平和と安全保障のテーマで、英国からの平和フェローP氏よりタンザニアでの食糧安全保障について、ユニークなフィールドワークが紹介された。タンザニアは人口の87%が農業で、最近の気候変動で多くの作物の種類を毎年換えなければならない事態に遭遇している。従来だと聞き取り調査が主体となるのであるが、P氏はビデオカメラを各地の農民に貸し、自分達の生産物と生産過程を撮影してもらった。
そして撮影した情報量は聞き取り調査とは比較にならない膨大なもので、成果を今度は各地を回って上映会を開催した。農家は形ある成果を求め、自分達と異なる生産物や生産方法に刺激を受け、対話が生まれ、討論が行われ、ネットワーキングが構築できた。映像のインパクトは農業だけでなく、鳥の飼い方でも、こんな方法もあるのだと気付きが起きた。つまり、農民達の知識の共有ができたわけで、どこに支援をすれば効率が良いかも解ってくる。
アフリカではまだインターネットが普及してないが、将来は上映会がネット上に替わることになると予想される。それには電力などインフラの整備が必要だ。それにしてもビデオカメラを農民に貸し、自分の自慢するものを撮影させるとは目の付け所が素晴らしい。識字率が低いアフリカでのフィールド調査は難しいという概念を打破したのは若い研究者だからできたと言える。
平和と開発のテーマではS氏のシエラレオネでの鉱物開発での研究が印象的だった。シエラレオネでの鉱物開発はもっぱら儲かるダイヤモンド、金、銀と行ったものに集中し、道路などインフラには投資がなされてこなかった。農民は悪路で農産物の運搬に悩み、他の産業への影響も大きく、住民も交通に不便を甘受してきた。S氏は豊富にある花崗岩に注目し、これまで価格の安い花崗岩は見向きされなかったが、これを利用して道路を整備を提案している。政府、業界、個人が対話をし、環境破壊になる集中開発より、低価値の花崗岩などを開発することにより、住宅、道路を整備することにより雇用を生み、教育や生活向上につなげ、紛争防止に役立てられる。
かつて、ヨーロッパの植民地であったアフリカは鉱物開発で穴だらけと揶揄されてきたが、環境破壊を防ぎながら他産業の発展が紛争防止に役に立つ、それには豊富にある花崗岩が住宅になり、学校になり、道路になるS氏の提案は素晴らしい。