学生時代の級友に、数学と天文学が得意と言うよりは愛していると称するべき相手がいた。この曖昧な世界に於いてそれらは揺るぎない法則であり、世界を読み解き神に近付く手段であるのだと。だが奴は若くして事故で命を落とし、遺された本には天使を思わせる白い羽が挟まれていた。
学生時代の級友に、数学と天文学が得意と言うよりは愛していると称するべき相手がいた。この曖昧な世界に於いてそれらは揺るぎない法則であり、世界を読み解き神に近付く手段であるのだと。だが奴は若くして事故で命を落とし、遺された本には天使を思わせる白い羽が挟まれていた。
幼い頃に母を亡くしたという作家の描く女性は幽玄かつ儚い、そして時には心臓を掴まれる程に艶めかしい存在であり、筆名も相まって特に年若い読者は作者に美しい女性の姿を連想するらしいが、現在残る作家の写真には、線こそ細いが髪を分け眼鏡を掛けた中年男性の姿が映っている。
桜は死者の霊魂が宿りやすい樹木で、花が咲く時期になると生前の姿に似た鬼が現れることがある。そんな桜鬼は桜に見惚れる人の心を空っぽになる間で喰らい尽くし、花が散ると再び眠りにつくのだそうだ。そして心を喰われた人は、虚ろとなった心を抱えて再び花の季節を待つのだと言う。