◎シナリオ「歌舞伎王国」(1950)の時代設定は現代
今月7日・8日のブログで、坂本徳松著『前進座』(黄土社、1953)という本を紹介・引用した。8日に引用した箇所には、敗戦後、前進座が『歌舞伎王国』という映画を企画したが、完成にいたらなかったこと、シナリオ「歌舞伎王国」は出来あがっていて、雑誌「テアトロ」昭和二十五年九月号に掲載されていることが記されていた。
先日、国立国会図書館に赴いたついでに、『テアトロ』第111号(1950年9月)を閲覧し、シナリオの部分をコピーしてきた。『綜合演劇雑誌 テアトロ』は、河童書房刊で、同号の定価は70円。
巻末に、「歌舞伎王国/前進座映画シナリオ/村山知義」が掲載されている。冒頭に、場所・時・人物の紹介がある。本日は、これを紹介してみよう。
場所 東 京
時 現 在
人物
松島 額之助 六十三才の老歌舞伎俳優。名題ではあるが、下級の地位。
同 門 八 二十八才、その子。同じ一座の下級俳優。
同 お 近 四十九才、額之助の妻。門八の母。
山下金右ヱ門 六十才。座頭。
お 篠 五十三才。その妻。
吉 弥 二十六才。金右ヱ門とお篠の間の子。立女形。
お 絹 三十八才。金右ヱ門の妾。
鈴 代 十八才。金右ヱ門とお絹の間の子。
西川 雁 雀 四十六才。老女形。
初太郎 二十五才。吉弥の弟子。
花村 五十才。頭取。
鈴本 四十九才。金右ヱ門の番頭。
吉川 帝都劇場の支配人。三十才。
松本 帝都劇場管理室係。二十七才。
お 澄 売店の売子。四十三才。
繁 蔵 大道具の頭。
音 蔵 下足番。五十才。
丑 蔵 年寄の大道具師。
又 三 一道具師。二十五才。
下瀬 会社の重役。五十五才。
網倉 せん子 四十二才。吉弥のパトロン。
神本 たず子 三十一才。吉弥のパトロン。
荒井 留 吉 六十才。揚幕の爺。
お 杉 五十才。お絹の家の女中。
く に 二十五才。金右ヱ門の家の女中。
床山・衣裳屋・金右ヱ門の男衆・金右ヱ門の弟子。
西川 あやめ 二十八才。
中村 扇十郎 五十八才。
山下 冠寿郎 三十五才。
吉太郎 大部屋の女形。
粂 也 同右。
劇場の女案内人・喫茶ガール・銀座の与太者・キヤバレーの女給二人・織本
劇場の観客、あんま、キヤバレーの客たち、渋谷のパン助お吉、掃除人、芸者三人
「時」=現在、とあるように、このシナリオは、1950年(昭和25)現在の歌舞伎界を描いている。
上記の「人物」に入っていないが、シーン〔5〕には、演劇批評家の東周一が登場する。明日は、そのシーン〔5〕を紹介してみたい。