礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

米代川に飛び込むところを急ブレーキで事なきをえた

2021-05-25 02:00:04 | コラムと名言

◎米代川に飛び込むところを急ブレーキで事なきをえた

 雑誌『自動車の実務』第三巻から、宮本晃男の「東日本一周ドライブから」という連載記事を紹介している。本日は、その六回目。本日、紹介するのは、連載第三回(第三巻第三号、一九五三年三月)の後半。

   トヨペット貨車積み
 新発田から鶴岡間は、鼠ガ関〈ネズミガセキ〉(念珠ガ関ともいう)天下の難所は、国道のトンネルが欠壊し、全然不通であり、他に道がないので、ここでは貨物列車を待ち、切返しを度々行ってトヨペットを貨車積みし、夕刻〔10月14日〕鶴岡に着いた。
 自走できないないのがくやしいので、貨車の上のトヨペットの座席に橋本記者と腰かけ、汽車の煙と蒸気にむせながら沢山のトンネルをくぐった。タオルでほほかむりし、まっくろになりながら日本海に打寄せる荒波と岩と水と山との、奇異な景色にみとれた。
 車にはどめをかい、太い荒づなでぎゅうぎゅういわいたが、駅に着くと突放しや、入替えで衝突のような衝撃をくりかえされるのでなるほどと二人共感服した。手でブレーキをかけたくらいでは、たちまち自動車がずれ落ちるし、こわれてしまう。自動車に乗ったまま貨物列車にゆられたのはこれがはじめてだった。
 トヨタジープならこんなまねをしないですんだだろうなど話し合ったが、海の際は崖と荒波で、やはりトンネルがなければ、こうするより方法がないことがよくわかった。鶴岡市の大歓迎と、映画会を盛会裡に終えて夕刻鶴岡ホテルに一泊した。

   鳥海山を右に見て庄内平野を走る
 鶴岡――酒田間は道がよい。酒田、秋田間の県境には有耶無耶〈ウヤムヤ〉の関所跡があり、この近辺は目下道路工事中でまたとない悪路が続き、運転には寿命の縮む思いがした。
 ちょうど木曾路で、溝に落ちたトラックをよけながら、断崖絶壁との間を、5センチほどを余してすれちがったときのような、はらはらした気持ちだった。
 秋田市公会堂前で市民や、小・中学生の大歓迎を受け、花束やレイをかけられ、秋田トヨタや朝日のサイドカーに先導されて、北国の都秋田の市中を行進した。

   秋田から八郎潟を左に能代へ
 秋田市に一泊〔10月15日〕、翌朝〔10月16日〕、石油の井戸のやぐらが林立する中を走って、能代〈ノシロ〉に向った。
 雨に強風が加わり、八郎潟の荒波を左に見ながら、木材の集散で急がしい、能代で休憩。美しい虹の橋をくぐりながら、米代川〈ヨネシロガワ〉にそって大館〈オオダテ〉に出た。途中鷹巣〈タカノス〉を過ぎたころ橋が流出し、本道からそれて細い道を行くと仮橋のあるところがあった。しかし通行止も迂回の標識もない。危く自動車もろとも河中に飛びこむところ急ブレーキで事なきをえた。土地の人は知っていても他国の運転者は危険千万だと思った。はたして夕刻にリンゴを満載した三輪トラックが飛びこんで同乗の娘さんもろとも重傷の記事があった。こんなことはめずらしくないのは全く困ったことである。
 大館で小憩の後弘前に向った。奥羽本線にそって登りつめるとやがて秋田と青森の県境があり、碇ケ関〈イカリガセキ〉、大鰐など温泉地を過ぎると津軽平野がひらけ、踏切をこえるといよいよ弘前市である。

   秋田美人・弘前美人
 秋田は面長の美人で名高いが、弘前の女学生も美しいと橋本記者もみとれていた。
 盛んな出迎えを受け、〔弘前〕市内を一巡〔10月16日〕、翌日〔10月17日〕はいよいよ東日本の北端の青森市に入ることになった。
 距離はすでに東京から1488km走ったことを示し、毎日150km余を走りつづけ、すでに17日目〔ママ〕である。
 毎日走りつづけであったが橋本記者も筆者も未だ疲れることもないが、さすがに住みなれた東京が恋しい。
 東京の国鉄電車、銀座の柳、ネオンや電光ニュースの光り、目をつぶるとこれらの思い出が走馬灯のようにひらめいた。
 しかし地方に来てみると何か落着いた、一歩一歩ふみしめているような力強さか感じられる。戦敗後7年、しかし日本は着々と健康を取り戻している。
 すげ笠をかぶり、もんぺをはいた丸顔の可愛い娘さんたち、にっこりほほえむ無邪気な村の男の子たちを見るたびに、頼もしいなと微笑せずにはいられない。やっぱり日本に生れてよかったと思った。(以下次号)

 このあたり、日付が明示されていない。〔 〕内の日付は、引用者によるもの。
 文中、「17日目」とあるのは、誤りであろう。弘前到着が10月16日(金)だったとすれば、同日は、出発から9日目である。
 この連載「東日本一周ドライブから」には、毎回、多くの写真が紹介されている。ただし、どれも、あまり鮮明でないのが残念である。今回、紹介した部分では、貨車に載せられたトヨペットの写真、そして弘前市内を走る「馬車バス」の写真が貴重である。

*このブログの人気記事 2021・5・25(10位の石原莞爾は久しぶり)

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