原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

日銀新総裁 黒田氏就任で庶民は微笑めるか?

2013年03月28日 | 時事論評
 新聞報道によると、3月21日に日銀新総裁に就任した黒田東彦氏とはどうやら“話し好き”であるらしい。

 ふ~~ん、そうなんだ。
 黒田氏就任に先立ち退任に追い込まれた前日銀総裁の白川方明氏など、対照的な人物のようだった記憶がある。
 日銀総裁たるもの、口数多く喋ってりゃ一国の金融政策が何とかなるのか? あるいは何も言わずに黙ってりゃ済むものなのか??

 前日銀総裁であった白川氏に関し、私にとって忘れ得ぬ事件がある。
 2009年2月に、自民党麻生内閣の下で財務・金融担当大臣だった(故)中川昭一氏が出席したイタリア・ローマにて開催されたG7の後の記者会見に於いて、中川氏が酩酊して呂律が回らない事件を起こした。
 世界中に放映されたその影像の中で、当時日銀総裁だった白川氏は酩酊状態の中川氏の隣で「我関せず」と表現するべきか、あるいは「僕のせいではないよ」とでも言いたげな“他人事”表情で平然と座っていたのが印象的である。

 中川氏自身が激しい批判を浴びて3日後に大臣職を辞すことになったとは当然として、何故、隣に座って何の対処もしなかった白川氏が責められないのか、私はずっと不思議な感覚を抱き続けている。
 日本の中央銀行である日本銀行の総裁たる立場の者が、その理由は何であれ、酩酊状態の一国の大臣の横に平然と座っている姿は誰が見ても奇妙だった事であろう。 たとえ世界放映の記者会見であろうと、そこは酩酊状態の大臣など欠席させ、中央銀行総裁である白川氏が一人で記者会見を受けて立とうと判断するべきだった。
 大事な場面で一国の要人が何も言えないのも困ったものだ。


 私事を語ると、そもそも“話し好き”な人種を原左都子は好まない。 
 基本的に静寂を好む私は、2人以上の会合の場で相席している誰かにくだらない話を立て続けにまくし立てられたものなら、苛々感が募るばかりで耳を塞いで即刻その場から逃げ去りたい思いに駆られる。

 特に、男の“話し好き”は昔から苦手だ。
 それ故に独身が長かった私は、常にパートナー選別に当たってその点を重要項目として来た。
 “男は黙って、質実剛健!” これに限るとの我が理想を出来得る限り貫いた。 私自身も基本的にはお喋りではないが、それでも“くだらない話”をして場を繋ごうとは一切思わない。 内容の濃い会話を楽しみつつ、貴重な時間を共有したいものだ。


 朝日新聞3月22日「ひと」欄の記事によると、新日銀総裁の黒田氏は「話し出すととまらない」と周囲から言われる程の話し好きであるらしい。

 上記記事の内容を以下に要約して紹介しよう。
 3月21日、2人の副総裁と共に臨んだ就任会見に於いて金融政策への自らの考えをとうとうと語り、1時間45分に及んだ。 物価も給料も上がらない「デフレ」退治の請負人として、第31代日銀総裁に就任した黒田氏は「やれることは何でもやる」と意気込む。
 元々財務官僚だったが、金融緩和に後ろ向きだった日銀とは呼吸が合わない。 日銀への不信感と共に金融政策に関心を持ち02年には財務官としては異例の「デフレ脱却目標」を日銀に提案した。


 原左都子の私論に入ろう。

 そんな黒田氏を、“アベノミクス”を掲げる安倍政権が、白川氏を退任に追い込んででも政権下の日銀総裁に指名しないはずもなかった。 金融引き締め主導の白川氏など、安倍政権にとっては“およびではない”存在だった。 これをとっとと切り捨てるその強引な手法には呆れるばかりである。
 これが長い目で見て吉と出るのか凶と出るのか、未だ国民から票を集めたばかりとも言える現時点に於いて、“アベノミクス”の将来性は多くの危険性を孕んでいると捉えるべきであろう。 

 安倍政権は、この春労働界に“ボーナス満額回答”をももたらすに至った。
 ところがこの“ボーナス満額回答”とは自動車・重工等の一部の大企業に限られている。 すなわちこの恩恵を賜れるのは庶民のごく一部である。 電機業界の中には、経営難により夏のボーナスゼロ回答をしている企業もある。
 
 円安や株高傾向が今後如何ほどの期間持続可能かに関しても、不確実性が高いと考えるべきではなかろうか。

 安倍内閣はせっかく民主党から政権を脱却し与党として返り咲いたにもかかわらず、どうも金融の元締めである中央銀行改革や、経済主体である大企業にばかり視野を向けるとの姿勢において、昔の自民党体質から何らの変貌も遂げていない感覚を一庶民として抱かされる。
 ここはもう少し「票」を入れてくれる庶民の目線に、本気で立っては如何なものか?


 今回のテーマである日銀総裁に話を戻そう。

 日銀総裁たる者、口数が多くても寡黙であってもよかろうが、本エッセイの最後に日本の中央銀行の使命に関して今一度復習しておこう。

 日本銀行とは、1882年に設立された日本の唯一の中央銀行である。
 日本銀行法に基づき「物価の安定」と「金融システムの安定」を目標に、日本銀行券の発行、公開市場操作、資金決済サービス等の各種中央銀行業務を遂行する機関だ。

 創業以来130年の歴史を誇る我が国の中央銀行の長たる者が、時代の政権政策に操られるがままに「金融緩和」にばかり視野を狭める事態とは如何なものか?
 ここは自分の主張を公に話すことばかりに突進せず、少し寡黙な時間も持ち、庶民の立場もわきまえた「脱・デフレ論」を展開することに期待申し上げたいものだ。