カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

瞼の母

2016-05-07 00:18:08 | 依頼です、物書きさん。
愛情表現の歪んだ祈祷師といい年して捩じくれた根性の大人の、決して勝ってはいけない勝負の話

 貴方のお母さんが心配していますよと言われた俺は、祈祷師に向かって母の特徴を聞いた。当たり障りのない受け答えの末に祈祷師が言う母の特徴が全て的外れだと指摘すると、祈祷師は気の毒そうに『貴方を産んだ方のお母さんですよ』と言った。
 もしそれが本当なら、俺が今まで母だと信じていた女は一体誰なんだ?
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オフェーリアの香草(ハーブ)

2016-05-06 00:12:09 | 依頼です、物書きさん。
寂しがり屋な調香師とまともに会話が成立しない天才との絆をテーマにした話

 真の天才というのは凡人には決して理解出来ない思考形態を持ち、故に凡人には理解出来ない論理展開で物事を進めようとする。故に周囲の凡人全てから排斥され、彼等に対して己の言葉を使うことを諦めた彼は、とある調香師の錬成した香りによって己の感情を他人に伝えることを覚え、少なくとも彼等と感覚的な交流を行うことに成功した。
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邪眼の行方

2016-05-05 01:02:12 | 依頼です、物書きさん。
社交的だけど敵の多いピアニストと嫌味で心配性で粘着質な幼馴染みが段々おかしくなっていく話

 技術と表現力は高いが言動に問題が有り過ぎるピアニストは敵が多く、故に幼馴染みの俺は自発的に奴の敵に対して呪いを掛け、或いは跳ね返したりを繰り返していた。だが、ある日幼馴染みは俺にまで牙を剥いてきて、結果として俺は奴を呪った。それなのに奴は無傷のまま日々を過ごし、俺は初めて己の能力に疑問を持つことになる。
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黒い医者の苦悩

2016-05-04 12:02:58 | 依頼です、物書きさん。
数年前の過去から来た医者と論説好きの無神論者が理不尽な現実から幸せな夢へ逃げる話

 医療によって傷病という淘汰から逃れた命の集積がいずれ地球を食い潰すのだとしたら、一体医者は何の為に存在するのでしょうね。そんな医者の戯言に彼は『木々は枯れ、鉄は錆び、築き上げたものは必ず倒れる、そこに己なりの意味を、呪いでも救いでも好きに見出して進む以外の道があるか?』と笑ってみせた。
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深淵を覗く者は

2016-05-04 11:57:45 | 依頼です、物書きさん。
加害者意識の強い幼稚園児と紳士的な初老の男が始めてしまった夜明けのこない百物語

 僕は悪魔なんだよと言う幼児の言葉を、老紳士は真に受けなかった。すると幼児は僕の話を聞いたら考えが変わるよと続け、老紳士は話を聞き始めたが、その少年が自ら行ったという狡猾で残忍な内容の打ち明け話は確かに悪魔と呼ばれるに相応しいものだった。それでも尚、老紳士は怯む事なく話を聞き、やがて世界に朝が訪れた。

 訪れた、筈だった。
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春が来る

2016-04-29 12:50:04 | 依頼です、物書きさん。
愛されることが下手な春売りさんと迷子の子どもの「はじめまして」から「さようなら」まで

 昔、迷子になった見知らぬ街で春売りのお姉さんに出会ったことがある。籠の中で蠢いていたハムスターのような生き物は、上手く育てれば全長四〇メートル体高三〇メートルに及び、背中に奇麗な桜色の花を咲かせたまま何処にでも春を運んでいけるようになるのだそうだ。一匹欲しかったが、その時の私はお金がなかったので仕方なく諦めた。やがて目的地に辿り着いてからよく考えてみると、その『春』は己の巨体で街を含む周囲を全て薙ぎ払い、破壊の限りを尽くしながら進んでいくのではないだろうかと思い至った。
 以来あの街に足を向けたことはないが、お姉さんは未だに春を売っているのだろうか。
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星の下のクラウン

2016-04-28 19:01:33 | 依頼です、物書きさん。
不眠症の写真家と地味過ぎて目立たない大道芸人、二人のせつないごっこ遊びの話

 眠れないままの散歩中に訪れた真夜中の公園で、年老いた道化師と出会った。古くさいが凝った衣装とメイク姿の彼は、自分はピエロじゃなくてクラウンなんですと笑ってからぎこちなくボールを操って見せ、僕はそれを写真に撮った。夜の灯に浮かび上がった道化師の写真は何処からも需要がなかったが、僕はそれを簡易製本して道化師に渡した。
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割れ鍋には綴じ蓋を

2016-04-27 00:34:26 | 依頼です、物書きさん。
二重人格の長女と迷惑なほど気を回してくる不良、その関係を観察する人物視点の話

 外面だけは異様に良いが身内には非常に暴力的になる姉ちゃんが、何か知らないうちに古き良き時代の不良に目を付けられたらしい。止めておけば良いのにと思いながら放置したら案の定関係は泥沼化し、いつの間にか暴力的な彼女と口うるさいヤンキーという組み合わせの、いつの時代の少女漫画だよという突っ込み必至の校内公認カップルに成り果ててしまった。
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愛こそ全てなら、何故に彼等は

2016-04-26 00:19:58 | 依頼です、物書きさん。
恋愛守備範囲が破綻している小学生とさらっと人を蹴落すサラリーマン、彼らの些細な嘘だけが命綱となった事件

 貴方が好きですと小学五年生の少女に告白された二六歳のサラリーマンが取るべき行動として、親御さんに会いに行くと言うのは些か唐突すぎたかも知れない。が、訪れた少女の家で再会した随分と尊大なライバル会社の部長は愛娘の決意に顔色を変えて狼狽え、事態と僕の立場は随分と面白いことになる。ただ、その時の僕は何故、少女が僕を選んでそんな嘘を吐いたのか全く判らなかった。
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歩み寄る命

2016-04-25 00:08:41 | 依頼です、物書きさん。
じさつするつもりの法律家と一年以上口もきいていない兄が幸せになる話

 人間は往々にして他人の痛みには鈍感で、しかもその痛みが己の理解の範疇外だった場合は大概、的外れか無関心か冷酷かの三択対応となる。そんな訳で法律家の弟の心ない言葉に深く傷付いたまま1年以上も口をきかなくなった兄が、実は自分が口をきかないことで弟に対して同じ痛みを与えていたのだと気付いて心から謝罪した時、結果的にではあるが自ら命を絶とうとしていた弟を救った。
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