カウンセリング総論-2004年セスクカウンセリング総論②
2004年5月29日・6月5日(金)パーソナリティの発達と病理①②③メモ(1)
笠井仁(筑波大学心理学系)
映画『イヴの3つの顔』(実話、1950年代:きわめて珍しいケース)
①抑えこまれていた自分-イヴ・ホワイト-おどおどした女性、
②ブラックの存在を知らない、ブラックが顔を出すとき記憶喪失になる
③のびのびとした自分-イヴ・ブラック-きらびやかな女性、ホワイトの存在を知らない
バランスをとろうとしている自分-ホワイトの存在を知っている。時間のホワイトとブラックの中間のつながりがよみがえってくることで解決した。
このようにお互いに知っている、知らないということがおこるのが多重人格の特徴、勝手に切り替わる。一方通行的忘却。
同一性:その人が一人の人としてつながっている。
多重人格という言葉は今あまり使われない。解離性同一障害の中に含まれる。同一性がばらけている。同じ身体の中でそれぞれの人格がまとまっている。まとまりをパーソナリティと呼んでいる。
同一性とは、
- 過去・現在・未来の時間軸でつながっているという実感。
- 他でもない自分であるという実感。
私たちは場に応じて意識的に意図的に自覚しながらふるまいを変える。多重人格は無意識に勝手にこうなる。だから病気。自分でやっているとは思っていない。でもあきらかに自分がやっている。自分で自分をコントロールできれば病気ではない。
講談社プラスアルファ文庫『イヴの3つの顔』1950年代
『シビル』『私の中の他人』ハヤカワ文庫:1960年代
シュライバー著、 16人格、イヴを知っている、多重人格者がふえはじめる。
『24人のビリー・ミリガン』ハヤカワ書房:1970年代後半
ダニエル・キイス著 シビルのケースを知っている。アメリカで多重人格者が激増。
北米に多い。自己主張が強いという下地がある。
こういう病気があるのを知ることで病気になる、意識はしていないが、なりやすい素地をもっている人が反応する。文化の中に反応レパートリーがある。社会の中でつくられる。
私たちは本当に意図的に意識的に自覚的に動いているわけではない。そう思いたい、という場合もある。
1970年代後半日本では記憶喪失が激増。自分を殺して人を生かすという文化が下地にある。
パーソナリティは文化の中に何があるかでずいぶん異なってくる。
パーソナリティはつくられる。
多重人格になる要因
虐待⇒アメリカでは虐待の基準が低い。
身体的虐待・精神的虐待・性的虐待
親⇔子 同じ相手(親)に対して苦しみと愛情というマイナスとプラスの相反する思いをもつ。この二つの思いに適用しようとして努力の結果、無意識に多重人格になってしまう。強いストレスにさらされる。
アメリカでは心の問題の原因がみんな虐待にあるという話になってしまう。虐待の事実がないのに、あったかのように記憶がすりかわってしまうこともある。
記憶が再構成される。オーディオテープのようにそのまま記憶がはいっているわけではない。客観的な記録ではない。
私たちは記憶をつくろうとしている(カウンセリングにとって重要なこと)
都合のいいように思いとどめ、都合のいいように思いおこす。
虐待の事実を追究することではない。
それが苦しい思いとしてクライエントにある。その苦しみをやわらげていくのがカウンセリングにとって重要なこと。
記憶との関連で-
苦しい思いだけが残ってしまう、という事実。(臨床的に)
ex.PTSD(脳内の伝達機能によっておこるのではないか、と言われている)
安心できる場で発散するという方法で解決していくことができるのではないか。発散したからといってその苦しみを忘れないでいるしっかりとした自分でいることが大切。忘れようとすればするほど忘れられなくなってあくせくする。
REM睡眠:眼の筋肉は休んでいるが脳波は起きている。
Rapid(急速) Eye(眼) Movement(運動)
視覚的イメージの強い夢をみることが多い。疲れている時眠りにはいってすぐこういう状態になりやすい。かなしばりは生物学的現象。
資料NO.2
心理学的用語としての人格と性格
