『新建材CLTは国内林業と住宅事情を救えるか 3(森林も高齢化)』
「国内の人工林は半分以上が50歳を超え、CO2吸収力は、ピークの2割減!」
ウエブ情報から引用
日本の人工林と問題点
日本の人工林(じんこうりん)は、植林や播種で成立した樹木が優先してみられる森林。 人の手により苗木の植栽、播種、挿し木等が行われ、樹木の世代交代(造林)が達成されている林をいう。 育成林ともいう。 人間が樹木の生殖に関わることにより、品種・品質が整えられ、工業・建築材料としての木材供給(林業)に適した樹木群となる。
花粉症
人工林は人の手で生み出された森林です。 木そのものは自然のものと言えますが、天然林と違い「自然の姿」ではありません。 問題点で挙げられる代表例として、現代人を悩ます「花粉症」があります。
スギ花粉よりも深刻な問題が「人工林の放置」
人の手で管理されるはずの人工林が管理されておらず、収穫期を迎えても伐採されない状態の山が全国各所にあるのです。
放置された人工林
下刈りも枝打ちもされていない山の地表は全く日光が届かず、根が張らないため土がやせていきます。 こんな状況で大雨や台風などの災害が発生した場合、根が水を吸いきれずに土砂災害が発生しやすくなってしまいます。
では、なぜ「放置される人工林」があるのか
戦後の木材不足の際に全国でスギの植林が奨励されたことは前述しましたが、その時代は高度成長期に伴い林業も盛んで、多くの林業従事者がいました。しかし安い外国資材の流入で国産の木材の需要が落ち込むと林業従事者も激減し、結果的に山を管理しきれないという状況に陥ったのです。
広範囲・多分野で、先送りされた問題が、また顕在化です。 日本の脱炭素社会・低炭素社会の達成には課題は山積みです。 そんな時に、一つの事象ですが、山地森林が多く、『CO2吸収力』を期待したい日本の森林の『CO2吸収力』が減っているそうです。 森・杜の国です頑張りたいものです。
国は、いつものことで、課題については『ヒト・モノ・カネ・時間』の数値目標で、どうするがなく、『議論する』・『検討する』で『すべてを先送り』やってきたツケが次の通りです。 今回の衆議院選挙でも、数値目標が入った政党はほんの一部でした。
- 脱炭素社会とは「CO2実質ゼロ」の社会
- 低炭素社会との違い(間に合わないので「脱炭素社会へ」』
2.いま脱炭素社会が求められる理由(誰でも知っている地球温暖化)
- エネルギーを化石燃料に頼っている(一時改善、また悪化)
- 物流の脱炭素化の遅れ(運輸業はエネルギー産業に次ぐ排出源)
- 鉄鋼業でのCO2排出が避けられない(CO2排出不可避)
- カーボンプライシングの導入(3方法を検討中)
- エネルギーミックスの実現(原発が最もタフな課題)
- ゼロカーボンシティの促進(特に、ヒト・モノ・カネ・時間)
- 革新的技術の確立(特に、ヒト・モノ・カネ・時間)
数年前に『夢の建築材料と言われた新建材CLT』について、調べてみました。 当時から、マスコミの礼賛した日本の森林資源とその画期的活用ですが、海外の森林大国、米国・カナダ・ロシア・ブラジル等に比較して心配はありました。 森林にも大きく関係しますので、本件重複しますが、再確認します。
ここから先は、すでに、ご覧の方はご放念ください。
新建材CLT
ウェブ情報から引用
数年前に、画期的な新建材CLT(Cross Laminated Timber)が、開発・実用化されたことが発表されました。 この時、久々のヒット製品だと感激したのが下記ウェブ情報の抜粋・引用です。
新建材CLTとは
Cross Laminated Timberの略で、ひき板(ラミナ)を繊維方向が層ごとに直角に交わるように貼り合わせた、大判の木質パネル建材です。 木材は水分を吸収したり放出したりすることで収縮しますが、縦方向にはほとんど変化がありません。木材を直角に積層し接着しているため、収縮変形を抑えられ寸法が安定し、強度が高くなる建材です。
CLTには様々な特徴があり、従来の木造建築やコンクリート、鉄骨を用いたRC造やS造と比べてもたくさんの違いがあります。 ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料です。 厚みのある大きな板であり、建築の構造材の他、土木用材、家具などにも使用されています。
新建材CLTの特徴
CLTは構造躯体として建物を支えると共に、断熱性や遮炎性、遮熱性、遮音性などの複合的な効果も期待できます。
また、工場内で一部の材料を組み立ててから現場に搬入するプレファブ化による施工工期短縮が期待でき、接合具がシンプルなので熟練工でなくとも施工が可能です。災害時の仮設用住宅にパーツとして保管し、必要な時に組み立てて利用することも考えられます。RC造などと比べた場合の軽量性も大きな魅力です。
その強度は『鉄筋コンクリートに匹敵』する。 オーストリアで最も進み、すでに9階建てまで許可され、ロンドンでも9階建てが実現している。 この新建材CLTはベニヤ板とは区別されている。
