礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

横浜方面にも内々に人を派遣し……(福沢諭吉)

2021-05-02 00:53:15 | コラムと名言

◎横浜方面にも内々に人を派遣し……(福沢諭吉)

 福沢諭吉の「長州再征に関する建白書」を読解している。本日は、その四回目。第一条の❾の残り、および❿を読解する。

❾ⓖ一体弁理公使の義は条約済各国の間互に壱名づゝ指遣し交際の事務取扱候一般の振合にて御国にても御条約御取結後直に可被指遣筈の処今日迄御延引相成就ては御国の情実各国政府へ相達候にも唯在留のミニストルのみの手を経候義に付自ら行違の出来候も難計且各国と同等の御交際におゐて御不体裁にも有之

 一体、弁理公使の義は、条約済み各国の間互に壱名づゝ指し遣はし、交際の事務取扱ひ候一般の振合にて、御国にても御条約〔を〕御取結び後、直ちに可被指遣〈サシツカワサルベキ〉はずのところ、今日まで御延引相成り、ついては御国の情実〔を〕各国政府へ相達し候にも、ただ在留のミニストルのみの手を経〈ヘ〉候義につき、おのづから行違ひの出来候も難計〈ハカリガタク〉、かつ各国と同等の御交際におゐて、御不体裁にも有之〈コレアリ〉。

《補足1》「出来候」の読みは、〈デキソウロウ〉、または〈イデキソウロウ〉。
《補足2》「御不体裁」の読みは難。〈オンフテイサイ〉、〈ゴブテイサイ〉などが考えられる。

❾ⓗ右の次第にて自然各国の人心御国を以て自国同等の政府の様不心得或は新に条約を可取結抔の説も起候義に付今度英仏亜魯等へ在留の公使御指遣御交際の事務直に彼国政府へ談判いたし候様相成候はゞ万事御懸合向行届候は勿論各国同等の御体裁相備り自ら諸外国人心の向ふ所も定り遊説書生抔の浮説に疑惑不致様可相成奉存候

 右の次第にて、自然各国の人心〔が〕御国を以て自国同等の政府のやう不心得〈ココロエズ〉、或は新たに条約を可取結〈トリムスブベキ〉などの説も起き候義につき、今度、英仏亜魯〔英・仏・米・露〕等へ在留の公使御指し遣はし、御交際の事務、直ちに彼の国政府へ談判いたし候やう相成り候はゞ、万事御懸合〔の〕向き行届き候は勿論、各国同等の御体裁相備はり、おのづから諸外国人心の向ふ所も定まり、遊説書生などの浮説に疑惑不致〈イタサヌ〉やう可相成〈アイナルベク〉奉存候。

《補足》「御懸合」読みは、〈オカケアイ〉か。「懸合」は「談判」と同義。

 以上が❾で、このあとに、第一条の最後の文章❿が続く。

❿前段の通此度各国弁埋公使被指遣候上は御交際向万端御都合宜敷御国の情実も彼国政府へ貫通いたし候義に御座候得共西洋各国何事によらず議論の宜敷風習にて殊に新聞紙の説抔は虚実難指定、其説を以確證とも難致とは申ながら世間皆文を重んじ其大論に由ては一時政府の評議をも変じ候程のものに付前段諸家より遊説の者共新聞紙に力を用ひしは必然の義に付弁理公使御指遣の節は新聞紙布告の義別段被仰渡彼地に於て専ら政府の御趣意を弁明布告いたし大名同盟の説を論破候は勿論此度長賊の罪状抔も事【手】を替へ品を改め新旧の罪悪些細の事までも条挙件説日々出板いたし遂に世界中の人をして周く長州の罪を悪ましめ長に近く者は世界中の栄誉面目を知らざる者と申唱候様仕度就ては右弁理公使御指遣相成候とも三五日の間に御評議決にも相成間敷に付不取敢横浜表にも内々御人被指遣前段の御趣想にて頻に長州の罪を鳴らし政府の御趣意を主張いたし同所新聞紙を以て布告仕候様取計尚又当時荷蘭国【おらんだ】露西亜【ろしや】えも伝習罷越居候面々へも時々御用状被指遣【立】新聞相添へ彼地おゐても布告の義被仰遣候様仕度奉存候