人格:北米で使われる、オルポートが使い始めたのがきっかけ。アメリカの人は横にずらす考え方。
性格:ヨーロッパの人が圧倒的につかっていた。ヨーロッパの人は縦に積み重ねる。
層という考え方をする。
第二次大戦以降、学問の中心はアメリカに移る。性格研究ではなく、人格研究がなされるようになった。
ヨーロッパの体液学説(2世紀、ガレノス)
火-黄胆汁
電気-血液
水-粘液
土-黒胆汁
これらがまざって「気質」になる、まざりぐあいによって性格にちがいがある、土星とのつながり、形のない心を形あるものとして捉えようとした現れである。四大元素と深いかかわりがある。
天文学・シェイクスピアとのつながり
形のない心をどう捉えるかがパーソナリティ理論
1.類型論-Typolagyタイプ、ある個人はどこのグループに入るかを考えていく。
2.特性論-trait、treary、明るい・いい人・強い人etcという分け方にはそれぞれ程度がある。どの程度どんな特徴をもっているかを考えていく。
3.力動論-dynamic theory 心の中の力関係(葛藤)を問題にする。
クレッチマーの類型論:20世紀初頭の精神科医、ヨーロッパ
当時の3大精神病
①精神分裂病(統合失調症):思春期におこる、自分から何かしようとしない、支離滅裂、関係に敏感になる。
②躁うつ病-罪の意識にさいなまれる妄想。気分の病気。一般の気分の落ち込みとは違う、お先真っ暗な沈み方、中年期におこる。
③てんかん-神経の病気、今では精神病ではない。脳の中で電気が波のようにおこる状態。薬で治る。
それぞれの体格に特徴がある。また、精神病患者がもつ特徴は、一般の人の中にもある。そういう一般人の中にある特徴は体格と関係がある。『体格と性格』、いまではあまり取り上げられることはない。
問題点①年齢によってなりやすい病気がある。体格のちがいは年齢のちがいであって、病気との関係ではない。②主観的な分け方、見た目に左右される。印象形成、社会心理学の域。
Jungユング:精神分析論者
内向型・外向型⇔特性論の表現のもとになったことば。
リビドー(心のエネルギー)がどちらに向かうかによってタイプが異なる。
フロイトと仲たがいにしてしまう、フロイトはもともとは神経について研究していた科学者。ユングにとってショックなできごと。
フロイトに最初に切り捨てられたアドラー(内向型)とフロイト(外向型)との様子をみていて何故二人はうまくいかないかを考えた。人間には違うタイプがあるということから出発して内向型と外向型にわける。
個人的な体験・思いが普遍的な理論になっていく。
ドーパミン・アドレナリン・セロトニン→脳内の神経伝達物質、なんらかの形で心の働きとかかわっている。名前をつけて形があるように思えると安心できるように思える。これで心が決まるとわかれば安心できる。
特性論
いろんな人がいろんなことを言ってきた中に共通して出てくるものがある。
5因子モデル-この5つがあれば個人の特性を十分説明できるであろう
・情緒不安定性:神経症傾向
・外向性:ユングの外向型
・経験への解放:物事に心を開けるか
・協調性
・良心性:誠実性
力動論
いろんな心の中のぶつかりあいに基づいて考えていく。精神分析が中心。
フロイト『夢判断』(1900年)(ウィーンで仕事をしていた、ドイツ語)
精神分析という方法:お話治療の基本をつくった。(19世紀の終わり頃)
人間は意識の表に出ていない無意識の部分が多くある。それ故に心身の悩みが生じる。身体の症状に出て来る-心因性-さらに追究していった。
フロイトの精神装置図(心のモデル)
ES(無意識):心の中のつきあげ、欲求、欲望、
セクシャルな部分のたまり場、英語ではId「それ」itに相当する。
- 言いにくいことを間接的にあらわす。
- 自然現象をいいあらわす(天気など)
自分の中にあって自分の思いどおりにならないもの、という含みをもつ。欲求は必ずしも思いどおりにはならない(自分の中の自然現象をあらわす)
↓
抑制がはたらく、私がいろんな思いに折り合いをつけようとする。
ICH(意識):私がいろんな思い、つきあげの折り合いをつける
私、英語では自我(ego)
パーソナリティを決める要因
