◎1950年9月にクランクインの予定だった
『テアトロ』第111号(1950年9月)から、「歌舞伎王国」の映画シナリオ(村山知義)を紹介している。本日は、その七回目(最後)で、このシナリオの最後の数シーンを紹介する。
座頭(ざがしら)の山下金右ヱ門の逆鱗に触れ、「クビ」を言い渡された松島額之助。ラストは、立ち見席から金右ヱ門の演技を堪能した額之助が、劇場を去ってゆくところ。
〔120〕 階段
トボトボとおりつずける額之助。
〔121〕 玄関口
しめかけている玄関口を出る。
〔122〕 橋の上
とぼとぼと来た額之助が立ちどまって振り返る。
〔123〕 劇場の遠景
夜空にそびえている劇場の電燈が消えてゆく。
☆あ と が き☆
このシナリオは前進座映画の為に作られたものであり、新星映画社と提携、今井正の演出により〔1950年〕九月上旬よりクランクを開始する。出演は河原崎長十郎、中村翫右衛門その他前進座員総出演によつて製作される。
国際状勢、国内状勢の緊迫化にその製作については多くの困難が予想されている。が、民主的な、民族的な映画への要望は、大衆の胸の底に、ねずよい確信として波うつている。前進座映画が今こそ大衆に守られて優れた成果を収められん事を祈りたい。 編 集 部
「出演は河原崎長十郎、中村翫右衛門その他」とあるが、舞台の「歌舞伎王国」(1931)では、歌舞伎界のボス・三枡屋金十郎を四代目河原崎長十郎が演じていたので、映画でも、山下金右ヱ門を長十郎が演ずることになっていたのではないか。
また、舞台では、老優・西川松玉を二代目市川荒次郎が演じていたので、映画でも、松島額之助を市川荒次郎が演ずることになっていたと推測する。なお、シーン〔63〕の前半に、「その南京豆、少しよこしねえ」という額之助のセリフがある。市川荒次郎のアダナは、「南京豆」だったという。このセリフは、村山知義が、遊び心で入れたのだろう。
中村翫右衛門が演ずることになっていた役どころはハッキリしないが、山下金右ヱ門の息子・吉弥、もしくは松島額之助の息子・門八だったのではなかろうか。なお、額之助の妻・お近の役は、山田五十鈴に演じてもらいたかったと思う。
明日は、話題を変える。