礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

憲法学者・宮沢俊義の「思想的変節」について

2019-06-10 04:46:25 | コラムと名言

◎憲法学者・宮沢俊義の「思想的変節」について

 昨日のコラム「加藤典洋さんの『9条入門』を拝読した」の最後の方で、私は次のように述べた。

 この本では、いろいろなことが論じられているが、最も重要なのは、宮沢俊義の「思想的変節」を論じた部分ではないだろうか。しかし、十分な展開にはなっているとは言えない。

 ここで、「十分な展開にはなっているとは言えない」としたのは、戦中における宮沢俊義の研究・言説に関する加藤さんの検討が十分でないと感じたからである。加藤さんが、遺著『9条入門』で明らかにした宮沢の「思想的変節」は、敗戦後の短い期間におけるものである。もちろん、これも重要なお仕事ではあった。しかし、憲法学者・宮沢俊義の「思想的変節」を本格的に論ずるのであれば、戦中における彼の研究・言説を十分におさえた上で、「戦中から戦後にかけて」の思想的変節を明らかにする必要がある。
 ちなみに、以前、調べたところによれば、戦中から戦後にかけての宮沢俊義の主な研究・言説は、次の通りである。

・「国民革命とドイツ憲法(一)」、『国家学会雑誌』第47巻第9号、1933年9月〔宮沢俊義『転回期の政治』中央公論社、1936に再録〕
・「国民革命とドイツ憲法(二・完)」、『国家学会雑誌』第47巻第10号、1933年10月〔宮沢『転回期の政治』中央公論社、1936に再録〕
・「ニュルンベルク法」、『国家学会雑誌』第50巻第10号、1936年10月〔宮沢『転回期の政治』(中央公論社、1936)に改題して再録「ドイツの『自由の憲法』」〕
・『転回期の政治』中央公論社、1936年12月
・「ナチス・ドイツ憲法の生成」、『国家学会雑誌』第52巻第6号、1938年6月〔宮沢『憲法論集』有斐閣、1978に再録〕
・「新政治体制と内閣」、『日本評論』第15巻第9号、1940年9月
・「大政翼賛運動の法理的性格」、『改造』第23巻第1号、1941年1月
・『憲法略説』岩波書店、1942年7月
・「八月革命と国民主権主義」、『世界文化』第1巻第4号、1946年5月〔宮沢『憲法の原理』(岩波書店、1967年)所収「日本国憲法生誕の法理」に、その要旨が紹介されている〕
・『民主制の本質的性格』勁草書房、1948年1月
・「国民主権と天皇制とについてのおぼえがき」、『国家学会雑誌』第62巻第6号、1948年5月

 いま、戦中における宮沢俊義の研究・言説について論じている余裕はないが、二〇一三年の麻生発言で有名になった「ナチス憲法」という用語を、戦中における日本の法学界に定着させたのは、宮沢俊義であったという事実のみを、紹介しておきたい。

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