準備もなく、1分でも息ができなかったら、体は機能を停止して
「わたし」はそこを離れなくてはならないだろう。
あのまま窒息していたら、私は何ひとつ持っていくことはできなかった、という
当たり前のことに気づくとき、恐ろしいような気持ちになる。
興味深い体験ができるが、きつくて安い仕事。
暇でやりがいはないかもしれないが、高収入の仕事。
ひらたく言えば、そんなことで揺れていた。
私の稼ぎに生活がかかっていたなら、間違いなく後者だろうが、
そういうわけでもないのに、揺れていた。
髪の毛1本、死んだ後に持ち出せないというのに、
唯一私がもってゆけるものは、どんな気持ちで何をしたかという
経験しかないというのに。
吸って、吐いて。
自分の呼吸を、意識することが増えた。
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