 ❿もまた、一文としては長すぎる。しかし、これを区切ろうとすると、区切れる場所は、一箇所しかない。

❿ⓐ前段の通此度各国弁埋公使被指遣候上は御交際向万端御都合宜敷御国の情実も彼国政府へ貫通いたし候義に御座候得共西洋各国何事によらず議論の宜敷風習にて殊に新聞紙の説抔は虚実難指定其説を以確證とも難致とは申ながら世間皆文を重んじ其大論に由ては一時政府の評議をも変じ候程のものに付前段諸家より遊説の者共新聞紙に力を用ひしは必然の義に付弁理公使御指遣の節は新聞紙布告の義別段被仰渡彼地に於て専ら政府の御趣意を弁明布告いたし大名同盟の説を論破候は勿論此度長賊の罪状抔も事【手】を替へ品を改め新旧の罪悪些細の事までも条挙件説日々出板いたし遂に世界中の人をして周く長州の罪を悪ましめ長に近く者は世界中の栄誉面目を知らざる者と申唱候様仕度

 前段の通り、この度、各国弁埋公使被指遣〈さしつかわされ〉候上は、御交際向き万端御都合宜敷く、御国の情実もかの国政府へ貫通いたし候義に御座候得ども、西洋各国〔は〕何事によらず議論の宜敷き風習にて、ことに新聞紙の説などは、虚実難指定〈サシサダメガタク〉、その説を以て確證とも難致〈イタシガタシ〉とは申しながら、世間皆文を重んじ、その大論によつては、一時政府の評議をも変じ候ほどのものにつき、前段諸家より遊説の者ども、新聞紙に力を用ひしは必然の義につき、弁理公使御指遣はしの節は、新聞紙布告の義、別段〔とりわけ〕被仰渡〈オオセワタサレ〉、かの地に於て専ら政府の御趣意を弁明布告いたし、大名同盟の説を論破候は勿論、この度長賊の罪状なども、事【手】を替へ品を改め、新旧の罪悪、些細の事までも条挙件説、日々出板いたし、遂に世界中の人をして周〈アマネ〉く長州の罪を悪ましめ、長に近づく者は世界中の栄誉面目を知らざる者と申し唱へ候やう仕度〈ツカマツリタシ〉。

《補足1》「前段の通り」の「前段」は、第一条の❾を指すのであろう。
《補足2》全集では、「事を替へ」の「事」の右に、〔手〕というルビがある。「手を替へ」が一般的であるという、校訂者による註である。
《補足3》私見では、「申唱候様仕度」で一度、句点を打つべきである。その場合、「仕度」の読みは、〈ツカマツリタシ〉。読点を打って続ける場合は、〈ツカマツリタク〉。

❿ⓑ就ては右弁理公使御指遣相成候とも三五日の間に御評議決にも相成間敷に付不取敢横浜表にも内々御人被指遣前段の御趣想にて頻に長州の罪を鳴らし政府の御趣意を主張いたし同所新聞紙を以て布告仕候様取計尚又当時荷蘭【おらんだ】国露西亜【ろしや】えも伝習罷越居候面々へも時々御用状被指遣【立】新聞相添へ彼地おゐても布告の義被仰遣候様仕度奉存候

 ついては、右弁理公使〔を〕御指遣はし相成り候とも、三、五日の間に御評議決にも相成り間敷きにつき、不取敢〈トリアエズ〉横浜表〈オモテ〉にも、内々御人被指遣〈サシツカワサレ〉、前段の御趣想にて頻〈シキリ〉に長州の罪を鳴らし、政府の御趣意を主張いたし、同所新聞紙を以て布告仕り候やう取計ひ、尚また当時〔ただいま〕、荷蘭【おらんだ】国、露西亜【ろしや】えも、伝習罷越居〈マカリコシオリ〉候面々へも、時々御用状〔を〕被指遣【立】、新聞相添へ、かの地おゐても布告の義〔を〕被仰遣〈オオセツカワサレ〉候やう仕度〈ツカマツリタク〉奉存候。

《補足1》「御人」の読みは、たぶん〈オヒト〉。
《補足2》「前段の御趣想」の「前段」は、第一条の❾を指すのであろう。
《補足3》「荷蘭」、「露西亜」への振り仮名「おらんだ」、「ろしや」は、原文にあったものか。
《補足4》原文では、「御用状被指遣」の「遣」の右横に、「立」という文字があるという。「被指遣」の読みは〈サシツカワサレ〉、「被指立」の読みは〈サシタテラレ〉。
《補足5》「荷蘭国露西亜えも伝習罷越居候面々へも」は難解。「荷蘭国露西亜えも、伝習罷越居候面々へも」と、途中で読点を打つべきか。

 ここまでが、「第一条」である。❿で福沢は、政府によるイデオロギー工作の必要性を強調している。各国に弁理公使を派遣して政府の趣意を主張させる、横浜で発行されている新聞に政府の布告を掲載するなど、具体的かつ現実的な提案をおこなっている。

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