原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

虐待の連鎖を如何に断ち切るか

2013年03月13日 | 人間関係
 原左都子自身は子どもの頃、親から「虐待」とまで表現するべく非情な扱いを受けた経験はない部類であろう。
 一方で両親が共稼ぎだったため幼少の頃より日々祖母の世話になり、両親(特に母)には“放ったらかされて”育った印象をずっと抱え続けている。

 その感覚は今尚脳裏から消え去る事はなく、現在に至っても郷里に帰省した際年老いた母と喧嘩をすると (今更私に対して母親気取りの口を聞くなよ、子どもを放ったらかして仕事してたくせに。 私が上京して自立した時からあんたと私は対等な関係だよ!)と、喉元まで出そうになるのを辛うじてこらえるはめとなる。
 私自身が娘を産んだ後の子育てに関しても、昔祖母に育ててもらった感覚が脳裏に生きていて、それを手本とする場面が多い事に感慨深い思いだ。 
 何分、真面目かつ働き者で気丈、親しみ易いとは言えなかったかもしれないが質実剛健で実に頼りになる祖母だった。

 そんな環境で育った私が大人になった折には親元を離れ、上京して自立する決断をするのは必然的であり自然の成り行きだったとも言える。


 さて、3月9日朝日新聞“悩みのるつぼ”の相談は20代女性による 「虐待の記憶を忘れられません」 だった。

 以下にその内容を要約して紹介しよう。
 20代半ばの女性だが、両親から精神的な虐待を受けてきた。 弟と妹は可愛がられ、問題を起こしても両親はきちんと対応していた。 片や私が同じ事をしたら殺されると思い、真面目に生きてきた。 高校卒業後すぐに就職し生活費も渡していた。親に経済的負担をかけていないはずなのに「額が足りない、お前の顔を見るとムカつく」等々暴言を浴びせられた。 家が狭く、子どもの真横で平気でセックスをするような非常識な親を心の底から軽蔑し、大嫌いである。  現在は結婚して両親とは完全に交流を絶っている。 だが恨みは消えない。夢にまで両親が出てきたりの呪縛から逃れられない。 どうしたらこの記憶から解放されるのか。 
 一番心配なのは虐待は繰り返すということだ。 私の娘はまだ8ヶ月で可愛いが、いつか自分も親と同じように子どもを虐待しないかと不安だ。
 (以上、朝日新聞“悩みのるつぼ”より要約引用。)

 上記20代女性の相談を受け、ここで一旦原左都子の私論に入ろう。

 相談女性には弟妹が二人いる中、何故両親から精神的「虐待」の標的とされたのかに関して理解し難い側面があるのも事実だ。 
 ここで原左都子の私事を述べよう。  私にも姉がいるのだが、私は持って産まれた特質から姉よりも両親を始めとする家族に可愛がられた記憶がある。 その特質とは何かというと「客観的観察力」及び周囲へのある程度の「同調性」である。  どうやら姉にはその種の能力が備わっていなかった様子で、いつも我がまま放題の行動を取り周囲の手を煩わせる存在だった。  我が親が「○子(私の事)は育て易いが、△子(姉の事)には難儀させられる…」とよく話していたのを私も記憶しているが、姉がその会話を心に留めていないはずはない。  
 そんな姉にとって、幼少期に仕事ばかりして祖母に育児を全面的に任せ、ろくろく子育てをしていない両親に対する敵対心が私以上に深層心理に芽生えるのは必然的だろう。  英語を専門とする姉は米国へ渡ることを20代前半頃から希望し、それを実行した。 渡米後まもなく永住権を取得して30数年程の年月が経過した現在、日本には露程の未練もないとの事で今後一歩たりとて日本の地を踏む意思もなければ、親の遺産相続も全面的に拒否辞退しているとのことだ。  
 (という訳で、今後実母の面倒を私一人で看るはめになるのだが…  これが私にとって吉と出るのか凶と出るのか…… 

 原左都子が昔から現在に至るまで抱えている上記私事が、“悩みのるつぼ”相談者の参考になるかどうかは不明だ。 だが私にもそんな家庭事情があるからこそ、20代相談者にアドバイスをしたい思いでもある。
 現在は結婚して出産され、子どもさんが可愛いことのこと。 その思いを今は大事に育んで欲しいものだ。 しかも、現在8ヶ月の赤ちゃんを抱えている相談者に新聞に投稿する程の余裕時間があることを慮るならば、きっと日々良き母親として赤ちゃんの育児に励まれている事と推測する。


 今回の“悩みのるつぼ”相談者であられる社会学者の上野千鶴子氏も、「それをあなたの『宝物』にして」と題して回答しておられる。 少しだけ、端折って以下に紹介しよう。
 あなたにとって虐待が過去の経験でありその場を断ち切れたならば、とりあえずおめでとう、よくやりましたね!(と賞賛したい)。 過去の経験から、子供を虐待した親の方にはその自覚がなく反省などしないことも分かっている。 親を恨むことは更に自分が傷つくだけだからやめよう。
 相談者は虐待が連鎖する事を心配しておられるが、自分自身がそれを自覚した時に既に歯止めがかかっている。  虐待親とはそれを自覚していないもの。  どんな親でも潜在的虐待者だが、自覚する度にストップを掛けることが一番。  自分が虐待するんじゃないかと怖れているあなたは素晴らしい想像力の持ち主。 そう思えるのはあなた自身に被虐待経験があるからに他ならず、それはあなたにとって宝物。 子どもさんを愛してあげて下さいね。
 (以上、“悩みのるつぼ”上野千鶴子氏の回答を要約引用。)


 親から受けた虐待の連鎖を如何に断ち切るか?

 その結論を原左都子なりに末尾に述べよう。
 自分を虐待した親とは完全に縁を切り、その親を一生に渡り(出来得る範囲で)捨て去る事。 
 そして何よりも自分自身が社会性と経済力を身に付け、新たに築いた世界である家族を大切に育み子どもと共にこの世を強く生き抜く事。  
 それしかなく、それこそが一番の幸せと私は心得て現在生きているが如何だろうか?