◎松野官房長官に尋ねたい(伊藤智永)
毎日新聞9月16日朝刊2面「土記」欄の「松野官房長官に尋ねたい」(執筆は伊藤智永専門編集委員)は、実にホネのある記事であった。その中盤部分を引用させていただこう。
戦前の日本人は、どうして暴力へのタブーを緩めていったか。中国大陸へ派兵された一般民衆の暴虐さには、職業軍人や軍上層部が驚き嘆き、手を焼いた。関東大震災時の虐殺事件が重要なのは、日本人とは何者か、自分たちの本当の姿を知る上で無視できない経験だったからにほかならない。
虐殺は、地震被害の少ない埼玉、千葉、群馬など周辺の各県でも数日遅れで起きた。実行集団の中心には、朝鮮3・1独立運動鎮圧やシベリア出兵で「反日討伐」を経験した在郷軍人がいた。世論は、日本の大陸進出に反抗する動きを自分たちへの攻撃と受け取る被害者意識もあった。軍や警察が民衆の暴発を止めようとしながら防げなかった事件もある。
実行に加わらなくても、多くの人々が虐殺を見聞きした。話は日本中に伝わり、誰もがうわさでは知っていたが、政府は大半を不問に付して記録を消し、流血の経験は沈黙のうちに蓄積された。
伊藤専門編集委員は、このように述べた上で、松野博一官房長官に対し、「何のそんたくか」と尋ねている。松野官房長官が8月30日に、虐殺に関する「記録が見当たらない」と答弁したからである。
もちろん、この「問い」は、松野官房長官ひとりに向けられたものではない。この記事を読むすべての日本人に向けられたものだと捉えるべきであろう。