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随筆  育ジイの楽しみ   文科系

2023年08月22日 06時33分06秒 | 文芸作品
「ジイ、いらっしゃーい、さあどうぞ、どうぞ!」とみんなからの声。で、意識して遅れてきた彼は、ビールを駆けつけ二杯。卓上でいかにも美味そうなローストビーフが目に付き、即箸を運ぶ。半レア色切り口を、こんもりとかかった茶色のタマネギソースが柔らかな味ですっきりと食べさせて、美味かったこと! このテーブルのお相手は娘のマサを入れて四人の四〇代女性で、会場はマサの自宅、この皆にとって毎夏この家恒例のパーティーなのだ。ここには現在、他に六歳から十三歳までの子どもが十一人。今は三階の遊戯室、子ども部屋と、一部がこのリビング・ダイニングとに別れているが、先ほどまでは彼らの夕食でさぞ賑やかだったことだろう。というわけで彼は、その時間を避けて、後のパーティー目指して少々遅れてやって来たというわけだ。毎年恒例で十年近く続いているこの会の始まりのころを彼の8年前の随筆で紹介すれば、こんな光景からということになる。

「三~四歳ほどが主体と思われる子どもが十人ほどと、父親四人。その内の一人はベンチに座って、赤ん坊にお茶を飲ませている。街中のちょっとした公園、五月のある日曜日昼のこの光景を74歳の僕は今、全体が見渡せるベンチから眺めている。さっきから何度も微笑みが浮かび、心が温かくなっていた。僕の孫娘、ハーちゃんの保育園同級生とそのお父さんたちなのである。・・・お母さんたちはといえば、今日はイタリアンランチの昼食会で、ミシュランの星が付いたあるトラットーリアに出かけている。今頃はきっと、お喋りも大詰めでさぞ盛り上がっていることだろう。お父さんの何人かと僕が子守を引き受けたから成立した企画であって、こと更にイクメンなどと連呼される今の日本だが、こんな光景は昔からあるところにはあったと僕自身が経験してきて………」

 と、この頃から続いた母と子のパーティーがこれだ。保育園時代の親子有志の同窓会と言えて、当時から園行事などにもずっと参加してきた彼はいつしか、子ども全員のお爺さんみたいな積もりになっていた。今年中学生になったばかりの同級生五人の子どもらとも、保育園行事「山の家キャンプ」など含めていろいろ遊び、世話もしてきたのだ。今一番大柄で一六〇センチは越えようかというナナちゃんが脇に見えると、こんな事を思い出す。山の家から大人は彼一人で山中へと探検散歩に出かけた時、「ジイっ、ナナちゃんがおしっこだって」、というわけであわてて森の大木を探し出して、その木陰に鼻紙を渡す。もうちょっと大きくなった時には、大木から長くぶら下がった蔦の先に輪っかを作って、伸ばした片脚を突っ込んで蔦にしがみつきながらのロング・ブランコ。あれは皆がどれだけ楽しんだことか、何回も何回も挑戦していた……。
 さて、会もたけなわに入ったころ、遅れてユッピの母さんがやっと駆けつけた。また新しいごちそうが持ち込まれて、すぐに乾杯に入る。マサの声で、「今日のジイから差し入れは、シャンパンのモエ・エ・シャーンドン・ブリュットでーすっ!」。
 拍手と歓声があがる。彼が事前に届けておいた品なのだが、この会がいつまでも、どれだけでも続くようにとの気持ちを毎年現してきた今年の品なのだ。

 幼児の頃からずーっと付き合って来た親子って、お互いとても貴重な存在だと捉えてきた。一緒に楽しみ合い、いろいろ学びあって、子等の人生のいろんな転変にもきっと助け合えるにちがいない。そんな老爺心も添えつつ、幾重にも楽しい場所なっている。
コメント
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