◎戦災者諸君におかれても悲運に屈することなく……(東久邇首相宮)
朝日新聞社編『終戦記録』(朝日新聞社、一九四五年一一月)から、「帝国議会における東久邇首相宮殿下の御演説」の部を紹介している。本日は、その八回目。
戦争の終結に伴ひ、軍事上産業上の復員が行はれ、今後多数の同胞は各々その家郷に、旧の職場に復帰して来る、また大東亜各地に配備せられてをる多数軍隊の内地帰還は真に容易のことでなく、相当の年月を要するを惧れるのであるが、これ等の任務を解かれた軍人及び産業要員の就職、授産等の援護厚生については、政府としても、もとより万全の準備を尽し遺憾なきを期する所存であるが、同胞諸君におかれても、傷き〈キズツキ〉破れたこれ等の人々に深き思いやりを及ぼし、温かき同胞愛を以て抱擁して頂きたいのである、特に特別攻撃隊の勇士を初め壮烈護国の華と散られました幾多の将士の尽忠に対しては私は諸君と共に謹んで敬弔の誠を捧げると共に、戦陣に傷き病んだ将兵各位に対し深甚なる同情の意を表し、その速かなる再起を衷心より希望するものである。政府としては軍人遺族並に傷痍軍人の上に寄せさせ給ふ有難き大御心を体し、その援護厚生に今後特段の努力を傾け施政の万全を期したい所存である。また第一線の将兵と変ることなき危険を冒し、幾多の尊き殉職者を出しつゝも敢然として長期にわたり、海上輸送の完遂に撓まざる〈タユマザル〉努力を示して参つた船員諸君に対し、更に空爆下一身の安危を顧みず増産輸送の職場を守り抜き遂に職域に殉じた同胞諸君並に皇国の大義に生くる行学一致〈ギョウガクイッチ〉の学徒動員に真に目覚ましき働きを示した学徒諸君に対しては、私は諸君と共に心から敬意を表すると共に、空爆により非命に斃れ〈タオレ〉家を失ひ職を離れた同胞諸君に対し深甚なる同情の意を表するものである。これら殉職者、戦災者の援護については、今次の詔書に於きましても洵に〈マコトニ〉有難き聖慮を拝してをるのであつて、政府は今後とも全力を傾注したき所存であるが、戦災者諸君におかれても悲運に屈することなく、速かに潑刺たる意気をもつて建設に奮起して頂きたい。【以下、次回】