「大草原の小さな家」への旅_ミネソタ州ウォルナット・グローヴ_父さんの鐘
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/a22798ce539904aa1e4c4334fbb37c32
「大草原の小さな家」への旅_ミネソタ州ウォルナット・グローヴ_プラム・クリーク(1)
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/ffd428bd2c2d34ae994c23600a2d0739
「大草原の小さな家」への旅_ミネソタ州ウォルナット・グローヴ_プラム・クリーク(2)
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/3722fadbf28aa7befc137abd8f325fd6
「昼ごはんがすむと、とうさんは洗いたてのワイシャツを着て、ヴァイオリンの箱から三ドル出しました。あたらしいブーツを買いに町へ行くのです。その週は、馬たちは毎日労働していたので、家で休ませるために、とうさんは歩いて出かけました。
その日の夕方、とうさんはかなりおそくなって帰ってきました。ローラは、クリークのザリガニの巣の所であそんでいたので、とうさんの姿が丘に見えると、ジャックといっしょに丘をかけのぼって、とうさんのあとから家へはいりました。
かあさんは、ストーブの前で土曜日ごとの仕事のパン焼きをしていて、天火からパンをとりだしながらふり向きました。
「ブーツはどうしたんですか、チャールズ?」かあさんはびっくりしてききます。
「じつはな、キャロライン」とうさんはいいました。「町でオルデン牧師に会ったら、教会の鐘楼に入れる鐘のための資金が、どうしてもたりないって言うんだ。町の連中は、みんなできるかぎりの献金をしたんだそうだが、ちょうど三ドルだけ不足だったのさ。それで、その分を献金してきたんだよ」
「まあ、チャールズ!」かあさんは、ただそういったきりでした。
とうさんは、口をあいたブーツを見おろしました。「なに、もう一度つぎをあてるさ。なんとか繕えるだろうよ。それに、信じられるかい、あの教会の鐘は、ここまでちゃんときこえるそうだよ」
かあさんは、あわててストーブのほうを向いてしまい、ローラはそっと出ていって、戸口の段にすわりました。のどがしめつけられて、きゅっと痛みます。とうさんがあたらしいブーツを手にいれるのを、ローラはどんなにか待っていたのに。
「いいんだよ、キャロライン」とうさんの声がきこえてきます。「小麦の刈り入れも、もうそう先のことじゃないんだから」」
(ローラ・インガルス・ワイルダー著・恩地三保子訳『プラム・クリークの土手で』2002年11月20日初版、2012年3月5日第5刷、福音館書店、236-237頁より)
「暗い空に、星は、小さく、霜がついたように見えます。馬の蹄が、かたく凍った地面にカッカッと鳴り、馬車はガラガラ音をたてて走ります。
とうさんが、何かほかの音をききつけました。「ドウ、ドウ!」とうさんは手綱をひきました。サムとデイヴィッドが足を止めます。でも、あたりは一面に暗く、寒く、静まりかえっていて、ただ星が光っているだけでした。すると、その静けさのなかから、美しい音がひびきわたりました。
澄んだふたつの音色が高くひくくひびき、また間をおいてふたつ、そしてまたふたつ。
みんなじっとして耳をすまします。サムとデイヴィッドだけが、くわのはみをチャラチャラいわせ、フーッと息をしました。このふたつの音は、高くはっきりと、ひくくやさしく、いつまでも鳴りつづけています。まるで、星が歌っているようでした。
もっときいていたいのに、かあさんが小声でいいました。「そろそろ出かけましょうよ、チャールズ」そして、馬車はまたガラガラ走りだしました。でも、そのガラガラいう音をむって、ローラには、ゆれ動くその音をきくことができたのです。
「とうさん、ねえ、あれなんの音?」ローラがきくと、とうさんはいいました。「あたらしい教会の鐘の音だよ、ローラ」
このために、とうさんは、古いつぎだらけのブーツをはいていたのでした。
町は眠っているようでした。店の前を通ると、なかは真暗です。すると、ローラは声をあげます。「ねえ、教会を見て!なんできれいでしょう!」
教会にはあかあかと灯がともっています。どの窓からも明かりがこぼれだし、だれかを入れるために扉がひらくと、おもての闇に明りがどっと流れでるのです。馬が止まるまでは、けっして立ちあがってはいけねいといわれているのに、ローラは、思わず毛布からとび出しそうになりました。」
