礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

日本人は暇つぶしの娯楽に耽っている(M・W・ヴォーン)

2023-06-13 01:11:49 | コラムと名言

◎日本人は暇つぶしの娯楽に耽っている(M・W・ヴォーン)

『日の出』1945年11月号から、UP通信社極東総支配人M・W・ヴォーンに対するインタビュー記録「日本を斯く見る」を紹介している。本日は、その三回目。
「問」は、ニッポンタイムズ社編輯局総務の長谷川進一によるもの。「答」は、それに、M・W・ヴォーンが答えたもの。

  さつき印度へ行つた話が出たが、印度はどうでした? 戦争中日本は印度の独立を援助し、自由印度仮政府が樹立されたのですが……。指導者のチヤンドラ・ボース氏も墜死しました。
  私が印度へ行つたのは、印度の諸新聞とユー・ピー電報の新契約を結ぶためだつたんです。印度には約五十の大きな日刊紙がユー・ピー電報を取つてゐる。勿論その中には日本から発信されるユー・ピー電報もはいつてゐます。印度人は日本の将来に非常な関心を持つてゐます。
  印度の日本に対する空気は?
  印度人は、普通の日本人に対しては、何等の敵愾心を持つてゐない。しかし大抵の印度人はアジアにおいて戦争をはじめたのは日本の軍部だと、軍部を非難してゐる。
  印度領内ではほとんど戦闘はなかつたぢやありませんか?
  成程、印度領内では大した戦闘はなかつた。しかし印度は戦争によつて非常な損害をかうむつてゐる。食糧の余剰はほとんど全部、印度およびビルマに駐屯してゐる印度軍・英軍・米軍の食糧に徴された。その上、米国は蒋介石政府に供給するために食糧および装備用品を大規模に買ひ上げた。
  それぢや、印度の飢饉も戦争の余波ですね。
  二年前のベンガル州――あのカルカツタを首都とする東海岸――の飢饉では、二百万人以上の人が餓死しました。カルカツタの町々では毎朝、何百といふ死体が拾ひ上げられた。飢饉の第一の原因は、ビルマから米が来なかつたからです。日本軍がビルマを占領してから、印度向けの米を積んだ船が全部とまつてしまつた。
  話題を日本にもどしまして……米国では、米軍進駐以来の日本の態度に衷心から満足してゐますか? まだ日本人を好戦国民だと、アメリカでは考へてゐますか? われわれから見れば、昨日まで一億玉砕を覚悟で奮闘してゐた日本人が、一夜にしてこのやうに破綻なく戦争を終結するに至つたことは、全く、天皇陛下の御稜威【みいつ】の致すところと思はざるを得ないのです。このやうにポツダム宣言の実施に誠意を示してゐる日本にたいして、米国は、この上更に、何を要求せんとしてゐるのですか?
  私も米国民は今日の日本国民の態度に十分満足してゐると信じます。米国民は、日本国民ができるだけ短期間に東京その他の戦災都市を、清掃整理することを希望します。アメリカの考へでは、日本国民が、自身日本を支配し、そして民主々義の線に沿うて自国を再建することを要望してゐます。米国は必要以上に日本のことに干渉するのを欲しないのです。たゞ米国は、日本国民が勤労、節約、清潔の諸美徳を発揮し、教養ある、規律ある、よく働く国民であることを示すことを希望してゐるのです。
  現在、アメリカから見てどういふ点が日本に欠けてゐると感じますか。
  例へばですね。東京でよく見かける風景ですが、劇場が大入満員で、切符を買ふ人の列が長くつゞいてゐる。あんな光景を見ると、アメリカ人はあまり好い印象は受けませんね。暇つぶしの娯楽に耽【ふけ】つてゐるとしか考へられない。アメリカ人から云へば、日本人にそんな暇があれば、焼跡【やけあと】を清掃したり、食糧増産に励んだり、この近づいて来る辛い冬のために用意したり、さう云つた仕事にもつと精を出すべきだと思ひます。
  それは全く同感ですね、貴方が最近東京から発信した新聞電報にも『食糧不足や輸送の不円滑【ふゑんかつ】から飢饉の脅威が拡大し、日本はこのまゝに放置すれば栄養不足による病気のために、これから一年間に五百万人か一千万人の人が死ぬと、多くの日本人が予言してゐる。来年三、四月頃には米騒動【こめさうどう】が起る危険が拡がつてゐる』と書いてゐるが、今の日本人は終戦による放心状態から幾分づつ覚醒しつゝありとはいへ、まだまだ暢気〈ノンキ〉すぎますね。あなたは日本の敗戦感がまだ不徹底だと考へますか?
  私は『一体、日本の国民には、一般に、今度の敗戦の大きさがほんとに分つてゐるのか』と聞きたいのです。朝鮮を失ひ、台湾を失ひ、満洲を失ひ、戦前世界に誇つた商船を多数うしなひ、幾多の工場をうしなひ、海外市場をもうしなつて、結局、日本は非常な貧乏国になつてしまつたのです。そこで、これからの日本人は自国を再建するためには、一人々々が真黒になつて働かねばならぬ時代だと思ふのです。【以下、次回】

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