礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

真理を真理として主張しなければならない(南原繁)

2023-09-22 00:18:57 | コラムと名言

◎真理を真理として主張しなければならない(南原繁)

 南原繁『人間革命』(東京大学新聞社出版部、1948)から、「憲法改正」という文章を紹介している。本日は、その四回目。

(五)或はそれは単に一草案に過ぎぬといふかも知れない。併し、かやうにして作られ、しかも連合軍最高司令官の全面的承認と支持の下に発表せられた草案が、どれ丈〈ダケ〉大きな力と影響を有するものであるかは、蓋し想像の外に在ると思ふ。そのことは、この草案要綱が発表せられた翌日から、従来各政党の公表し来つた改正案が全く影を潜め、俄か〈ニワカ〉に挙げて政府案に賛意を表するに至つたのを見ても明らかである。かくの如きはアメリカ等のデモクラシーの発達せる諸国に於ては見られない現象かも知れぬが、遺憾ながらこれが日本の現状である。日本はいま先づ憲法改正の事業を通じてデモクラーを習練しつつあるのである。
 最近〔1946年〕七月二十一日、今議会〔第90帝国議会〕劈頭〈ヘキトウ〉に当り、連合軍最高司令官は再び声明を発して『かかる憲章の採択が、日本国民の自由な意志の表明たるを示すべきことが絶対に必要である。』『それを草案通り採択するか、修正を加へるか、或は否決するか、即ち、その形式と内容を決定するのは、一に〈イツニ〉日本国民が正当に選出した議員の手によつて行ふべきものである』と。洵に〈マコトニ〉かくあつてこそと思ふ。然るに恰度〈チョウド〉この朝、当院〔貴族院〕に於ては吉田総理大臣が吾々の注意を喚起して『憲法草案に対する論議と修正は自由なるも、唯国際関係を考慮すべき』を特に要請されたのは、いかなる自由によつてであるか。首相のこの注意よ要請は、実に貴衆両院を通じて憲法討議の根本前提となつたと思ふ。以上の如き吉田首相の言明は、マックアーサー元帥の以上の声明の趣旨と背反するものがないであらうか。日本の総理大臣は連合軍最高司令官の公明の態度に応へて、寧ろ同様のことを要望し、議会を激励すべきではなかつたか。
 政府の隠れ場は、またしても国際情勢である。併し、日本としては、ポツダム宣言とその執行に当る最高司令官の声明に、更にその根本に於て真理と正義に忠実なる外に、何に惑ひ何を疑ふことがあらうか。吾々は敗戦国としてどこまでも謙虚であると同時に、しかも大胆に真理を真理とし、正しきを正しとして自由に主張し訴へなければならね。これがまたデモクラシーの根本精神である。連合国が日本に要求するところは、実はそれ以外のものではない筈である。将来、日本が国際社会に伍して列国の信頼を贏ち得〈カチエ〉、世界人類に寄与貢献し得るのは、かかる国民となつて初めて可能であるであらう。
(六)憲法改正に対する政府の態度方針の凡そ自主自律性を疑はしめるものとして私のなほ一つの問題といたし度きは、草案全体を通じてその結構並びに文体に関してである。草案を一読する者は何人〈ナンピト〉も、その構成に於て又表現形式に於て、わが国従来の立法に嘗て見られない外国調を以て書かれてゐるのを感じない者はないであらう。現行憲法は周知のごとくプロシアに範を取つたとは雖も〈イエドモ〉、吾々の先輩はそれを日本のものとするためにいかに苦心し努力したことか。此度〈コノタビ〉敗戦を転機とし、今改めてアメリカの立法例や政治文献を参照したことは十分想像され得るし、また大いにその必要があるであらう。しかし、これはまた恰も初め、何かの都合で一先づ英文で纏め、然る後日本語に訳出したかの如き感を与へずには措かぬ。占領治下の暫定憲法といふならばいざ知らず、これがそのまま果して将来の独立国家たる日本の憲法として後世子孫に伝ふるに足るべき形式であらうか。我が国の立法技術家に果してその人がなかつたのか。これらの点に関し、政府のとつた措置に大なる遺憾はなかつたか。特に吉田総理大臣の弁明を煩はし度い。
 事はひとり文体と結構の問題に止まらない。その内容とそこに盛られた精神に拘る〈カカワル〉問題がある。これより草案内容の主要なる問題について質疑いたし度い。

 第90回帝国議会(臨時会)の会期は、1946年5月16日から10月12日まで。南原繁が質問演説をおこなったのは、前述したように、1946年8月27日。
 南原繁の「憲法改正」は、「一」から「三」の三節によって構成されているが、ここまでが、「一」である。続いて、「二」を紹介したいと思うが、その前に、一度、話題を変える。

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