この新建材CLTは、救世主のように思われますが、日本の林業の弱点である;
『森林所有が小規模で、土地が急峻である。 伐採搬出が旧態依然でコストが高すぎる。 外材のように大量安定供給ができない。 木材の流通ルートが複雑すぎる。 乾燥させた木材が少ない。 品質がバラバラで使いづらい。』
これをカバーできるか疑問が多く、更に単層人工林・人手不足・山林の地主不明問題まである中で、林業大国のロシア・ブラジル・カナダ・アメリカ・中国等が、新建材CLTの生産、輸出を始めたら、原木輸出より輸送効率も良く、新建材CLTの国際競争力は日本には、分が無いように思われます。
森林と大きく関係する、過日(20180725)テレビ民放某局がワイドショーで、新建材CLTの超高層ビルの紹介がされました。 その概要はウェブにありましたので再掲しました。
住友林業は、2月8日、2041年までに木造を主部材とした超高層ビルを都内に建設する構想「W350」を発表した。高さ350m、地上70階建ての複合施設で、総工費は約6000億円。 同社が日建設計の協力を得て計画をまとめた。 実現すれば、現在三菱地所が東京駅北側の常盤橋街区で建設を進める高さ約390メートルの超高層ビルに次ぐ高さとなる。
因みに、
あべのハルカスの総工費は、1,300億円(高さ300ⅿ、60階)、横浜のランドマークは、総工費は、2,700億円(高さ296ⅿ、70階)です。
さて、この新建材CLT工法の優位性;
- 建築期間の短縮、工場で製造・加工できる。
- 断熱性が高く、省エネ効果、木材は多孔質材料で断熱性大。
- 優れた耐震性、PCコンクリートに対して、四分の一の重量。
この新建材CLTとCO2削減について;
一部は、先の備忘録『木を植えよう』に重複します。 森林は、言わばCO₂の一時貯蔵庫で、樹木がすべて枯れ、完全に分解してしまえば、樹木が吸収したCO₂がすべて放出される。 しかし実際には、枯れ死した樹木の全てがすぐ分解されるわけではありません。 その多くは、有機物として土壌中に長く蓄えられます。
一方、伐採した樹木すべてが、すぐに燃やされて、 CO₂になるわけでなく木材として住宅や家具になります。 長く使うほどCO₂が長く固定されます。 ここで新建材CLTの出番です。 因みに、昔の木造の神社仏閣・城郭は数百年の寿命(これは鉄筋コンクリートより長寿命)です。 名古屋城の完成1612年、1945年空襲で焼失から判るように、優に300年以上持ちます。
然しながら、現在の戸建て木造住宅の平均耐用年数ですが、日本では約30-40年、米国約40-50年、英国約50-70年と言われます。 田舎には今でも築後100年以上の木造民家が多々あります。 『エコの本質』を、昔の人は感覚的に知っていたが、現代人は、コストパフォーマンス(費用対効果)を無考慮の『安価最優先』でした。
高度成長時代に創られた『鉄筋コンクリート製構築物』の寿命が、比較的好条件のもとで100年程度、海岸部・トンネル等悪条件下では50年程度です。 建造当時には、寿命も、維持補修も考えない『安く・早くの追求』でした。
因みに新建材CLTの耐用年数は、50-70年で、再生・再利用も可能です。
日本は森林大国で、狭い国土にすでに沢山の森があるので、大規模植林の余地はあまりないと言われます。 然し課題は沢山あります。 傷んだ森を、高木、亜高木、低木、下草、そして土の中のカビやバクテリヤで構成される『本物の森』に戻さなければなりません。 『本物の森』でない、単層人工造林(杉、松、カラマツ等)では最近の異常な豪雨や津波には耐えられません。 今では、開発で激減、細々と残っている、日本の『鎮守の森』が将に『本物の森』です。
最近日本に多発する豪雨土砂災害は『単層人工造林』での発生が多いように見えます。(縦割り組織と規制のハザマで起こり盛土問題はさらに深刻な問題)。
偏見ではありますが、『鎮守の森・本物の森』は、多神教(自然の造物、何にでも神は宿る)の賜物です。 余談ですが、今の三大宗教(一神教)は奇しくも、森ではなく砂漠で生まれています。
『京都議定書』には、先進国が発展途上国に援助して植林などのCO₂削減策を行った場合、その先進国の削減として認めようとする『グリーン開発メカニズム」があります。 『森が泣いている』先進国日本は、日本の木材大量輸入に起因する森林伐採跡地のある国の植林支援は元より、足元の日本の森林回復も必須です。
『本物の森』には、必ず直根性・深根性の照葉樹、楠、シイ、椿があります。 楠は、葉が全部焼けても再生しますし、シイ・椿は潮風や津波に強いです。
松は、横根性で、津波に弱く、油分が多く火にも弱いことは、東日本大震災でもよく判りました。
新建材CLTの利用・活用をベースに、日本の林業と住宅事情が改善されることを期待しています。
(記事投稿日:2021/11/27、最終更新日:2024/09/19、#432)
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