(同、303-305頁より)
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/a22798ce539904aa1e4c4334fbb37c32
「大草原の小さな家」への旅_ミネソタ州ウォルナット・グローヴ_プラム・クリーク(1)
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「大草原の小さな家」への旅_ミネソタ州ウォルナット・グローヴ_プラム・クリーク(2)
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/3722fadbf28aa7befc137abd8f325fd6
「昼ごはんがすむと、とうさんは洗いたてのワイシャツを着て、ヴァイオリンの箱から三ドル出しました。あたらしいブーツを買いに町へ行くのです。その週は、馬たちは毎日労働していたので、家で休ませるために、とうさんは歩いて出かけました。
その日の夕方、とうさんはかなりおそくなって帰ってきました。ローラは、クリークのザリガニの巣の所であそんでいたので、とうさんの姿が丘に見えると、ジャックといっしょに丘をかけのぼって、とうさんのあとから家へはいりました。
かあさんは、ストーブの前で土曜日ごとの仕事のパン焼きをしていて、天火からパンをとりだしながらふり向きました。
「ブーツはどうしたんですか、チャールズ?」かあさんはびっくりしてききます。
「じつはな、キャロライン」とうさんはいいました。「町でオルデン牧師に会ったら、教会の鐘楼に入れる鐘のための資金が、どうしてもたりないって言うんだ。町の連中は、みんなできるかぎりの献金をしたんだそうだが、ちょうど三ドルだけ不足だったのさ。それで、その分を献金してきたんだよ」
「まあ、チャールズ!」かあさんは、ただそういったきりでした。
とうさんは、口をあいたブーツを見おろしました。「なに、もう一度つぎをあてるさ。なんとか繕えるだろうよ。それに、信じられるかい、あの教会の鐘は、ここまでちゃんときこえるそうだよ」
かあさんは、あわててストーブのほうを向いてしまい、ローラはそっと出ていって、戸口の段にすわりました。のどがしめつけられて、きゅっと痛みます。とうさんがあたらしいブーツを手にいれるのを、ローラはどんなにか待っていたのに。
「いいんだよ、キャロライン」とうさんの声がきこえてきます。「小麦の刈り入れも、もうそう先のことじゃないんだから」」
(ローラ・インガルス・ワイルダー著・恩地三保子訳『プラム・クリークの土手で』2002年11月20日初版、2012年3月5日第5刷、福音館書店、236-237頁より)
「暗い空に、星は、小さく、霜がついたように見えます。馬の蹄が、かたく凍った地面にカッカッと鳴り、馬車はガラガラ音をたてて走ります。
とうさんが、何かほかの音をききつけました。「ドウ、ドウ!」とうさんは手綱をひきました。サムとデイヴィッドが足を止めます。でも、あたりは一面に暗く、寒く、静まりかえっていて、ただ星が光っているだけでした。すると、その静けさのなかから、美しい音がひびきわたりました。
澄んだふたつの音色が高くひくくひびき、また間をおいてふたつ、そしてまたふたつ。
みんなじっとして耳をすまします。サムとデイヴィッドだけが、くわのはみをチャラチャラいわせ、フーッと息をしました。このふたつの音は、高くはっきりと、ひくくやさしく、いつまでも鳴りつづけています。まるで、星が歌っているようでした。
もっときいていたいのに、かあさんが小声でいいました。「そろそろ出かけましょうよ、チャールズ」そして、馬車はまたガラガラ走りだしました。でも、そのガラガラいう音をむって、ローラには、ゆれ動くその音をきくことができたのです。
「とうさん、ねえ、あれなんの音?」ローラがきくと、とうさんはいいました。「あたらしい教会の鐘の音だよ、ローラ」
このために、とうさんは、古いつぎだらけのブーツをはいていたのでした。
町は眠っているようでした。店の前を通ると、なかは真暗です。すると、ローラは声をあげます。「ねえ、教会を見て!なんできれいでしょう!」
教会にはあかあかと灯がともっています。どの窓からも明かりがこぼれだし、だれかを入れるために扉がひらくと、おもての闇に明りがどっと流れでるのです。馬が止まるまでは、けっして立ちあがってはいけねいといわれているのに、ローラは、思わず毛布からとび出しそうになりました。」
(同、303-305頁より)