- ES(無意識):人によってこだわり、なにをしたいかはちがう、どういう欲求につき動かされるかは人によってちがう。ああしなければ、こうしなければ・・・にがんじがらめになっている人もいる。
- UBERICH(超自我):super ego 上位にある自我(自分の上にあって自分をみはっているもの)良心・道徳など。
- ICH(自我):ego 私のとりなし方(防衛機制)・自我の調節の仕方、
精神-性発達:比喩的にとらえていく、
大人の心の中をみてみると子供時代にこういう発達をしてきたに違いないとフロイトが再構成した発達モデル。実際に子供はこういう発達をしていない。
0歳:口愛(唇)期 oral phase
お母さんに。オッパイをもらう時期(人まかせ) 口まわりの欲求に支配されている。
依存的=かみつく、あくなき欲求 日本語では「甘え」 依存の表現 味覚 『甘えの構造』土居健郎 もう少しして歯が生えて来ると十分に満たされない部分にこだわる。
「くってかかる」という表現は攻撃的な意味あいをもつ
1歳半:肛門期 anal phase
トイレットトレーニングの時期(おしめのしつけにかかる時期)
自分を律することができるかどうかがテーマ。肛門を閉める、ゆるめるを自分の意思で できるかどうか。
ケチは肛門性格の代表:しまり屋
3歳:男根期 phallic phase
エディプス期 男根は男の子にとって力の象徴
エディプスコンプレックス Oedipus Complex
「エディプス王」ギリシャ悲劇のひとつ、父親殺しがテーマの物語
男の子には父親を殺して母親を手に入れたいという普遍的な思いがある。同性である父親に競争心をもつ=同一化。でも手に入れることはできない。だからComplex 自分はお父さんと同じだからお母さんにかわいがってもらえる、と考えることで自分の思いに折り合いをつける。強くなる。競争心が生まれくる。なんでもかんでも競争としてとらえる性格になってくる。親の価値規範をとりいれていくことでもある。
→力を抑えつけようとする。男の子がもっている力を刈り取る、「おまえのようなチビにはなにもできない」と大人が言う-去勢と比ゆ的に言う。
女の子の場合はどうか
エディプスコンプレックスをひろげていくと同性の親を殺して異性の親を手に入れたいというエレクトラコンプレックスになる。しかし、男の子と女の子には親とのありように違いがある。質的なちがい。
女の子は手に入れたものをすててしまう。
→思春期になると自分の支えになるものを失う
→思春期の不安定のもと、摂食障害等女の子がなりやすい。エディプスコンプレックスだけでは説明しきれないということ。
資料NO.5
自我の発達と病理
基本的信頼感(エリクソン)
自分が自分として存在している価値がある人間なんだということを実感として感じ取ることができている。特に母親との関係が背景にある。
対象関係論
対象-親のイメージ-自分の中で世界を作っている(ユニコット)-自分が安心していられる-自分が存在していいんだ。
自分にオッパイをくれるお母さんもオッパイをくれないお母さんも一つのお母さん像としてまとまっていく。
心の中の親のイメージとのつきあい方。自分の心の中にどういう親イメージがつくられていくか。子供が母親の姿がみえなくなっても一人でいられる→お母さんのイメージが心の中にできるから戻ってくるという確信がある。いいお母さんも悪いお母さんも一人のイメージとしてまとまってくる。
防衛機制
いい防衛機制と悪い防衛機制がある。どういう防衛機制を使うかがその人を特徴づける。心のまとまりの悪さの目印として精神病ということばを使う。逆により健康度の高いまとまりのあるものとして成熟した防衛という言い方をする。
成熟した防衛は心のとりなし方、自我のはたらき。
なんの加工も加わらない、そのままであるのは問題。
普通は人間の思考に加工が加わる。そこに防衛ということが関わってくる。
そのままということは、心のはたらきがないということになるのでありえない。
カウンセリングは上手に防衛する術を身につけるものであるということができる。
上手に防衛する。そういうことを援助していくのがカウンセラー。